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第11話 シロ

昼、端島基地。


怒ってるだろうなぁ、なんて言い訳しよう・・・・・・。

なんで怒ってるかはよく分からないが、その答えが見つかる前に部屋の前に着いてしまった。ええい、怒鳴られたらその時はその時だ!意を決して自分の部屋に入る。


「ただいまぁ・・・・・・」


ドアを開けるといつものタンクトップにショートパンツ姿の藍さんが仁王立ちで立っていた。

何も言わずにめっちゃ睨んでくる、怖い。


「あ、えっと、どうかしました?」


誤魔化せないよなと思いつつ、頬をポリポリ掻いて脇を通りすぎようとするも、右腕をガシッと掴まれる。


「貴方は誰なの?」


「え?」


誰って、それは・・・・・・。でも返答に困った。


「誰なの!!」


ギュッと一段と力強く腕を握られる。

真っ直ぐボクを睨みつける藍さん、その瞳は写真で見た啓さんにそっくりだった。んー、ボクって誰なんだろ・・・・・・、さっきまではすぐ答えれたけどなんだか自分がわからなくなってきた。


「ボクは、誰なんでしょう・・・・・・」


「はぁ!?」


ボクの言葉に藍さんは何言ってんだクソボケが!と言わんばかりに眉間に皺を寄せて更に睨んでくるが、お前は誰だ、と聞かれれば何故か自信が持てなかった。


「何言ってんの馬鹿じゃないの?ソラはソラ!ツバサでもツルギでもない!貴方は伊波宙なの!」


それは表向きだ。でも、彼女の言いたいことは分かる。


「ボクは・・・・・・」


ツルギでありツバサでありソラでありニグルムであり、名前の無い孤児だ。

それを言ってしまったら藍さんに叩かれそうだから黙っておくことにしよう。結さんもどこかボクにツバサお兄ちゃんの面影を探している気がするし、リュウお姉ちゃんも黒木さんと結婚するそうだけど、ボクにツルギの面影を感じていた。


ボクはボクだけのものじゃない。


「そうですね、ボクは伊波宙です」


あまり彼女に心配かけさせたくもないし、何を言っても彼女に怒られそうだ、ニコッと笑って返すと。


「納得してないでしょ?」


もー、変なところは察しがいいんだから。

これは隠しても無駄か。


「バレました?」


へへへ、と笑ってもまだ掴んだ腕を離してくれない。


「一発殴らせて」


「お願いします」


彼女がそれでスッキリするならそれで良かったし、優柔不断なというか自分の事を何も分かってないボクに一喝入れて欲しかった。別にドMって訳では無い。


「バカッ!」


みぞおちに一閃。


「ぐっ!!」


いやー、いいとは言ったけど見事に入ったのであろう、思っていた10倍の痛たみが走ったと思うと目の前が真っ白となり、情けないことに気を失ってしまった。



「キミ、ひとり?」


街の隅でうずくまっていると声をかけられた。


ボクはその問いに顔も上げずに一回頷くだけ。


「そうか、一緒に来る?」


一緒に?どここに?声をかけた人がどういう意味で言ったかは分からなかったがお腹がすいて考えることが出来ず、ボクはただ差し出された手をとった。


「歩ける?」


また一回頷くと彼は僕の手を引いて道を歩き出す。


ふと顔を上げて彼の顔を見ようとすると、男の人だろうけど小柄で白髪の人だった。


白髪?


おじいさんのような声ではなかったけど、そこまで考えると。


ぐぅー、とお腹が鳴ってしまう。


「家に着いたらなんか食べよっか」


ボクはまた一回頷いた。



レンガ造りのやや古めかしいアパート。


その三階に案内され、キッチンとリビングが一緒になった部屋の椅子に座らされる。


「ちょっと待ってて」


白髪のその人が冷蔵庫や戸棚をガタガタと漁っている間に部屋をキョロキョロと見渡す。家具もほとんどなく、小さなテーブルと木製の椅子が二つに、アルミパイプ製のベッド1つとテレビが一台、本当にここに住んでるの?と疑問に思うほど何も無かった。と、直ぐにパンとスープが出てきた。


「一気に食べると良くないからさ、とりあえずこれを食べて」


そこでようやく見た彼の顔、白髪なのにおじいさんでも、おじさんでもない、お兄さんでもない。ボクから見てもわかる、まだ子供だった。でもなんだか頼れる大人の雰囲気が漂っている、不思議だ。


