祈祷(治療行為)
教祖様の部屋の中からは、
「単に困ってる人を助けたいだけだって? 善行なんてものは、人が見てる前でなきゃ、意味がない。あなたは『教祖様』なのよ。もっと、大人になりなさい!!」
と、コーブ事務局次長らしい声が響いてくる。どういう経緯でそうなったかのは分からないが、察するに、コーブ事務局次長が教祖様を叱りつけている場面のようだ。
わたしはアメリアと顔を見合わせた。どうやら、事務局次長は御機嫌斜めらしい。もし、今、説教が終わり、部屋から出てくる事務局次長に見つかったとすれば、非常に面倒なことになるだろう。
わたしはソロソロと足音を立てないようにドアの前から離れ、
「教祖様に会えないのは残念だけど、やっぱり、戻りましょうか」
「そうしましょう。はい、え~っと……、そうですね、それがいいと思います。」
わたしたちは逃げるように、教祖様の部屋の前から撤収した。
そんなことがあって、数日後、いつものような学習会が始まる前、突然、コーブ事務局次長が教祖様を伴って現れ、
「急な話だけど、これから教祖様が直々に祈祷に赴かれるので、あなたたちも同行するように。各人、速やかに準備し、玄関先に整列」
学習会が中止になるのはうれしいけど、その代わりの「祈祷」って、一体、なんなのか?
アメリアはバタバタと慌ただしく、ハテと首をひねっているわたしの手を引き、
「カトリーナさん、え~っと、わたしたちも早く準備しましょう。感激です、今日は、いよいよ、教祖様の奇跡の力ですよ!」
わけが分からないまま部屋に戻ると、アメリアはゴソゴソと大きな袋をまさぐり、
「教祖様の祈祷の際には、エリート信徒も同行して、御一緒に、え~っと……」
と、キラキラした小物を数点取り出した。見たところ、形態としては勲章のようにも見えるが……
「あの~、これは?」
「カトリーナさん、まさかとは思いますが、もう忘れちゃってるのですか。いけませんね。エリート信徒として恥ずべきことですよ。これはですね、え~っと、え~っと……」
アメリアによれば、祈祷とは読んで字の如く、教祖様が奇跡の力で病気や怪我をした人の治療行為を行うことで、その際にはエリート信徒が儀礼的・典礼的に同席するのが決まり(との説明を以前に受けている)とのこと。アメリアが取り出したのは、(銀の刺繍の施された)アイボリー色の衣服の上に貼り付けるための徽章や記章等々の類で、祈祷のための小道具といったところらしい。
アメリアに言われるがまま準備を整え、プチドラを抱き上げると、
「用意ができたようですね。では、行きましょう。早く、早く!」
わたしはアメリアに連れられ、長い廊下を小走りに駆けて、玄関先に出た。そこには既に、教祖様以下、事務局次長、エリート信徒及び(護衛のためか)20人程度の聖戦士が勢揃いしている。わたしたちは、またしても最後だったようだ。




