EP.1
オリアナが双子、銀眼の男の子シーヤと赤眼の女の子サーニャを拾い上げ、陶冶し早5年。
すくすくと……腕白とお転婆に育っていた。
どこで間違えたか、とオリアナは剣を振りながら思う。
昔聞いていた赤子が一番手がかかる、と言うのは嘘だと断言できる。
赤子の頃は良かった。乳が出ないので食事には苦労したが、近場の村で乳を分けてもらい、時には粥を噛み飯して含ませたものだ。
おしめも苦労した。勝手がわからず腫れをよく作ったものだ。
1年が経つ頃には二足で歩き回り、覚えたての言葉を大声で連呼していた。大変かわいらしくて懐かしい。
いたずらに剣の真似事をさせ始めた3年目からが始まりであった。
両者ともにそれと解る剣の天稟があった。
親の贔屓目ではない。
体もできていない、理も解しない二人は間違いなく剣筋を立て、綺麗な姿勢で剣を振りぬいた。
されど3歳、鍛錬などまだ早いと思っていたが、なんと二人で打ち合い始めた。
本当に勘弁してほしい。
鋭いだけに危なっかしくてとても二人きりにさせられない。
天才の我が子であれば、早いうちに鍛錬法を教えても問題ないだろうか?と悩む日々が増えた。
そしてつい先日、外で素振りをしていた二人が唐突に森の奥へと疾駆した気配があった。
向かう先には魔獣の気配が一つ。まさか!と思い家を飛び出した。
到着してみれば、白狼を二人で寄ってたかって楽しそうにボコボコにしている最中であった。
眩暈がした。あの頃のか弱くも玉の如き幼子はもういないのだと涙した。
されど魔獣。その堅牢な毛皮は素振り用の木剣では痛痒を覚えていない、が突如の蛮行に慌乱し反撃に出られず、攻撃の隙をついて遁走していった。
尚も追いすがる双子の首根っこを掴み盛大にため息を吐いた。
ぽかん、ととぼけた音がした。
「いっっって~~~~!!!」
と言うシーヤの悲鳴が響いた。
またぞろ居合抜きでサーニャの上段を受け止めようとして失敗したのだろう。
さてはて、居合抜きの何がそんなに気に入ったのやら。と思いつつ、素振りを止め二人が鍛錬している裏庭へと向かうのであった。
「シーヤはそんな変な持ち方と変な構えしてるから弱いのよ!」
とはシーヤを見下ろし剣先を突き付けるサーニャの言。
見ればシーヤは小指側に刀身がある逆手で剣を握っていた。
「見えないんだからこれでいいの! 木にぶつけると痛いもん!」
とは頭を押さえ蹲るシーヤの言。
シーヤの瞳、銀眼は光を写さない盲目であった。
「これがいいの! サーニャにはわかんないよ!」
「お姉ちゃんと言いなさい!!」
サーニャは木剣を振り上げ蹲るシーヤへ振り下ろし、
「やーめーなーさい。まだシーヤが構えてないでしょ。ほらシーヤもお立ちなさい。」
振り下ろされた木剣を掴みオリアナは言った。
「ママ! じょーしょーせんじょー? よ!」
「常在戦場ね。今使う言葉ではないわ」
「母様! 居合教えて!」
「全く……あれはシーヤには合ってないわよ。そもそもその剣で振る型じゃないわ。刀という片刃の剣で振るうのよ」
「なら刀を下さい!」
「また今度、ね」
オリアナは膝を折り、目線を合わせるようシーヤの白い髪を撫でながら言った。
片方の手はシーヤの木剣を掴み、順手へと持ち替えさせながら。
「だから今はしっかりこれで鍛錬しなさい。刀は鍛錬の後のご褒美よ」
「シーヤだけずるい! 私もほしい!」
「はいはい、サーニャもね。それじゃ準備はいいかしら? 始め」
オリアナの言葉に喜色を浮かべ上機嫌の二人は同時に距離を縮めた。
最初に仕掛けたのはサーニャだ。得意の上段からの振り下ろしをシーヤは右に体を開いて避け、下がり切った木剣に右足で踏んづけ固定する。
サーニャは剣を引き戻し左から迫る木剣を防いだ。
わずかな拮抗を前蹴りで崩し互いが離れた。
次はシーヤだ。
木剣の柄の端を握り、リーチを伸ばした突きを放つもサーニャはそれを掬い上げ、がら空きになった胴へ横なぎを見舞う。が、シーヤは右膝と肘で刀身を挟み込み止めた。
相変わらず曲芸染みた剣だこと。とオリアナは呆れる。
シーヤ本人に聞いたところ、人は薄っすらと影が見える、との事だった。
魔力を見ているのだろう。そのおかげで相手の動きを把握できるそうな。
サーニャは挟み込まれた剣を無理やり押し切り、シーヤの右脇腹に刀身をめり込ませた。
挟み込んで力いっぱいため込まれて叩き込まれた木剣は相当痛かったらしく、無言で蹲りプルプル震え始めた。
サーニャもシーヤのあまりの痛がり様に焦ってオロオロしている。
見ていて楽しいが、流石に助け船を出すか、と近づく。
「いい加減学びなさい」
オリアナの忠告はどうやら激痛に悶えるシーヤには届いていないようだった。




