猛獣のような唸り声
わたしはプチドラを抱き、アメリアの先導により教団本部内を歩くこと十数分、教団本部の建物の最も奥まったスペースにたどり着いた。廊下の突き当たりには教祖様の部屋、その手前にはコーブ事務局次長の部屋、事務局次長の部屋の対面には錠前が3重にかけられた「開かずの間」のような部屋が配されている。
「あの、カトリーナさん、やっぱり止めましょうよ。え~っと、今ならまだ……」
コーブ事務局次長の部屋を前にして、アメリアがわたしのユニフォームの袖を引っ張った。でも、ここまで来た以上、退けないのは当然。わたしは念のため、事務局次長の部屋をコンコンとノックし、応答が返ってこないのを確認した上で、ドアノブに手をかけ、「エイヤ」と一気に……とは(残念ながら)、いかなかった。
わたしは「はて」と首をひねり、
「鍵がかかってるのかしら」
「そうですか。そういうことなら、仕方がないですよね。え~っと、今日のところは部屋に戻って……」
アメリアは、少しホッとしたように言った。
わたしは(そんなアメリアには構わず)、とりあえずドアノブを握る手に力を込め、ドアを押したり引いたり、更には、たたいたり蹴飛ばしたり。しかし、ドアはびくともしなかった。鍵がかかっているなら、当たり前だろうが……
わたしは思わず、「ふぅ」とため息を一つして、
「開かない……」
ところが、その時……
「うおおぉぉぉ~~~」
どこからか(まだ距離的には結構ありそうだが)、猛獣のような唸り声が廊下に響いた。これは、今日は特に機嫌が悪いとされるキャンベル事務局長の声に違いない。ワンダリングモンスターのように、辺りを徘徊してきたのだろう。
アメリアは「ひぃ!」と悲鳴を上げ、
「戻りましょう! 今すぐわたしたちの部屋に、戻りましょう!!」
「戻るといっても…… ここから、歩いて? でも、もし、途中でキャンベル事務局長と鉢合わせになったりしたら……」
「ええっ!? そんなっ!!!」
すると、再び、「うおぉ」という猛獣のような唸り声が廊下に響いた。さっきより少し音が大きくなっているような気がする。事務局長がこちらに近づいているのだろうか。アメリアは、頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
唸り声は、その後も断続的に鳴り響いた。音量は、少しずつではあるが、確実に大きくなってきている。ということは、キャンベル事務局長とわたしたちの距離も確実に狭まってきているということで、いずれ発見される危険も高まっているということ。
でも、わたしには、プチドラという絶対的・最終的な切り札がある。キャンベル事務局長がいかに剛の者であっても、ドラゴンにはかなわないだろう。問題は、いつ、どのようにその切り札を使うか(できれば、使わずに済ませたい)ということだけど……