ボクは差し出されたパンを頬張り、喉をつまらせながらスープを飲む。


久しぶりのまともな食事、無我夢中で食べ続けた。


そして全て食べ終わった時、我に返った。


「あ、ありがとう、ございます・・・・・・」


そう言うと彼はニコッと笑ってくれた。


「よかった、喋れるんだね」


両頬に頬杖をついてニコニコな彼。

なんでなんにも関係ないボクにこんな事をしてくれるのだろう、聞こうにもなんて言ったらいいか分からずじっと固まっていると。


「僕の名前はシロ、キミは?」


ニコニコな笑顔で名乗られた。このお兄ちゃんはシロって名前なのか、でもボクには名乗る名前が無かった。


「名前、ないんです・・・・・・」


俯いて言うと、うーん、と何やら考え込むお兄ちゃん、どうしたんだろうと首を傾げ待っていると。


「ニグルム!」


「え?」


「これがキミの名前!・・・・・・いや?」


「え、あ・・・・・・」


名前?なに?と状況が読み込めず更に固まっていると。


「よろしくね!ニグルムくん!」


「え、あ、よ、よろしく、お願いします・・・・・・」


満面の笑みで言われるものだから圧倒されて受け入れてしまった。


ニグルムか、意味は分からないけどいい名前だなと思った。


これは確かボクが5歳。

シロお兄ちゃんが14歳の時の話だ。



それからボクは彼に色々なことを教わった。


生きていく上で必要なこと、人との接し方、この国の状況など、それはもう色々だ。


そして、シロお兄ちゃんは家族全員でスパイとしてローレニアの王家に仕えていて、彼自身ももう親からは独立して別々に任務についているらしい。


子供のボクは王家に仕えるなんてスゴイぐらいにしか思っていないけど。


「また一人になっても大丈夫?」


「え?どこか行くんですか?」


シロお兄ちゃんの仕事も理解しているが、やっぱり離れ離れになるのは寂しかった。


「うん、仕事でね。二、三ヶ月後には帰れると思うから」


「分かりました・・・・・・」


彼がどこかに行くのもこれが初めてではないし、その間にボクもお兄ちゃんの伝で入れてくれた諜報員養成学校に通っている。ずっとひとりぼっちでは無い、そのぐらいなら我慢できたし、しないといけなかった。



それから何年経っただろうか、ボクも養成学校を卒業し、シロお兄ちゃんと同じようにスパイとして活動するようになっていた。


まだ子供だし任務も限られ、今は地方の諜報活動を主に行っていて、仕事中は父親役のスパイ仲間と二人行動をしていた。


シロお兄ちゃんのように、王家直轄の国と国を跨いだ凄い任務はさすがにしたこと無かったけどね。


そして今も彼に拾われて連れて来て貰った、レンガ造りのアパートで生活していた。


「ただいまぁ」


「おかえりなさい!」


お兄ちゃんが仕事から帰ってきた、今回の任務はちょうど一ヶ月ぐらいだったかな?玄関まで迎えに行ってえらく少ない荷物をもらう。


「ありがとう」


「いえ!夕食もできてますよ」


お兄ちゃんから荷物を受け取ると、ニッと微笑んで頭を撫でてくれる。ボクはそれだけでも嬉しかった。

そして、前日に帰る時間は聞いていたから、ボクの作った夕食が並べられたテーブルに先に座って待っていると。


「ニグルム、明日は暇?」


「え?あ、先週北の街に行ってきたんで、一応しばらく休みですけど?」


リビングについて上着をコート掛けにかけすながら聞くお兄ちゃん、なんだろう?また何か任務かな?と椅子に座ったまま首を傾げていると。


「僕も休みだからさ。遊園地とか、興味ある?」


「行きたいです!」


遊園地!?何そこ行きたい!

顔をパァァァァ!とキラキラさせてお兄ちゃんに駆け寄って行くと。


「わかったわかった!明日行こうね」


「でも、なにかの任務ですか?」


仕事脳というのか、この年でそんな思考はヤバイとは自分でも思っている。

そんなボクの問いかけに、お兄ちゃんは鼻で笑った。


「ふふ、プライベートだよ」


「やった!!」


ルンルンではリビングを駆け回りしゃぐボクを、お兄ちゃんは優しく見守ってくれていたと思う。



ローレニア連合王国王都「アブルニツィオ」郊外にある遊園地にお兄ちゃんと二人で来た。


遊園地の大きさはそれほど広大な面積!て程でもなく、それなりな地方の遊園地と言った感じ。だけど、観覧車やジェットコースター、ゴーカート、ウォータースライダー、バンジージャンプ、遊園地にありそうなものは一通り揃っていた。


