休暇?を楽しみながらプラモデルの様に艦船を弄る。
スターシップとエルミスⅡは有事に備え応急手当だけし、首都星周辺の警戒に眼を光らせていた。
そして待つ事一週間・・・若干予定より遅かったがジェリス艦長とウェルム少将の艦隊が、首都星の在る星系に駆け付ける。
ちなみに首都星の名はあくまで❝ファルディウス帝国・首都星❞で他に固有名詞は無かったそうだ・・・なんの捻りも面白味も無いと思うので「愛する人の名前でも付けたら良いのに」と零したら、翌週には首都星が❝ミューズ❞と名付けられる事に成る。
ジュリアさんが陛下の前で口を滑らしたらしい。
「あら、いつの間にかアイスコフィンが大分変った様ね・・・それに一回り大きく成ったんじゃない?」
ジュリア大尉に言われたボクはリフティングを休め、ボールを手に持ち眼の前に係留されたアイスコフィンを見上げる。
適当に艦体を繋ぎ合わせた歪な格子構造の船体が、同じ骨組み状でもチャンとした構造材で規則正しく造り直されている。
でも本隊から一週間遅れてアイスコフィンが到着し、更に一週間過ぎている・・・ジュリアお姉ちゃん今まで気づかなかったの・・・貴女もココに宿泊してるよね?
「そう言えば、この時間で来たって事はワープも可能に成ったんじゃない?」
「正確には成りながら来たんだけどね・・・・・」
ボク達が寛ぐ部屋に、ウェルム少将が入室しながら言った。
ボク達は今No7ステーション・コロニーの、陛下の別荘で暮らしている。
英雄に対するチョッとした御褒美だそうだ。
そして別荘の横にアイスコフィンが横付けされ、その様子は目視出来る状態だ。
「ウェルム少将、お疲れ様です」
一応礼儀として立ち上がったボク達を座らせると、少将はメイドさんに茶を求める。
彼の説明によるとアイスコフィンの有益性に、新たに4隻のアイスコフィンを建造しその後も増やすそうだ。
だが2隻は早く就航させたかったので建造中だったコロニーの港湾ブロックを改造しアイスコフィン2と3をでっち上げる予定だ。
ボクが許可したのでアリスが協力し、アイスコフィンで造ったドローンの制作・整備ユニットを寄贈する。
この2隻は近日中に就航出来るだろう。
そして初代アイスコフィンも大改造し「外側が出来た所で、その中に現行のアイスコフィンを押し込んで合体させ、航行しながら工事をさせココまで来た」のだそうだ。
ハイパードライブ中も内部で工事しながら、そして可能に成った段階でワープ航行して来たそうだ。
「たった数週間で凄い技術力ですね?」
「たった数日でアイスコフィンを造った奴が何を言う」
そう言いながらボクの頭を撫で、帝国の偉い人達は何故かボクを孫や子供扱いする。
「エビ御馳走様でした。美味しかったです♪」
それを聞いて苦々しい顔をするウェルム少将、
「そうだろうよっ!ウチの牧場の一番良い海老だったんだから」
「へえ・・・提督の御実家は海洋牧場コロニーですか?」
興味津々で聞いて見た。
お肉も海産物も大好きです♪
「と言うより妻の実家のスターブルーム家がだな・・・ワシは入り婿なんじゃ。ジュリア嬢の家は酪農家だが我家は漁業家、ほとんどが海で構成されたコロニーを4つ持っとる。寄生虫などの心配も無いし、品種改良・飼料改良も進んでいるから生でも食えるぞ。お薦めは毒の無い風船魚の卵巣の刺身だ!」
風船魚と聞いて頭にアレが浮かぶ。
『マスターの想像通り、風船魚とはフグの事の様です。ただし地球のフグと遺伝子レベルで同じか迄は保証出来ません』
いや多分同じでしょう・・・地球のフグも養殖だと毒が無いと言うし!
