EP.2
「いっっっって~~~!!」
部屋にシーヤの絶叫が轟く。
あれから蹲って動けないシーヤを家へ運び込み、狭いがきちんと整頓されている部屋のベッドへ横たえさせた。
「我慢なさい。変な事した代償よ。止めたいなら剣で止めなさい。」
「間に……合わな……い、よ」
脂汗を浮かべながら息も切れ切れに反発してきた。
これが反抗期か。と思いながらオリアナはシーヤの服をめくり患部を見やる。
「変な持ち方して突きなんか放つからでしょう? 発想は良かったけどシーヤにはまだ早いわ。もっと精進なさい」
「……負けるもん」
まぁ、結局はここだろう。単純な力勝負では負けるから工夫しているのだろうが、小手先に過ぎる。もう少し地に足の着いた工夫なら歓迎するのだが。
打ち込まれた右脇腹は見事に木剣の形に腫れ、赤紫になっていた。
患部を触り骨や内臓の状態を確認すると、
「っっっいっつ……」
と苦悶の声を漏らすシーヤに
「骨も内臓も問題なさそうね。安心したわ。エグい音が聞こえた時は笑い、じゃなかった、心配したのよホント」
「……僕、母様の言葉って時々信じられないんだホント」
「減らず口を叩けるくらいには回復したわね。それにしてもシーヤは本当に丈夫ね。あばらの一本くらいは折れていると思ったんだけど、腫れと内出血だけね。肝臓に良いの入っていたからしばらく苦しいでしょうけど、安静にしていればその内引くわ」
隣で赤い瞳に涙を溜めながらシーヤを見るサーニャを安心させるように言った。
酷く腫れあがった脇腹を見て、また心配になったようだ。
そんなサーニャの白い髪を柔らかく撫でながら続ける。
「あなたは気にしなくていいのよ。変則的な相手に上手く合わせて戦えてたわ」
「そうだよ、サーニャは強かった」
シーヤもサーニャを励ますように声をかける。
家の子は二人とも素敵なのだ。
「……お姉ちゃんって呼びなさい」
元気はないけど調子が戻ってきているようだった。
その後シーヤに干し肉を食ませて寝かしつけ、サーニャには素振りをさせてから今晩の食事の用意へと相成った。
夕暮れ時、いつの間に起きたのか、気づいた時にはシーヤはサーニャと並んで素振りをしていた。
相変わらず羨ましくなるほどの回復力に感心していると、二人の気配が疾駆した。
またか、と思い家を出て二人の向かった場所へと歩みを進める。
思った通りいつもの白狼を相手に大立ち回りをしていた。
何回目だ、と思いつつも近頃は二人の動きに慣れて反撃をする白狼を相手に安定して立ち回る双子を眺めていると、少し遠くに強い魔獣の気配を感じた。
双子と白狼も気づいたのか動きを止めていた。
「あなたたちは続けていなさい。お互い殺しちゃダメよ」
そう言い残してオリアナは姿をかき消した。
■■■
それは白馬だった。
尋常の白馬との相違は赤い目をしていること。
その瞳には狂暴を映していた。
その瞳には現前したオリアナを映した。
白馬は忽然と現れたオリアナに驚き嘶きを上げる。
上げたはずだった。
気づけば頭が地面に落ちていた。
上から生暖かい赤い液体を浴びていた。
その瞳には剣を持つオリアナを映していた。
■■■
鈍ったかな?とオリアナは自問する。
僅かに斬った感覚にズレを感じた。
少し育児に感け過ぎたか?鍛え直さねば、いやしっかりと両立させねば我が子らに顔向けできまい。二人ともあの歳で白狼と遊べるほど成長しているのだ。
なればこそ、私自身も妥協は許すまじ。
オリアナはそう心に決めて双子の元へと戻る。
二人は退屈そうに地面に座り込んでおり、白狼は帰っていた。
「二人とも、帰るよ。晩御飯にしよう」
「は~い」「は~い」
いつの間にか陽は沈み、夜の帳が下りていた。
並んで歩く三人を満月が照らしていた。




