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自由都市フリーデンベルク

……………………


 ──自由都市フリーデンベルク



 翌朝、俺は村の人たちに見送られて村を出ると、引き続き自由都市フリーデンベルクに向けて進んだ。


「もうちょっとで到着だね」


「クリストフさんたちは先に着いているかな?」


「そうじゃないとちょっと困るね。私もフリーデンベルクは久しぶりだし」


 俺たちがそんな心配をしていたとき、街道を進む馬車を見つけた。それは──。


「クリストフさん!」


「何と、ジンさん! もう追いついたのですか!?」


 クリストフさんとエリザさんの馬車だった。俺たちが後方からやってくるのにクリストフさんが驚きの表情を浮かべている。


「はい。もうちょっとで到着みたいですし、ここからは一緒に行きましょう」


「ええ。そうしてもらえると心強いです」


 俺はクリストフさんの馬車の前を進み、徐行運転。そのまま進み続けると、丘の向こうに立派な石造りの城壁が見えてきた!


「リーゼ、リーゼ、あれがフリーデンベルク?」


「そうだよ。あれこそ自由都市フリーデンベルク!」


「わああ! 凄い城壁だ!」


 俺の知っている城壁と言えば皇居のお堀と熊本城の武者返しのそれぐらいだ。だが、フリーデンベルクの城壁はそのどちらとも違っていた。そびえたつ石造りのそれがぐるりと都市をかこっていて、運河の通る場所にはそれように城門がある。


 俺たちがそんな城壁に囲まれた年に近づくと、城門の前にいた兵士たちがびっくりした表情を浮かべてこっちを見てくる。


「と、止まれ!」


 そんな兵士たちが慌てて俺の車に叫ぶ。


「何者だ! そこから降りろ!」


 兵士たちは槍を構えて威嚇するように俺たちにそう叫んでくる。怖い!


「大丈夫ですよ。そちらの方々は私の友人です」


「これはクリストフさん! し、しかし、これは一体……?」


 そこでクリストフさんが馬車から降りてきて兵士たちにそういう。


「これはクルマという人の作った乗り物です。馬車と同じようなものですよ」


「そ、そうなのですか。いや、驚きました……」


 それから兵士が落ち着いたのを見て、俺とリーゼも車を降りる。


「では、通行税の方はこちらで」


「確かにいただきました。ようこそフリーデンベルクへ」


 そう言って兵士たちは俺たちに街の中に入るのを許した。


「ここが自由都市フリーデンベルク……」


 俺たちの眼前に広がったのは、とても華やかな街並み。


 グリムシュタット村とは違い石造りの建物がずらりと並び、統一された鮮やかな色彩のそれは町全体を彩っている。


 街の人口もかなりのものであるようで、行きかう人々は東京ほどとは言わないまでもグリムシュタット村の数倍の数だ。


 通りには出店があったり、大道芸人がいたり……とにかく賑やかである!


「ここは凄いなぁ……。まさに大都会って感じだよ」


「ここら辺では一番大きな街だからね。昔は私もここで暮らしてたんだよ」


「そうなの? それって魔法使いの学校に通うため?」


「ううん。通ったあとで就職先を探しててね。ここでいろんな仕事を経験したよ~」


「魔法使いも就職活動するんだ……」


 そうか。魔法使いは魔法使いって職業そのものじゃなくて医師免許や法曹資格みたいなものなのか。


「ここはいろいろな仕事があったからそれをこなして魔法使いとしての階級を上げたら、ちょうどグリムシュタット伯閣下からお呼びがかかってね。そのままグリムシュタット村に赴任したってところだね」


「へえ。リーゼの昔の話も聞かせてほしいな」


「ふふふ。いつか話すよ。美味しいお菓子とお茶と一緒にね」


「期待してるよ」


 それから俺たちはクリストフさんの案内で、フリーデンベルクの宿に向かった。


「クルマはここに止めておかれてください」


「はい」


 クリストフさんに指示されたのは馬車が何台も止まっている場所で、俺はそこに車を止めるとリーゼとともに宿屋に入った。


「いらっしゃいませ!」


 元気な少年の出迎えを受けて、俺たちは宿屋の中を見渡す。


 そこにはこれまでやったRPGで見たような光景が広がっている。


 木造の建物の中は落ち着いた雰囲気であり、1階には食堂のようなものが併設されていて、そこで人々は食事をしている。そして、楽器を奏でて歌を歌う人──恐らくは吟遊詩人っぽい人もいた。


 俺はそのゲームからそのまま出てきたかのような光景に思わず興奮してしまう。


 受け付けはクリストフさんがやってくれたので、俺たちは宿に2階に上がって、そこで部屋を確認する。俺とリーゼの部屋はベッドがふたつあり、窓からは賑やかな通りが見える部屋であった。


 まあ、トイレは共用であり、お風呂はないのがあれだけど……。


「ジンさん。このまま魔法使い連盟の支部長の下に行きますか?」


「アポイントは大丈夫なのですか?」


「ええ。いつでも来てくれとの答えを受け取っております」


「分かりました。では、まずは支部長さんと話しましょう。その方のお名前は?」


「テレジア・エーレルトさんです。このフリーデンベルクの顧問魔法使いであるユリウスさんの娘さんですよ」


「へえ!」


 相手はどうやらなかなかの大物のようだ。気を付けとかないと。相手の機嫌を害したらクリストフさんたちにも迷惑がかかりそう。


「それでは魔法使い連盟の場所まで向かいましょう」


 俺たちはクリストフさんに誘導されて、魔法使い連盟のフリーデンベルク支部を目指す。先ほどは車からの景色だったが、今回は徒歩での景色だ。そうなるとこの街をもっとよく見渡すことができる。


「あの屋台、何の店だろう?」


「串焼きですね。美味しいですよ」


 屋台が並び、そのそばでは大道芸人が見事な芸を披露していはコインを貰っている。屋台の食べ物を食べながらそれを見学するのが、ここでのスタイルのようだ。


「リーゼもここの魔法使い連盟に所属していたんだよね? テレジアさんと知り合いだったりする?」


「う~ん。私がいたときには支部長は別の人だったから、知らない人だね」


「そっかー」


 事前にどんな人なのか分かっていれば心の準備もできるのだが。


「けど、魔法使い連盟の場所は覚えているよ。ほら、そろそろ見えてくるはず」


 リーゼがそう言って前方を指さすと──。


「おお?」


 何やら立派な建物が見えてきた。しっかりした石造りの3階建ての建物で、五芒星を描いた看板が下げられている。屋根の色はオレンジ色で、温かみのある感じの建物でもあった。


「あそこが魔法使い連盟のフリーデンベルク支部。昔はあそこに通い詰めたよ~」


「リーゼの思い出の場所なんだね」


「うんうん。私の青春と苦労と成功の場所!」


 リーゼはそう嬉しそうに頷く。


 俺たちはそのまま魔法使い連盟のフリーデンベルク支部に向かい、クリストフさんが先頭に立って扉を開けて中に入った。


「おや? クリストフさん! ノートとボールペンの件ですか?」


「いえいえ。この度はうちの商会長がテレジア様との商談に参りました」


「聞いております。支部長をお呼びしますね」


 受付の若い女の子も魔法使いのローブと三角帽だった。彼女は俺たちを応接間に通したのちに、支部長のテレジアさんを呼びに行った。


「緊張するね」


「リラックス、リラックス。ジンなら大丈夫だよ。私もいるんだし」


「ああ」


 俺たちは緊張しながらテレジアさんの到着を待った。


……………………

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