「て・い・と・く♡購入したい場合はドコに問い合わせれば良いのですか?」
「この食いしん坊めっ!」
ポケットから名刺カードを出し、アリスにカチューシャを通して情報を読み取らせる。
「スターブルーム海洋牧場を是非ヨロシク頼むよ・・・キミが食べてくれるだけで、凄い広告効果が有るんだ。と言うよりウチの家内もキミの大ファンで、エビを奪われたと言ったら逆に喜んで追加で送るそうだ」
提督、キスして上げる♪
「男のキスなど要らんわ!ちなみに女房の奴が何と言ったと思う?キミに優先して海産物送るから、ワシの分は後回しだと抜かし居った・・・帰ったらオシオキじゃ!」
「ウェルム少将の奥様って閣下より35も歳下、マダ24なのよ!」
「そりゃお盛んにも成るよね♪」
ウェルム少将は赤面して、
「コレコレ、そう言う事は口にするモンじゃ無い」
そう言いながらスターシップにコンテナを運ぶ申し出をしてくれる。
ご家族がボクのファンと言う話は本当で、ボクにプレゼントを贈ってくれたらしい♪
「まあ此間の戦地と違い、ここはステーションだから大きな荷物も送れるが・・・ワシよりキミへの荷物の方が大きいんだぞ!こんなケシカラン事が有るか?」
「帰ったら奥様をベッドの上でオシオキしましょうね♪」
「だからソウ言う事をだな・・・・・」
思った通りウェルム少将とも気が合いそうだ。
そこへヴェラニ大尉とストラベリー中尉を伴ってジェリス艦長が入室する。
何故か顔が渋い。
「少佐、如何しましたか?」
するとジェリス艦長がしかめっ面で答える。
「まだ公表されて無いが、この度の戦役で2階級特進で昇進した」
「それはオメデトウ御座います!」
「お父さんっ、凄いじゃないっ!」
ファルディウス帝国は完全実力主義で、戦役などで手柄を上げ実力が認められると、フィクションの様にポンポン階級が上がって、より大きな艦隊や軍団を任せられる仕組みに成ってるそうだ。
地球の軍隊って上官の覚えや年功序列・学歴優先で滅多に昇進できない様だしね、実際警察みたいな公務員の方が昇進試験で上がり易いらしいよ?
まあソレだって上の印象次第らしいし・・・・・
「私の事じゃ無い、ジュリアお前の事だ!私はヴァイラシアンに良い様にされ、艦隊の3割を失った直後だからな。良く戦ったと思っているが先の失態の埋め合わせ、降格しなかっただけ良かったと思ってる」
エッ、珍しくジェリス艦長が怖い顔してる。
「この度の戦役で軍はガタガタだ・・・何せトップの大半が失脚・拘禁・逃亡中だ。しかも残った上位士官も、諸外国勢力の対応に国境近辺から離れられん」
まあコレを機に領土を犯しに来る国が有る可能性は否定出来ないよね?
「そこで上級士官の大幅増が求められるが、実はこの戦役が始まった時、キッド君の国外流出を留めたオマエは昇進する話が出ていた。戦争が始まったので後回しに成ったが、オマエは昇進して少佐だったんだよ」
オオッ!
ジュリア少佐、オメデトウ♪
「ところがだ・・・・・」
エッ、何か空気が悪く成ったの?
ジュリア大尉、何かやらかしたか?
「オマエはキッド君と、たった百隻チョッとで30000の艦隊を打ち破ると言う前人未到の功績を上げて仕舞ったんだ。これが如何に凄い事か解らんのか?しかも守り抜いたのは陛下の坐す首都星、それを守ってだぞ!ジュリア中佐・・・おめでとう、キミは2階級特進で中佐に成った。陛下より正式に一個艦隊の指揮をするよう要請が来ている」
ジュリア大尉いやジュリア中佐の眼が真ん丸に成った。
そんなジュリア中佐を抱え上げ、ジェリス艦長は嬉しそうに振り回す。
「しかもオマエはマダ学生で学業終えて無いんだぞ!学生任官で佐官なんて帝国軍事教本に名前が載るなっ!」
まあ地球じゃ絶対有り得ない・・・学生で未成年そして中佐で艦隊司令官何てネ!
