コーブ事務局次長がいないうちに
わたしは久しぶりに、教団本部の自室の(居心地のよくない)ベッドの上で、プチドラを抱いて横になった。一方、アメリアは、所用とのことで遅れて自室に入ると、早速机に向かって何やら書き物をしている。コーブ事務局次長への報告書の類だろうか。わたしには、どうでもいいことだけど。
「そういえば、アメリア、今日はなんだか、コーブ事務局次長の様子がいつもと違ったような気がするけど、どうしたのかしら」
「それはですね、カトリーナさん、事務局次長は、これから非常に大切な用件で外出されるようです。この部屋に入る前に……、あっ、これは、え~っと、今のはですね……」
アメリアは、ハッとしたように口に手を当て、モガモガとうめいた。コーブ事務局次長の外出といえば、月に2回か3回、行き先を告げず、美しく着飾って出かけていくという、教団内の公然の秘密のことだろう。本部にいる信徒なら誰もが知っているのだから、慌てて口をつぐまなくてもよさそうなものだ。
「……ということは、アメリア、今日、コーブ事務局次長は教団本部からいなくなるのね」
「あっ、はっ、はい…… でも、それは、あくまでも……」
わたしは、半ば恐慌を来しているアメリアをよそに、内心、ニヤリ。コーブ事務局次長がいなくなる日には、キャンベル事務局長の機嫌も特に悪くなり、教団信徒は部屋にこもって息を潜めるのが通例とのこと。であれば、今日はキャンベル事務局長にさえ会わなければ、教団本部内を気兼ねなく自由に出歩くことができるではないか。この機会を有効に活用することにしよう。
そして、夕食後、夜も少し遅くなって……
「あの~、カトリーナさん、そういうことは、やはり、ちょっと……」
「構わないわ。これは、きっと、唯一神の思し召しに違いないわ」
わたしは右手にプチドラを抱き、左手で逡巡するアメリアの手を引っ張り、彼女を自室の外に連れ出した。廊下には、一定の距離を置いてランタンが灯されている。
「さて、まずは、コーブ事務局次長の部屋から始めましょう。アメリア、道案内よろしくね」
「ええーーーっ! それは、いくらなんでも!!」
アメリアは「コーブ事務局次長の部屋」と聞いて、びっくり仰天。でも、事務局次長が不在の今こそ、彼女の部屋を捜索する絶好の機会。わたしは嫌がるアメリアを無理矢理に言い聞かせて(具体的に何を語ったかなど、細かい経緯は省略しよう)、彼女の先導により(迷子にならないように)、教団本部の最も奥まったところにあるコーブ事務局次長の部屋に向かった。
その道すがら(突発事件勃発などという意味ではなく)、
「本当に誰も歩いてないのね……」
と、わたしは思わず独り言。結構な人数がいるはずの教団本部の建物内を歩いて、誰にも出会わないのは、なんだか少し違和感を覚える。それだけキャンベル事務局長が恐れられているということなのだろう。




