対戦相手はサイクロプス
パーシュ=カーニス評議員によれば、「面白いこと」とは、例の「大盤振る舞い」での見世物とのこと。「大盤振る舞い」では伝統的に、帝都市民への食糧の配給と見世物(闘技場での決闘)が行われるが、今回の見世物は、ツンドラ侯とサイクロプス(一つ目巨人)との時間無制限デスマッチに決まったとのこと。
サイクロプスとは、北方に多くいる巨人より更に(ひと回りほど)大きく、筋力もかなりのもの、ただ、知的レベルは低く(小学校低学年程度)、魔法を使うことはないので、モンスターの格付としてはドラゴンなどには及ばないという、そういった種族。帝国では、南西部の山岳地帯(「神話の山地」と呼ばれている)に多く棲息(居住)しているらしい(ちなみに、これは、屋敷への帰り際のプチドラの解説)。
「ツンドラ侯がサイクロプスと……ですか。これは、なんと……」
わたしはビックリして、思わず目を見開いた。確かに、ツンドラ侯は戦士として並の実力ではないと思う(この際、彼の知性は言うまい)。でも、モンスターの中でも、最強とは言わずとも、相当に強い部類に属するサイクロプスと一騎打ちで戦って、本当に無事に済むのだろうか。頭の悪さで「いい勝負」と洒落ている場合ではないだろう。
「どうです、面白いでしょう。これは見ものですよ」
パーシュ=カーニス評議員は、「ハッハッハッ」と朗らかに笑った。
「でも、どうしてサイクロプスと?」
「それは、侯爵自身が強硬に主張したからですよ。あの馬鹿……、いえ、失礼。彼にはやはり、馬鹿力の発揮する場がなければ、キャラが立たないのでしょうね。いやあ、愉快、実に愉快ですな。ハッハッハッ」
どうしてパーシュ=カーニス評議員が「キャラが立つ」というフレーズを知っているのかはともかく、評議員の話によれば、「大盤振る舞い」に関する議論の中で、ツンドラ侯自身が「俺様が闘技場に立つ」と強硬に主張し、対戦相手として「とにかく強いやつを連れてこい」と要求したので、結果的にツンドラ侯とサイクロプスの対戦が決まったという。
「いやあ、あんなこと言わなければよかったかなあ…… でも、まあ、いいか。今更覆らないし。いや、しかし、これは、あまり他の人に言わないでくださいよ」
パーシュ=カーニス評議員が漏らしたところによれば、対戦相手として「サイクロプス」を最初に口にしたのは、評議員自身らしい。その「サイクロプス」という言葉にツンドラ侯が飛びつき、議論に加わっていたアート公、ウェストゲート公、サムストック公が賛成し、マーチャント商会会長も「サイクロプスの招聘に関しては当社が責任を持つ」と明言したため、帝国宰相の「そんな金がかかりそうなのはダメ」との反対にもかかわらず、言わば勢いで決まってしまったとか。
なお、マーチャント商会会長がその場にいたのは、「大盤振る舞い」の事業の施行請負業者という関係からとのこと。ついでに言えば、見世物とともに行われる食糧の配給については、今回に限り、ツンドラ侯とサイクロプスの対戦終了後に闘技場でバーベキュー大会が開かれることで、大方の合意を得たとか(これにも帝国宰相は、費用の観点から反対したという)。