「おおっ、上官殿失礼しました。お母上もさぞお喜びでしょう」
「お父さん止めてよっ!」
周りでボク等は真っ赤に成って恥ずかしがるジュリア中佐の表情を楽しむ。
「大きく公表してはいないが、それでも既に発表済みだから口外しても問題はない。今オマエが受け持ってる艦隊は緊急時ゆえに寄せ集めたモノだが、再編成するに従い希望は出来る範囲で叶えたいと言っている」
「陛下ですか?」
「イヤ、この場に居る爺さん達だ」
「「「コラッ!」」」
ビジーズ・カペターズの両大将それにウェルム少将が声を張り上げた。
結局ジュリア中佐の新艦隊は、現在の部下に希望者や投降した将兵を混入して寄せ集め再編成するらしい。
まあ投降将兵と言っても元々同じファルデウス軍人や貴族、銃で脅されたり・・・いや艦砲で脅されたり上官に無理矢理命じられた運の悪い将兵までは罰する事は無いだろう。
現在アイスコフィンを一時的にボクが借り受け支配下に置いている。
先程も言ったが工房と作業用ドローンをスターシップのモノよりランクダウンさせ数台急造し一つをココに設置した。
いま建造中のアイスコフィンも合わせ5隻にはコレを配る。
これは此の侭5隻のアイスコフィンに残して帝国に譲る積り、それを見本に造り方も教えるから他にも行渡ってくだろう。
そしてαトライシクル真偽解析器を簡易化させて数十台作った・・・投降した兵士を使うなら、厳重にチェックしなければ成らない。
同時にエルミスタイプの戦艦と巡洋艦と駆逐艦、同時に巡洋艦は軽量タイプと重装タイプのモデルも造り、これを手本に量産して貰えば良いだろう。
その一方でスターシップとエルミスⅡの改修を行っている。
特にスターシップの強化が課題だ・・・この世界では驚異的な戦闘能力を持つスターシップだが、実はスターシップは高速巡洋戦闘艦と言いながら、本来のテクノロジーに比べれば申し訳程度にしか武装を搭載して無い。
ブラックホールダウンと言う狂気じみた奥の手を持ってるが、そもそも本気で戦闘に備える積り無く、只の旅船として使う積りしか無かったのだ!
そうスターシップはボクが造った船だった。
さて記憶も戻った事だしソロソロ種明かしをしよう。
陛下は戦後処理で忙しく首都星に降下している・・・だが重要な話が有るので、すぐ戻って来てくれる手筈に成っている。
アイスコフィンは筒状の船体自体がドックになっており、その壁面の中には48隻の艦船を収容出来るように成っている。
しかも中心の空洞部分にも船を停泊・係留させる事が可能で、なんならソコでメンテナンスにオーバーホール・カスタマイズそして新造する事も出来た。
イヤ失礼・・・艦体の外側でも出来ました・・・と言う訳でボクの眼の前アイスコフィンのドックで48隻、中心空洞部で23隻、そして外側に無理矢理に係留して84隻の艦船を新造している。
その他にも数えられない位の艦船が周囲に浮かび、修理・改造の処置を受けている。
ジュリア中佐は新艦隊編成に置いて「強力な火力や防御力と同時に、迅速に対応出来る機動力を両立させなければ成らない」と提唱した。
その為に新造船の構造も一から熟考され、特に船の性能には整備性や補充搬入の容易さも要求して来た。
アリスとヴェラニ大尉とストラベリー中尉の3人は、かなり本気で泣かされる事に成った。
「今まで以上の機動性を発揮出来るけど、正直使い易さは損なわれると思った方が良い」
宇宙船の戦闘とは時には光速をも超え行われ、早く成れば良いと言う問題では無くなっていく。
障害物や敵艦・味方間の回避、戦闘の照準など状況判断が、際限なくシビアに要求される様に成る。
もっとも優秀なコンピューターのサポートにより負担の軽減は可能だが、それでも操作性がピーキーに成ってくのは否めなかった。
「そうね・・・私も甘かったわ」
眼の下にタップリとクマを張り付けてジュリア中佐は言った。
「シュミレーションの速度設定を、エルミスⅡの2倍にしただけで誰も付いて来れないなんて・・・・・」
「アチチッ!」
思わず注いでたコーヒーをカップから溢れさせる。
「チョッと大丈夫?」
ジュリア中佐はハンカチでコーヒーを拭い、ボクをシンクに引っ張ってくと水を流して手を冷やしてくれた。
「お・・・お姉ちゃん?」
「お姉ちゃん!?」
そんな呼ばれ方をして狼狽えるジュリア中佐、
お姉ちゃんと呼んだ理由は、この天然ボケ娘を❝さん❞付けや❝中佐❞付けで呼びたくなかったからだ。
「それ何よ失礼ねっ!」
怒るジュリア中佐だが、
「スピード行き成り2倍まで引き上げられる筈無いでしょ!エルミスⅡだって規格外の速さなんだから・・・せめて1.5倍で十分です。実際には1.2~3倍で落ち着くと思うし、訓練は徐々に低倍率から慣らすモノでしょう?」
「だって相対出力が倍に成るって・・・・・」
「ホ~、出力が倍に成ったら早さも倍に成るの?・・・よしジェリス艦長に娘さんが、何を言ってるのか聞かせてやろう!」
ジュリア中佐がボクの脚に縋って歩みを妨害する。
「チョ・・・チョッと待って、お父さん怒ったら航宙力学の復習込の❝お説教❞が始まっちゃうわ!お願いだから黙ってて!ねえ、お願いだから・・・・・」
まあ正直言えば速度を5倍まで上げる事すら可能、だけどヤラナイ・・・暴走する巡洋艦など造りたく無いからね!
