フリーデンベルクに向けて
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──フリーデンベルクに向けて
俺はSUVにいろいろなものを乗せて、グリムシュタット村にやってきた。
「お待たせしました、クリストフさん」
「いえいえ、ジンさん。しかし、いつ見てもそれは立派なものですね。私も一台ほしいぐらいですよ」
「でしょう? 自慢の車です」
そして、ヴォルフ商会前でクリストフさんと合流。
「しかし……何やら多くの荷物があるようですが……?」
「ええ。1週間の道のりと聞いていましたので、食料や飲み物、あとは生活周りで使う品を準備しました」
「見せていただいても?」
「ええ」
車に準備したのはちょっとしたキャンプ道具だ。
お湯を沸かすためのカセットコンロややかん。お湯を沸かせば食べられるカップラーメンなどの保存食。そして、ペットボトルのミネラルウォーターや車中泊用の寝袋、LEDライトのランタンなどなど。
馬車では1週間の道のりだが、現代の車ならばそれよりやや早く着くだろう。準備に不足はないはずだ。
「へえ。こいつは良さそうだね」
エリザさんも俺が準備した様々な道具を見て感心していた。
「そうだ。エリザさんに差し上げようと思っていたものが」
「何だい?」
「懐中電灯です」
俺はLEDライトの懐中電灯をエリザさんに渡した。
「前にライトを見て明るいのが便利そうだと仰っていたでしょう? 何かあったときに使ってください」
「いいのかい? 安いものじゃないだろう?」
「あはは。実のところ、そこまで高くもないのですよ。それでクリストフさんを守ってあげてください。クリストフさんもエリザさんも今はヴォルフ商会のメンバーですから」
「ありがと。大事に使わせてもらうよ」
エリザさんは使い方を俺から教わり、嬉しそうに笑った。
「ジン、いよいよ出発?」
「ああ。護衛と道案内はお願いするよ、リーゼ」
「任せて!」
俺の言葉にリーゼが胸を張ってそう答えてくれた。
クリストフさんたちは馬車なのでどうしても車である俺たちと速度差が出てしまう。そのためクリストフさんはこれから先に出発し、その後を追うように俺たちが続くことになるのだ。
幸い、リーゼは自由都市フリーデンベルクまでの道のりを知っているので、頼りにさせてもらうことにした。
「では、フリーデンベルクでお会いしましょう!」
「ええ!」
早速クリストフさんたちが出発。
それから5日後に俺とリーゼが出発した。
「ふふふ。ジンとお出かけするのずっと楽しみにしてたんだよ~」
「俺もリーゼと一緒に旅行するの楽しみにしてたよ」
リーゼがにししと笑い、俺も思わず微笑む。
門番の衛兵さんに門を開けてもらい、俺たちはいよいよグリムシュタット村の外へ出て、自由都市フリーデンベルクを目指す。
「うーんっ! 風が気持ちいね!」
「だね。絶好のドライブ日和だよ」
誰もいない開けた道が広がる中を、俺はそこそこの速さで車を走らせて進む。他の車を一切気にせずドライブできる場所なんて日本にはなかなかないので、俺自身もかなりドライブを楽しんでいた。
「しかし、この調子なら2日ぐらいでフリーデンベルクにはついちゃうね」
「それぐらいで?」
「うん。間違いないよ」
「そっかー」
ばっちり準備してきたが、あまり使わないことになりそうなキャンプ用具。
まあ、現代のように治安が確保された場所でのキャンプではないので、しないにこしたことはないのだが……それでもちょっと残念。リーゼと一緒のキャンプを楽しみしていたので……。
「では、もう少し飛ばしていこう」
俺は速度をもうちょっと上げて、リーゼのナビでフリーデンベルクを目指す。
そして、この場所にはふたつの種類の場所があることを知った。
ひとつは開墾された平原であり、ひとつは自然がそのままの山林。
