新婚生活
……………………
──新婚生活
リーゼとの結婚式が終わり、俺たちは正式に夫婦になった。
「よし。これからはなるべく俺もこっち側で暮らしたいから、家具とか持って来た方がよさそうだね」
「新居がいるねぇ。流石に私の小屋でふたりで生活するのは狭いし、ヴォルフ商会の事務所を使うわけにはいかないし」
俺とリーゼに今必要なのは一緒に暮らせる家であった。
「よ~し! 事務所を作ったときみたいに私が作っておくから、ジンは家具を買ってきてくれる? 一緒に生活できる家ができたらジンもこっちに長くいられるし、楽しみにしているよ~!」
「了解! 家具を準備してくるよ。数日はかかるけど……」
「そうだね~。4、5日あれば私と職人さんでちゃんとした家ができるから、それぐらいはオーケーだよ」
「分かった。じゃあ、早速準備してくるね」
「いってらっしゃい!」
俺はリーゼに見送られて日本に戻る。
「家具をそろえるぞ、と」
早速俺は市内の家具店に向かう。
「必要なものはベッドにダイニングテーブルに……仕事用の机とかは事務所にあるからいらないね。あとは収納とかかな?」
そういえば向こうに寝具を持ち込んだことがなかったなと思う俺。せっかくなので地球の快眠グッズをいろいろと持っていこうか?
まずは枕。いろいろな形のものが存在する。リーゼのベッドの枕はただの藁を詰めただけのものだったから、クッションになっているのは喜ばれそう! と思い早速カートに放り込む。
次はマットレス。俺は柔らかめのものが好きだし、グリムシュタット村は暑い時期が短く寒い時期が長いので通気性云々はあまり関係ないかな? と思い早速購入。
シーツなどの必要品も買い、家具をそろえたところで祖父の家まで配達してもらうことに。流石に全部は車で運べない。
「お届けは3日後になりますがよろしいですか?」
「はい。オーケーです」
配達が行われる日時を決めてから俺は一度家に戻った。
そこでスマホがバイブする。見てみると母からの電話だった。
「もしもし、母さん? どうかした?」
『仁ちゃん。おじいちゃんの家の方、どうなったのかしらと思って』
そういえば母には祖父の家は引き取ると連絡したっきりであった。
「うん。こっちは大丈夫だよ。リフォームして住めるようにしたから」
『あれ? お仕事はどうしたの? 会社は東京でしょう?』
「そ、それが別の仕事を始めて、そっちの方の事務所におじいちゃんの家を使ってるんだ。だから心配ないよ」
『そう? ふうん……。そらならいいのだけれど。困ったことがあったら連絡してね』
「こっちは大丈夫だよ。そっちは?」
それから俺は母と近況を語り合い、お互いの健康を確認した。
本当はリーゼとの結婚のことも話したかったが、それを話すと説明が難しくなるので話せない。異世界の扉云々の話は母さんみたな普通の人に説明したって絶対に信じてもらえないだろうし……。
「けど、いつかちゃんと報告したいなぁ」
もしかするとリーゼとの間に孫ができるかもしれないんだからね……。
「さて、それはともあれ荷物が届くまで待たないと」
俺はそれから数日は日本側で行動し、荷物が届くとSUVに乗せて分けて運ぶことにしたのだった。
「おお? もう家ができてる!?」
リーゼの小屋とヴォルフ商会の事務所のそばに新しく平屋の木造建築があった。大きさはリーゼの小屋よりちょっと大きいぐらいで、可愛らしい感じの家だ。
「ジン! 家ができたよ!」
その家からリーゼが出てきて俺に向けて手を振る。
「は、早いね……。俺は家具を調達してきたよ。早速組み立てておいてみる?」
「うん!」
それからリーゼの魔法に支えられて、俺たちは家具を家の中に運び込み、あれこれとレイアウトを考えて設置する。組み立てる必要のある家具はリーゼと一緒に組み立てる。
そうして新居の準備がいよいよ整った!
玄関となる場所には赤いドアマットが敷かれ、そのわきには小さな靴棚。リーゼの赤い長靴などがおかれている。
それから中に入ると4人掛けのダイニングテーブルが置かれている。来客は基本的にヴォルフ商会の事務所でもてなす予定だけど、椅子には余裕を持たせておいた。何があるか分からないからね。
ダイニングテーブルのある右手にはキッチン……ということになっている空間。この世界は水道の類が未発達のなので基本的にかまどがおかれているだけである。ちょっと殺風景なもの。
それから奥に進むと寝室。リーゼと俺のベッドが置かれ、寝具が設置されている。
それからバッテリーとポータブルソーラーパネルが家のそばに設置され、家にわずかながら電力を供給してくれる。
これが我が家のレイアウトだ。
「う~ん! いい感じだね!」
「そうだね。今日からここでリーゼと一緒に暮らすんだね」
「ふふふ。ずっと楽しみにしてたよ~!」
リーゼはそう言って俺の腕に抱きつく。
「俺もだよ。これまではどうしても日本に戻らないといけなかったから。これからは何日でもこっちにいられると思うと嬉しいね」
俺はついに帰る場所を見つけた気がしている。祖父の家には誰もいないし、過疎化が激しく近所づきあいもない。それゆえに祖父の家は未だに俺が『ただいま』といって帰る場所ではない気がするのだ。
しかし、こっちの世界にできた新居は間違いないく『ただいま』と言って帰る場所だ。俺は今日からここを家にするぞー!
「けど……」
リーゼがベッドの方に向かう。
「このベッド、信じられないぐらいふわふわだね!?」
「一番良さそうなのを選んできたからね。けど、この手の寝具は個人によって合う合わないがあるから、一度ゆっくり寝て試してみてよ」
「じゃあ、ジンも一緒にお昼寝しよう?」
「そうだね。ちょっと疲れたし休もう」
こうして時間に追われることもなく、その日その日を気ままに過ごせる。それだけで幸せなのに今では愛する人もそばにいる。これって幸せすぎて、いつかひっくり返されるんじゃないかってびくびくしてしまうほどだ。
「この枕も凄く柔らかいねぇ。これってヴォルフ商会で扱ったら喜ばれないかな?」
「いいかも。ちょっといっぱい仕入れられるか考えてみるね」
「うん。枕ぐらいならクリストフさんでも運べるはずだし」
ベッドそのものやマットレスは流石に大きすぎてあれだが、枕ぐらいのものならばクリストフさんの馬車でフリーデンベルクまで運べることだろう。
「けど、こういうただの寝具までいいものがあるなんて。ジンの世界のお店を一度見てみたいよ」
「俺もいつかリーゼを日本に招待したいね……。両親にだって紹介したいし」
「あ、そっか。ジンのご両親に挨拶がまだだったね」
「リーゼのご両親は?」
「うちの両親はもう……」
リーゼがそこで少し悲しそうにする。
「ごめん。無神経だった」
「気にしないで。今は私にはジンがいるから!」
そういってふたりで横になったベッドでリーゼは俺の手を握ったのだった。
……………………




