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とある魔法学校の成り代わり聖女  作者: あしなが
フリューゲル学食編

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聖女候補第二位




「はあ、寒い。アリアさん。本当に魔法が使えるようになったのですね」

「……セレーナ……?」


 ラヴィアンがその女の名前を呼ぶ。


 すると、彼女は小走りでラヴィアンの元へ駆け寄り、その胸の中に飛びこんでいた。


「ラヴィアン、探しました! 酷いではありませんか、一緒に食事をしようと約束しておりましたのに。アリアさんと一緒だなんて」


 水色の髪がさらりと靡く。


 水が流れるような清らかな美しさと愛らしさを兼ね備えた、見るからにか弱そうな少女。


 その姿を見ていると拍子抜けした気分になって、私が凍てつかせた床や柱は、すぐに普段の色を取り戻していった。


「嘘つきは嫌われてしまいますよ」

「わ、悪かったよ、セレーナ。もう待たせるようなことはしないから」

「そんなこと言って、ラヴィアンったら、いっつも誤魔化すではありませんか」

「本当だって。全く、どうしたら信じてくれるんだ?」


 アリアと向き合っていた時とはまるで違う。信じられないほど甘く穏やかな声で会話をするラヴィアンに、なんだこいつ、と思っていると、「どうしたのですか、アリアさん」と少女はこてんと首を傾げていた。


「こちらをじっと見て」


 どうしたのかだと? その男は仮にもアリアの婚約者だというのに、違う女とのいちゃつきを堂々と見せられて、呆れているんだが。


「セレーナ様、なんてお美しいのかしら……」

「ラヴィアン様と並ぶとますます輝いて見えますわね」

「本当に。どこかの子爵令嬢とは大違いですわ……隣にいることを恥ずかしいと思わないのかしら」

「というか皆さん、先ほどの尋常じゃない寒さは一体……」

「もしかしてマグライアさんの仕業かしら……?」

「え? でもこんな広範囲に? 彼女、魔法が使えないと……」


 好き勝手に言われている。後半は聞き飽きたが、前半の会話はいただけない。


 元々ここにいたのは私で、近づいてきたのはこいつらだ。


「聞いているのですか、アリアさん」

「すまない、セレーナ。この者は塔から落ちた後遺症で、記憶がおかしいみたいで……」

「記憶が……?」


 セレーナは呟くようにして私を見る。そして「まあ、それは」と頬に手を当てた。


「とても気の毒ですね」


 悲し気に言うその女は、バラム公爵家のご令嬢。セレーナ・バラムだ。


 あのインチキ魔法師がいなくても、なんとなくわかってしまうのは、


 この女が〝聖女候補第二位〟で皇室のお気に入りだからだ。


 教会は時期聖女候補に全面的にアリアを押しているが(というか主に私が推薦しているんだが)、皇室側はセレーナをやたらと持ち上げる。


 その理由は主に財力だ、バラム公爵家は一言でいえば金がある。


 その上、身分も申し分ない。だから、聖女候補の話となったとき、アリアとセットで必ずセレーナの名前が挙がるのだ。


 しかし、改めてこうして対峙すると、ますますあり得ないな。


 いくら魔力量を保持していたとしても、人の婚約者に堂々と手を出しているような女が私の後釜に入るなど。


「セレーナは優しいな……そうやって、相手を思いやれるなんて、こんなに綺麗なのに慈悲深くて本当に尊敬するよ」

「まあ、言いすぎですよ」

「おまけに謙虚だ。聖女は、セレーナにこそ相応しい」


 戯けたことを。


「そう言ってくれるのはラヴィアンくらいです。教会は全面的にアリアさんを押しているもの」

「魔法も使えない庶民同然の女を押すなど……教会の目は節穴なんだな」


 吹き出してしまいそうになる。ラヴィアン、節穴なのはお前の目だ。穴だらけだぞ。


「まあ、そんなことを言わないでください。ねえ、アリアさん」

「ええ、全くその通りです。セレーナ様が聖女になるなど、億が一もあり得ませんから」

「え……」

「なんだと……?」


 私の返しが予想だにしないものだったからか、固まるセレーナと顔を顰めていくラヴィアン。


「貴様、もう一度同じことを言ってみろ!」

「何度でも言いましょう。セレーナ様が聖女になることは極めて低いので、あり得ないと言ったのです」


 私は今すぐにその頭をちりちりのアフロにしてやりたい気持ちを抑えて、「だって」と美しく微笑んで見せる。


 反論した私を信じられないという面持ちで見ている周囲も、言葉が出ないのか口をぽかんと開けていた。


「いくらセレーナ様が美しく、お優しく、相手を慮れるような方だったとしても」


 アリア。嫌味ぐらい言っても構わないよな?


 これでも怒りを抑えてるんだ。ぶっ飛ばさないだけマシだろう?


「〝聖女候補第一位〟ではありませんよね?」


 微笑むようにして告げれば、セレーナの白い頬がぴく、と動いた。ラヴィアンが「アリア・マグライア!」と怒鳴りつけてきたが、耳を小指で塞いで興味のないふりをした。


「貴様は今、彼女を侮辱したのか!?」

「まさか、わたくしは事実を言っただけなのに。……それに仮にも婚約者のいる男性の胸に飛び込み、その相手の目の前でこれ見よがしに引っついて、あからさまに仲の良さをアピールされる。わたくしからすると、あまり気分が良いとは言えません。その場合、侮辱されたのはどちらでしょう?」


 そして残りの食材を皿の上に拾い上げる。


「まあ、明確な答えは望んでませんが」


 はあ、せっかく美味しそうだったのに。勿体ない。


 ぐうぐうと腹はうるさいし、早く飯にしたいところだ。


「それにしてもセレーナ様」


 すっかり微笑みが消えたセレーナを私は見る。


 先ほどまでの、余裕はどこへ行ったのか。凪いだ海のように、ただ真顔のまま私を見つめていた。


「先ほどは忠告ありがとうございました。学園内での魔法は禁止だったんですね。わたくしまだルールが頭に入っておりませんので助かりました」

「…………」

「今度から気をつけますわ」


 まあ、この二人には、今度から関わらない様にすればいいか。


「さて、わたくしの腹の虫がうるさいので失礼いたします。お二人とも楽しいお食事を」


 頭を下げて、踵を返す。


 ああ、食べ物が可哀そうだ……。


 ずーんと皿の上を眺めながら、二人の前から立ち去る


 そんな私の背中を見つめながら、セレーナは真顔のまま爪を噛んでいた。


「なんで死ななかったのかしら」


 そう呟いて。






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