三匹のブタさんたちの話
三匹のブタさんたちの猥談は、恐ろしいことに、時折、「ヒッヒッヒッ」とか、「ほっほっほっ」とか、「うひょー」とか、意味不明かつ動物的な音声を伴って、小一時間続いた。その間、文字にするのも憚られるような卑猥な単語の数々が、容赦なく、わたしの耳に突き刺さり、脳髄を貫いていく。
この前もそうだったけど、こんなオゲレツな集まりの場に居合わせるなんて、神の見えざる手の悪意を感じざるを得ない。唯一神教の教義のように、この世界に唯一神以外の神が存在しないとすれば、この世界は、唯一神という「悪魔」に支配されていることになるのではないか。
「いや~、しかし……、話だけというのは実に残念。我々にも現実に楽しみを共有させていただきたいものですな」
「そうです。『百聞は一見に如かず』ですからな。ここは、是非とも、あの女を……、ヒッヒッヒッ……、いやぁ、考えるだけで……」
「そのうちにね。いや、近いうちに必ず。約束しますぞ。ほっほっほっ……」
三匹のブタさんたちは、よだれを垂らして固い悪手を交わし、立ち去っていった。
わたしは「ふぅ~~~」と大きなため息をつき、柱を背に、その場に座り込んだ。あまり想像したくないけど、今の三匹の話しぶりからすれば、近々、アート公、ウェストゲート公、サムストック公が一緒になって、「ブヒブヒブヒ」と、その「彼女」に、あんなことや、そんなことや、こんなことを……
「マスター、今のは、なんだったんだろう???」
プチドラは小さな腕を組み、考え込んでいる様子。でも、このような人情の機微に触れる話は、ドラゴンにとっては理解しがたいのだろう。「う~ん」と首をひねっている割には、なかなか考えがまとまらないようだ。
わたしは「よいしょ」と立ち上がった。こんなところでいつまでも座り込んでいても、仕方がない。とりあえず、この場を離れることにしよう。御都合主義的ないつものパターンなら、そろそろ、帝国宰相かパーシュ=カーニス評議員に出会うはずだ。
というわけで、とりあえずプチドラを抱いて柱の陰から身を乗り出してみると、
「おお、おまえは、我が娘ではないか! こんなところで、何をしておる?!」
聞き覚えのある……というか、聞き飽きるくらいに聞かされた声。声の主は、言うまでもなく帝国宰相だった。思ったとおり、帝国宰相から会いに来てくれた(形となった)ようだ。
「我が娘よ、このところ顔を見せておらぬが、どうしたのじゃ? 心配しておったぞ」
「帝国宰相におかれましては御機嫌麗しく、年を取られても、ますます盛んに……」
と、帝国宰相とわたしは、お互いに心のこもっていない、また、どこかかみ合わない挨拶を済ませ、
「ところで、この前から頼んでいた件じゃが……」
帝国宰相は、何やら期待を抱いているように鼻をヒクヒクさせ、顔をグイとわたしに近づけた。




