大量の武器を必要とする理由
コーブ事務局次長は椅子に座り直し、「ふぅ」と疲れたように息を吐き出した。よく見ると、少々腫れぼったい目の下には、うっすらとクマができている。
「まあ、いいわ。それで、宮殿の様子は……と、言いたいところだけど、今はちょっとね」
事務局次長は、話をするのも少し億劫といった雰囲気。体調があまりよくないのだろうか。
「あの~、事務局次長、先ほど、この部屋からマーチャント商会会長が出てきましたが、彼と何か世間話でも?」
わたしは、ふと、先刻の疑問点をコーブ事務局次長に尋ねてみた。事務局次長の部屋を訪問した目的はさておき、疑問が湧けば解消したくなるのも人情だから。
「ああ、スローターハウス会長のことか。彼は商談に来ただけよ。それ以外に何かある?」
今日の事務局次長は(どういうわけか)、心なし、いつもと違って少し穏やかな感じがする。
「ところで、教団本部に来るとき、荷馬車が本部に向かってノロノロ進んでいるのを見かけたのですが……」
「荷馬車と言えば、荷物の搬入以外にないだろう。マーチャント商会に注文した品物が届いた、それだけのことよ。品物は、信徒のユニフォームや本部の事務用品……」
「加えて、トゲのついたメイスとか、シールドやアーマーですか?」
思いつきで少々挑発的な質問だけど、事務局次長はどう来るか? 大量の武器を教団本部に運び込むのだから、「ヤバイことをしている」自覚はあるはず。普通なら、質問に対する反応が不自然になりがちなところではある。
ところが、コーブ事務局次長は(わたしの予想に反し)声を荒げるでもなく、
「あら、あなた、中身を見たの?」
と、極めて事もなげに言った。そして、「ふぅ」と、もう一度ため息をつき、
「自衛用の武器くらい当然でしょう。それに、あの馬鹿にはオモチャも必要だし……」
コーブ事務局次長の(非常に簡潔な)説明によれば、教団を帝都の宗教界や武装盗賊団から守るため自衛用の武器が必要であり、また、教団警備部門の責任者のキャンベル事務局長の自尊心を満たすため、警備部門の人員や装備を充実させる必要もあるとのこと。
「事務局長の自尊心を満たすのですか?」
「要するに、あいつは子分を連れて『お山の大将』でいたいのさ。根は悪いやつじゃないが、フラストレーションをため込んで、他の信徒に八つ当たりするようになると困るからね」
ここまで話したところで、コーブ事務局次長は「よいしょ」と、おもむろに腰を上げ、
「あなたの用は、二重スパイの成果の報告かしら? 悪いが、今は時間がない。明日、ゆっくり話をきくわ」
そして、わたしとアメリアが入ってきた部屋の扉を指さした。「今日のところは自室に戻りなさい」という意味だろう。そういうことなら、とりあえず自室でくつろぐことにしよう。ただ、こうなるのなら、慌てて屋敷を出ることはなかったのに。キャンベル事務局長ではないけど、わたしも適当に誰かに八つ当たりしたい気分。




