Interlude ルームツアー1
「キッチン広い!」
唯衣が目を輝かせながら振り返る。
レオはその手を握ったまま、 静かに頷いた。
「唯衣が好きに使っていい」
「使いやすいって言ってたフライパンとか、調理器具も揃えてある」
「え、いつの間に!?」
「前、一緒に買い物行った時」
平然と言うレオ。
たぶん唯衣は覚えていない。
でもレオは、 何気なく零した“好き”を全部拾っている。
「ここは書斎?」
ガラス扉の向こうを覗き込みながら唯衣が聞く。
「少し仕事持ち帰ることもあるかもしれないから」
レオは部屋を見ながら続けた。
「仕事きり上げても、できるだけ一緒に夕飯食べたいし」
「唯衣が休みの日は、俺も休む」
「リモートできるように防音にもしてある」
その言い方があまりにも自然で、 唯衣は少しだけ笑ってしまう。
仕事のための部屋なのに、 結局基準が全部“2人の時間”なのだ。
唯衣の顔が綻ぶ。
「うわ〜! このソファ好きな硬さ!」
唯衣は嬉しそうにソファへ飛び込んだ。
「前に買い物行った時、好きって言ってただろ」
「うん! 好き!」
唯衣はぱんぱんと隣を叩く。
「レオ、隣座ってみて!」
レオが素直に腰を下ろすと、 唯衣は満足そうに頷いた。
「いい! これすごく好き!」
「……そう」
「レオに膝枕しやすい!」
数秒、沈黙。
レオ、停止。
俺のため?
この硬さ、 俺を膝枕するために好きって言ってたのか?
頭の中のレオ、 たぶん今めちゃくちゃ跳ねてる。
もし獣耳としっぽが出ていたら、 絶対ぶんぶん振っていた。
でも表面上は、 なんとか平静を装う。
「……それは、重要だな」
声だけ少し低い。
「……寝室みていい?」
唯衣は少しだけ上目遣いでそう言った。
その言い方が、 ほんの少し照れている。
レオは一瞬だけ視線を逸らしてから、 静かに手を差し出した。
「行こう。こっち」
ソファから立ち上がる唯衣を自然にエスコートする。
まるで、 もう何年もそうしてきたみたいに。
寝室は、 他の部屋より少し照明が暗かった。
落ち着いた色味。 柔らかい間接照明。
そして部屋の中央には、 問題のベッド。
唯衣は数秒それを見つめてから、 ゆっくりレオを振り返る。
「……レオ、部屋の割にやっぱりベッド小さくない?」
「ん?」
「レオの前の家って、キングサイズだったでしょ?」
「2人で寝たら、狭く感じないかな?」
レオ、 沈黙。
たぶん今、 “狭いのがいい” をどう誤魔化すか考えてる。




