年貢の納め時
コーブ事務局次長を前に、また、エリート信徒に取り囲まれる中で、数分の(ただ、体感的には1時間以上の)時間が流れた。やがて、コーブ事務局次長は、とうとうしびれを切らしたのか、座っていた椅子から立ち上がり、
「じれったいわね。言いにくいなら、エリート信徒たちには退室してもらうわ」
と、人を払うように、右手を左から右に大きく動かした。エリート信徒たち(それぞれのお世話係込み)は、小さくうなずき、そそくさと部屋を出る。ちなみに、アメリアは、わたしのお世話係として残るべきか、それとも他のエリート信徒と同じように部屋を出るべきか、判断つきかねて、困った顔で「え~っと、え~っと……」とオロオロしていたが、コーブ事務局次長にギロリとひとにらみされると、ぺこりと頭を下げ、バタバタと足早に事務局次長の部屋を出た。
「これで話しやすくなったでしょ。あなたは何者? 教団に潜り込んだ目的は何?? 白状しなさい」
どうやら、年貢の納め時らしい。
わたしは、一度、深呼吸して呼吸を整え、
「長い話になるのですが……、一体、どこ辺りから話せばよろしいのか……」
「そうね、では、まず、あなたの名前から確認するわ。カトリーナ・ウッドは偽名ね。本当は、貴族様、ウェルシー伯なんでしょう」
「そうですが、どうして、それを? 今まで『カトリーナ・ウッド』としか……」
すると、コーブ事務局次長は眉間にしわを寄せ、わたしの言葉を遮るように、
「余計なことは言わないの。わたしだって、あまり長々と尋問する気はないんだから」
事務局次長は気が短いようだ。ともあれ、わたしがウェルシー伯ということを知っているということは、やはり、マーチャント商会会長経由でわたしの正体が漏れたということだろう。
コーブ事務局次長は、おもむろに「ふぅ」と小さく息をはき出し、
「それじゃ、次の質問。あなたが唯一神教に潜り込んだ目的は?」
「目的ですか。目的は……、え~と、え~と……」
特段意味があるわけではないが、なおも躊躇するようにしていると、事務局次長は、わたしの(銀の刺繍の施された)アイボリー色の衣服の襟首をグイとつかみ、
「人をおちょくってるの? さっさと言いなさいよ」
そろそろ、コーブ事務局次長も本気でキレそうな雰囲気。これ以上、刺激しない方がよさそうだ。
「実は、帝国宰相から特命を押しつけられまして……、しかも無給で。宰相が言うには、すなわち、唯一神教を徹底的に調査し、教団の悪事、つまり、違法行為の証拠をつかんでほしいということなのです」
「ふ~ん、そうなの……」
コーブ事務局次長は大して驚きもせず(この辺りの事情も、マーチャント商会会長から聞かされているのだろうか)、ややうつむき加減に椅子に腰掛けた。そして、そのままの姿勢で腕を組み、何やら考えている様子。
しばらくすると、コーブ事務局次長は、何やら意味ありげに顔を上げ、ニヤリとして、
「報酬がもらえる仕事ともらえない仕事、どっちがいい?」