「こういうとこに来るのは初めてですね!」


ボクは遊園地に着いて早々、ウキウキでお兄ちゃんの前を足早に歩く。


「ニグルムも頑張ってるからね、ご褒美的な?」


「シロお兄ちゃん程じゃないですよ!」


「だからお兄ちゃんはやめてって」


ボクもシロお兄ちゃんのためにそれなりには頑張っていた、反乱分子のいる地方に潜入したり。時には危険な任務、だけど子供のボクにしかできない事も多くやってきた。


そんなボクに比べたらシロお兄ちゃんの任務は天と地の差、本人から直接聞いたことはないけど外国の要人の暗殺、戦闘機に乗って王家の護衛など任務は多種多様、聞いただけで目眩がしそうだった。


だけど、そんな彼も僕の前では本当のお兄ちゃんのように接してくれる。お兄ちゃんと呼ばれるのはなんだか抵抗があるみたいだけど、周りに人がいない時とかは遠慮なしにシロお兄ちゃんと呼んでいた。


「何乗りたい?今日は僕の奢りだから遠慮しないで」


「やった!!じゃー、先ずはアレです!」


ボクは遊園地入って正面にある、人工なのか自然の物なのかよく分からないやや高い山の頂上から真っ逆さまに落ちるジェットコースターを指さした。


「え、あれ?」


「はい!行きましょ!」


なんだかシロお兄ちゃんの顔が曇ったようにも見えたが気のせいだ、あの程度のジェットコースターを怖がるような人じゃないし。ボクは彼の手を引っ張って絶叫ジェットコースターに急いだ。



「身長制限とかボクだってあれぐらい乗れるのに!」


物の見事に身長制限に引っかかってしまった。あとほんの二、三センチ、むー!と膨れているとスタッフに「また来てね」と頭を撫でられてしまった。ボクはそこら辺の子供じゃありません!!


「ですよね!お兄ちゃん!」


「うぇ!?・・・・・・あ、残念だったね!」


なんだか、ふー、と胸を撫で下ろしていたかのように見えた。


「もしかしてお兄ちゃん・・・・・・、怖かったんですか?」


「え!?」


肩をビクッとさせるお兄ちゃん、おやおやおや?


「そんなことないじゃん、あれより危険な任務たくさんこなしてるのに」


ニヒヒとなんだか引きつった笑顔のお兄ちゃん、んー?ほんとかなー?ま、いいか!


「ですよね!」


ボクは彼に飛びついて手を繋いだ。


「次はどうする?」


「仕方ないので、子供じゃないですけど子供用のジェットコースターにします」


「うん、(それなら)行こっか!」


「え?」


「ん?」


この人ジェットコースター嫌いだな、まあいいや、ボクはお兄ちゃんと一緒にいるだけで既に楽しい。繋いだ彼の手を引っ張って次のジェットコースターに急いだ。



一通りのアトラクションは乗り尽くして休憩がてら観覧車に乗っていた。


「お兄ちゃん、遠くに王宮が見えますよ!大きいですね!」


「おお、ほんとだね!」


窓ガラスにへばりついていると遠く霞んだ地の果てに国王が住まう王宮が見えた。


ボクはそれを見ると満足してシロお兄ちゃんの隣に座る。


「疲れたねぇ、降りたら何か食べる?」


「アイス食べたいです!」


「うん、それにしよう」


アイス、アイス、と足をばたつかせていると。なんだか突然今はまで気にもしていなかった、いや気にしないようにしていたことで頭がいっぱいになり、考えるよりも前に口から出ていた。


「なんで、ボクを助けてくれたんですか?」


孤児なんてあの時いくらでもいただろうし、何故ボクだけが助けられたのか分からなかった。あの時はまだ何も分かってない子供だったからかもしれないけど。


「そうだね・・・・・・」


シロお兄ちゃんは少し考える。


「助けることに理由なんてないよ。たまたまボクがニグルムを見つけただけ、それが偶然かどうかは分からない」


たまたま、確かにそうかもしれない。

あの時、ボクがあの場所にいなかったら、お兄ちゃんがあの場所に来なかったら、出会うことすらできていない。


「でも、必然はあると思うんだ。ニグルムもいつかわかる時が来るよ」


「・・・・・・はい」


そんなことがわかる時が来るのだろうか、お兄ちゃんみたいにすごいことができるような気がしない。

ボクは彼の手をギュッと掴む。


「シロお兄ちゃん・・・・・・」


「ん?」


「大好きです」


「うん、僕もだよ」


ボクはそう言って彼の肩に頭を預けると、気がついたら眠ってしまっていた。

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