EP.4
このソファ、何でできているのだろうか?
ローガン・オルナは剣天に件の木組の家の中に招かれ、リビングへ案内された。
得も言われぬ樹木と煤の香りが鼻腔を擽る。
そこで座って待て、との剣天の言葉に応じソファに腰を下ろせば、如何とも言い難い極上の心地が尻から伝わってきた。
間違いない。俺の家のソファよりも上等だ。
沈み込み包み込まれ、かと思えば程よい反発で尻全体が安定する。
ファブリックこそ簡素だが、この極上の座り心地の正体を知りたい。
と思いつつ内心、中身は真っ白な何かの毛皮か羽毛だろう、と当たりをつける。
しかし、と思い整然とした部屋全体を眺める。
壁は外から見た通り丸太組み、暖炉は簡素な石組みではあるが、棚や椅子などの家具は木製の手の込んだ一種の作品の如く質が良いものに思えた。
特にセンターテーブルは大樹をそのまま切り出したような一枚板の卓で存在感があるのに上品だ。
剣天、とあの双子……俺より良い生活してるのではなかろうか?
本日何度目かの敗北感に苛まれていた時、剣天がトレイに載せた湯呑みを持ってリビングに戻ってきた。
「いや、すまない。急な来訪だったのでね、茶くらいしか用意できな……如何した?」
「いえ、私もまだまだ精進が足りないな、と痛感した次第でございます。」
いかん、顔に出てしまっていたか?任務中だ、気を引き締めねば。
湯呑みを配膳し、向かいの1人がけのソファに座った剣天に向かい一度会釈をする。
「改めまして、お久しぶりにございます、剣天様。本日は急な来訪にも関わらず快く迎え入れていただき誠にありがとうございます」
そして今度は深く腰を曲げ礼をする。
「うむ、息災であったか?しかし立派になられた。前回は確か、あの日の直前くらいだったから7年前か。エドワードとガレスも息災か?」
「お気遣い痛み入ります。私は勿論、辺境伯様も父も恙無く。剣天様に於かれましても、変わりなくご壮健とお見受けいたします」
本当に変わりない。美しい顔も、射干玉の髪も。少し雰囲気や口調は柔らかくなった様に感じられるが7年前の記憶のままだ。
ここでローガンは「あの日」が気になった。
前回父と二人して伺った日、その直後と言うことだろうか? 恐らくは双子の事だろう、と当たりを付ける。
「時に剣天様。いつお子を授けられたので?」
「ん? 嗚呼、あの子らか。うん、まぁ、そうさなぁ……」
歯切れの悪い剣天の様子に、しまった! とローガンは察した。
捨てられていたのだ。
考えなくても分かろう! 何故気を抜いていた。
見れば分かろう! 白の忌子なのだ、それも凶兆とされる双子の。
寝物語に聞いていたではないか。白き人は魔獣と同じ、と。双子は災禍を呼ぶ、と。
なればどうする?殺すか捨てるか。
あの双子は不幸だ。同時に幸運でもある。
世界最強の剣士、剣天オリアナ・ミストレインに拾われたのだから。
だが今はそれを考える時ではない!
「あの子らには危ないところを助けていただきました。いや、お強い。流石剣天様の子であらせられる。それに素直で可愛らしく、親切で……えぇ、とても、素直な子らでありますな」
落ち着け、ローガン。と自分に言い聞かせる。
不興を買ってしまったのではあるまいかと焦って口調も敬語も総崩れだ。
が、嘘はない。
こちらの心を抉る、極めて子供らしい素直さには涙を禁じ得ないが決して与太の類ではない。
「で、あろう!!」
すると剣天は我が意を得たり!と言わんばかりの満面の笑みで卓に身を乗り出した。
思わずローガンが引いてしまうくらいの勢いだ。
は! っとした剣天がソファに座り直し軽く咳払いをする。
「まあ、察しの通り、そう言う事だ。私自らの陶冶なれば、と言いたいところだが何のことはない、あの子らは天稟持ちでな。卿の所感はあの子らの才能だ。それに素直な所や可愛い所、優しい所は持ち前の性質と言って良いだろう。うむ、我が子が1番ではなかろうか?強く優しいだけではないのだ。些細な変化にも敏感で、この前も
……等等。
……嗚呼、双子を家に迎えていた時には既に感じていた。
オリアナ・ミストレインは母である!