街道が開けた場所に出でてもそこに都市などはなくひたすらな畑が広がっている。畑じゃない平原は存在しないってくらいに確実に畑がある。それか牛や羊が放牧されている場所かだ。
「あちこちに畑があるんだねぇ」
「畑はいくらあっても困らないからね」
俺が外の光景を眺めて言うのにリーゼはそう言っていた。
「ジンの暮らしている場所ではどうか分からないけれど、こっちじゃ一番怖いの食料不足だから。どれだけ新しい農法を開発しても、やっぱりあるとき突然不作になる。そうなると悲惨だよ……」
「そうか……」
リーゼもそう暗い顔をして言い、俺は考え込んだ。
「ならさ。日本に不作に強い作物があるから、今度はそれを試してみようか?」
「本当!? 助かるよ~!」
ジャガイモやトウモロコシと言った作物を今度はどこかに植えてみよう。
そんな話をしながらリーゼととともにフリーデンベルクに向かい続け、だんだんと周囲が暗くなり始めた。
「今日はあそこの村で休んでいこう」
「了解」
俺たちは車を道中に会った村に寄せる。
「な、何だ、あれは!?」
俺たちが車で村に近寄るとグリムシュタット村と同様に門がある村の衛兵がびっくりしていた。俺たちは怪しまれないように窓から身を出して手を振る。
「すみません。旅のものなのですが、一晩この村で過ごさせては貰えませんか?」
「はあ。ちょっと待ってくれ」
俺が頼むと衛兵は門の内側に引っ込み、暫くして戻ってきた。
「村長から許可が出た。入っていいぞ」
「ありがとうございます!」
門番の衛兵はそう言って門を開き、俺たちを通した。村に入ると村人たちがざわざわしながら出てきて、俺たちの方を見る。
「注目の的って感じだねぇ」
「このクルマってのは珍しいからね。仕方ないよ」
俺たちは村の外れに車を止めて、車中泊の準備を始めた。
俺がカセットコンロでお湯を沸かしてカップラーメンを食べる準備をしていると、村の人たちは興味深そうに俺たちの方を見てくる。そして、その中のひとりが俺とリーゼの方に歩み寄ってきた。まだ若い男性だ。
「旅の人、それは?」
「ああ。カップラーメンっていいます。保存がきく料理なんですよ」
「ほう……?」
「おひとつ食べてみます?」
俺はそう言ってカップラーメンにお湯を注ぎ、フォークとともに村の人に差し出した。幸い、1週間の予定で食料は詰め込んできたのでかなり余裕はある。それに今日はこの村でお世話になるのだから、これぐらいはしておきたい。
村の人は少しカップラーメンを匂って怪訝そうにしながらも、フォークでパスタを食べるようにくるくると麺を巻いて口に運んだ。そこでびっくりした表情。
「これは美味しいな! ここまで塩気のある食べ物だとは……。香りも香ばしいし……。いやはや、これは新鮮だ!」
「気に入っていただけたなら嬉しいです。2、3個差し上げますよ。お湯を入れて3分待つだけでできますから」
「いいのかい? 俺たちにはあまり金はないんだが……」
「お代は結構です。ただ自分たちはフリーデンベルクに向かっていて、帰りにもここで休ませてもらえればと思うのですが、どうでしょうか?」
「それぐらいならお安い御用だよ」
というわけで、俺は村の人にカップラーメンを3個寄贈。
「わあ。これって本当に便利だよね。お湯を注ぐだけでできちゃうなんてさ!」
「俺もそう思う。けど、食べすぎは塩分過多になるから体に悪いって」
「まあ、保存食はどうしても塩分が多めになっちゃうよね。そうしないと腐っちゃうから。それでもこれは美味しいよ!」
俺とリーゼはともにカップラーメンの夕食を済ませて、車中泊した。
「お休み、リーゼ」
「お休み、ジン。また明日ね」
シートを倒してマットを引き、俺たちは横になって眠った。
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