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Episode.44 冒険の始まり

山と森に囲まれた静かな村――レーヴァ。

その片隅で育ったアルトとリナは、幼い頃から木の枝を剣に見立て

夕暮れまで戦いごっこを繰り返していた。


「私たち、大人になったら一緒に旅に出ようね」


「18歳になったら、必ずだ!」


交わした約束は子どもの空想遊びでは終わらなかった。

そして、18歳になったある日の朝。

二人は村の入り口に立っていた。

革袋と木剣を携え、胸に期待と不安を抱えて。


「アルト、リナ……本当に……行くんだな」


「決めていたことだからな!

 偉大な冒険者になって……必ず帰ってくるさ」


「はは……、まぁアルトとリナの実力なら心配はしてないけどな」


村人たちが惜別の視線を送る。

だが、アルトの瞳は迷いなく前を見据えていた。

隣に立つリナもまた、凛とした表情を浮かべている。


「行こう、アルト」


「ああ、リナ」


彼らの第一歩は、村を囲む大森林《ミルドの森》を抜けることだった。

森は獣の唸り声が響く魔境だ。

普通の村人なら一度も足を踏み入れずに一生を終える。

だが、冒険者を目指す二人にとっては避けて通れぬ道。

木漏れ日の届かぬ獣道を進むと、乾いた枝を踏む音に混じって

何かがついてくる気配があった。


「アルト……気づいてる?」


「ああ。右後ろ、だな」


振り向いた瞬間、茂みから黒毛の魔狼が飛び出した。

唸り声とともに牙が閃く。

アルトは咄嗟に木剣を腰から抜いた。リナも並んで構える。

幼い頃から二人で磨いた呼吸は、今も息ぴったりだった。


「来い!」


「はっ!」


リナの一閃が魔狼の動きを止め、アルトの突きがその心臓を貫いた。

魔物は土に伏し、森は再び静寂を取り戻す。


「やった……! 倒せた!」


リナは息を切らしながらも笑顔を見せた。

アルトも頷くが、胸の奥にぞくりとした感覚が残っていた。

血の匂い、命の重み――これが夢に見た冒険の現実なのか。

二人は無言のまま森を進んだ。

出口が近づくにつれ空は開け、やがて眩い光が差し込んだ。


「見て……! 森を抜けた!」


視界の先に広がるのは、今まで見たことのない大地。

果てしなく連なる平原、その彼方に巨大な都市がそびえ立っていた。


「これが……世界か……さあ、冒険に行こう!」


リナは頷き、目を輝かせる。

二人は顔を見合わせ、無言のまま木剣の柄を握り締める。

旅はまだ始まったばかり。


◆◆◆


鬱蒼とした森を抜けた瞬間、視界がぱっと開けた。

陽光に照らされた大地には、青々とした草原がどこまでも広がり、

その先に石造りの城壁と尖塔をもつ美しい街が姿を現した。


「わあ……!」


リナは思わず声を上げた。

赤い屋根の家々が整然と並び、白い煙があちこちの煙突から立ち昇っている。

遠くからでも賑わいが伝わってくるようで、アルトは胸を高鳴らせた。


「これが……街か!レーヴァ村とは大違いだ」


「私たちの冒険は、ここから始まるんだね」


二人は互いに頷き合い、草原を踏みしめて街へと歩み出した。

やがて高くそびえる城門に辿り着く。

行き交う人々で賑わっており、荷馬車や旅人が列をなしていた。

だが、アルトとリナが通ろうとした時――。


「おい、待て!」


門番の兵士が槍を突き出して立ちはだかった。


「身分証はあるか?通行許可状は?」


「えっ……そんなもの、持っていません」


リナは正直に答えると、兵士は眉をひそめた。


「なら通せん。ここはただの観光地じゃない。

 怪しい者を入れるわけにはいかん」


リナが困惑してアルトを見やる。

二人は顔を見合わせ、言葉を失った。

その時――。


「おいおい、新人をいじめてやるなよ」


朗らかな声が響き、一人の男が兵士たちの間を割って入った。

背には立派な剣を背負い、整った顔に人懐こい笑みを浮かべている。


「クロード……!」


兵士の一人が目を丸くした。


「この二人は俺の知り合いだ。

 田舎から出てきたばかりで不慣れなんだよ。責任は俺が持つ」


「しかし……」


「文句あるか?責任は俺が持つと言っているだろう?」


そう聞くと、兵士は渋々槍を下げた。

アルトとリナは呆然と立ち尽くしていたが、クロードはにかっと笑う。


「ほら、さっさと行け。街は新人にとって目移りする場所だが、

 困ったらギルドを頼れ。それが冒険者の居場所だからな」


そう言い残すと、彼は人混みに紛れ

あっという間に姿を消してしまった。


「なんか助かっちゃったね……」


「ああ、あれが本物の冒険者だ……」


胸を熱くしながら二人は街へ足を踏み入れた。

石畳の大通りは行商人の声と人々のざわめきで溢れ、

果物の香りや焼き立てのパンの匂いが漂う。

馬車が行き交い、子どもたちの笑い声が響く。

村とはまるで別世界だった。


「アルト、冒険者ギルドってどこにあるんだろう?」


「確か、街の中心に建っていると聞いたことがある」


二人は人波に揉まれながらも、大通りを進む。

大きな噴水広場に出ると、遠くに立派な木造建築が見えた。

屋根には剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられている。


「見つけた……!あれだ、冒険者ギルド!」


リナの目が輝く。

アルトも胸の奥が熱くなるのを感じた。

アルトは大きく息を吐き、冒険者ギルドの扉を開いた――。

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