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EP.16

 ベロニカ・ホルンヴェインは猛省の泥濘に沈んでいた。

 信任を得た護衛たるもの、主に諫言を申し入れ、艱難から遠ざけてこそ本懐。が、あの為体。


 そして魔法暴走である。

 自身の専門分野においても全く役立たずだった。

 シーヤ少年の特異な銀眼がなければ未だにあの闇に囚われていたかもしれない、と思うとベロニカは歯痒い思いに苛まれる。


 ベロニカは思う。

 あの闇はいつものお嬢様の魔法とは違っていた。

 私の魔力干渉を跳ね除ける、まさしく世界に確固たる存在として顕現していた。

 制御こそできていなかっただろうが、その業はまさに王級のそれだった。

 あの闇を払うには私も同等以上の魔法が必要だったが、あの闇だ。

 見えず、聞こえず、気配すら断たれ、他人どころか自己の存在の輪郭すら曖昧なあの空間において、破壊の象徴たる王級炎魔法など使えるはずもなく。


 いや、言い訳か……と思い、後ろを歩くその魔法発生の張本人たるアリステアを見る。


 闇が晴れた後、そこには立ち尽くす群衆と何故か抱き合うアリステアとシーヤ、そして騒ぎを聞きつけたルーカスとガレス率いる騎士団数人がいた。


 阿鼻叫喚の地獄絵図、とはならず、ルーカスとガレスによって群衆は静かに説得、解散させられた。


 アリステアはルーカスにしこたま絞られ、罰として城まで徒歩の帰宅を言い渡された。

 ローガンはガレスにしこたまぶん殴られていた。


 そんなアリステアは現在罰を受けているというのに、ご機嫌に隣のシーヤ少年と話しながら歩いている。


「でね! お父様ったらその剣を私の旦那様になる人に渡すって言っているのよ! 気が早いわよね」


「どんな剣なんですかね、振ってみたいです」


 アリステアはあからさまな流し目でシーヤを見て顔を赤くし、当のシーヤは話を合わせているようでズレたことを言っている。

 そんなアリステアとシーヤを、二人の後ろを歩いているサーニャが凄い形相で睨んでいる。


 ……お嬢様、身分違いの前に色々と前途多難でございます。


 艱難辛苦を排するためこれも諫言しないといけないのか? と新しい悩みが増えたベロニカだった。


「ところで、その……やっぱり私を抱きしめてくれたのって、その……そういうこと……よね?」


 と、頭にお花でも咲いていそうなアリステアの言葉に頭を抱えていると


「……母様が、泣いている女の子は優しく抱きしめてあげなさい、って。それにサーニャも助けろ煩いから、しょうがなくと言うか、最後の手段と言うか、その、急に抱きしめてすみませんでした!」


 と、とんでもない鈍く最低な言い訳をシーヤが放った。


 アリステアは頭に咲いた花が音を立てて急速に枯死こししたかのような無表情となり、サーニャは顔を引きつらせて「こいつマジか!?」と体全体で戦慄している。


 ……おいたわしや。

 諫言の必要がなくなった、と思うベロニカであった。


■■■


 城に帰り着いたアリステアは応急処置されていた頭の傷の治療を受け、沐浴後すぐに眠りについた。


 明けて翌日、アリステアは辺境伯たるエドワードより特大の叱咤を受けた。

 ベロニカもまた雷霆の如き叱咤を受け、真に死罪をも覚悟した。

 アリステアに怪我まで負わせたのだ。当然の報いである。

――だが、アリステアの強い嘆願により、一か月の謹慎という驚くべき宥免ゆうめんが下された。

 信じ難いほど軽い処分で済んだのはエドワードの慈悲ではない。アリステアという幼き主が「王級魔導士の命を買い取った」のだ。


ベロニカは唯々平伏した。五臓六腑に刻まれるはカラドヴェル家、ひいてはアリステアへの骨の髄まで凍てつくような忠誠であった。


 そんな激動の2日間を過ごしたベロニカは今、謹慎中もアリステアの護衛としてアリステアの部屋に控えていた。


 当のアリステアはあのお花が咲いた発言が嘘の如く、当日の行動、考え、発した言葉、周囲の状況を克明に手繰り寄せながら痛恨の備忘録を綴る。

 その際問題点を列挙し、改善点と不足、今後の勉学の方針までも併せて記載する徹底ぶりだ。


 ベロニカも意見を求められ、忌憚なく答え、第三者視点として記録していく。


 すると、少女に石を投げられたところで今まで淀みなく走らせていた筆が止まった。


「お嬢様? 如何されましたか?」


「あの子、気になるのよね。ザルネイアからの貧民の割に我が国国民寄りの整った顔立ちをしていたわ。」


「……言われてみれば色白に金髪、ヨルムガル王国に多い特徴でした」


 そこでアリステアは椅子ごとベロニカへ向き直る。


「でね、ちょっとその子調べてほしいの。謹慎明けてからでも良いし、他の人にさせても良いわ。内密にお願いね。あ、危害を加えるのは勿論、なるべく相手に悟られないようにね」


 窓から差し込む満月の光に照らされたアリステアの顔は、ただ氷の如く冴え冴えと幽かな嘲りを湛えて綻んでいた。

私の嫌いなものは鈍感系主人公とツンデレヒロインです。本当です。信じてください。


ごきげんよう。ゆずゆです。

ご高覧いただき誠にありがとうございます。


これにて二章終了です。


三章は現在プロット作成中です。

大まかなプロットのターニングポイントを書くか、もう少し日常回書くか迷ってます。


近々再開する予定ですが、気長に待っていただけると幸いです。


これからも『銀眼のミストレイン』をよろしくお願い申し上げます。

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