性能は潜在的に2倍くらいまで出せる様にするけど、最初はリミッターを掛けて徐々に慣らした方が良い。
それに速度だけでなく旋回に上昇下降など・機動性も充実させたかった。
「それよりスターシップ、あんなにバラバラにして大丈夫なの?」
「一度、根本から組み上げ直す必要が有るからね・・・・・」
船体からブラックホールダウン以外、全ての武装を取り外した。
原型を辛うじて留めているが、船体も大分ハードに分解して組み直している。
アリスはスターシップに搭載されてた航宙戦闘機の中に有る。
考えたくないが帝国に裏切られたら、ボクはアイスコフィンごと全て爆破して戦闘機で逃亡する。
申し訳無いけどファルディウス帝国に帰属する積りは無い。
しかし此のまま良好な関係が続いたとしても、ボクは帝国と深い関係に成らざるを得ない。
スターシップの戦闘力アップは必要不可欠だ。
『本体のカスタマイズは予定通り進行中です。2~3修正が必要ですが、期日等に影響有りません』
「了解、もう少し武装の整理は考えて煮詰めよう。アリス、可能な限り外した武装をエルミスⅡに搭載して」
『軽量級と言えエルミスⅡは巡洋艦、搭載能力には余裕が有ります。十分載せる事が可能です。しかしスターシップの武装は殆ど新規に成りますね?』
船体の改修は済んで無いが、スターシップのファクトリーブロックは新しい武装を急ピッチで作成している。
スターシップは少し決戦兵器的は色合いに塗り替える必要が有るだろう。
『いや十分どころか120分、決戦兵器的な色で塗り固められてるかと思いますが・・・・・』
一言多いぞアリス!
「ブラックホールダウン以外は、そうとも言えないだろ正直言って?もう少しボク達の目的の為には、自由にやりながらイザという時には自分で対処出来る様にして置きたいんだ」
『・・・・・・・・』
「おっ、返事が無いって事は・・・言わなくてもボク達の目的は心得てるって意味だよね?」
『私の義務はマスターの目的が叶う様、最大限の努、イエ、・・・何でも有りません』
ボクにカマを掛けられ言葉に詰まった。
そして最大限の努力と言いかけ止めた。
機械は努力するモノじゃ無いからね!
アリス、やっぱりキミも記憶を取り戻したんだ!
なのに惚けるとは・・・キミも後でオシオキだ!
帝国の皆さんとは仲良くなれてると思う。
でもやっぱりマダ完全に信用する訳には行かない。
全ての人間が信用出来る訳が無いからだ。
だから申し訳無いが裏切られる事は警戒させて頂く・・・陛下も将軍達もジェリス艦長親娘も、皆それで良いと言ってくれた。
だからエルミスシリーズを完成させるのは、ボクのスターシップが完成した後にする。
何かされたら対抗できる様に・・・現にこの半月、引っ切り無しにスパイを摘発している。
外国の情報部や反乱軍の勢力からだけで無く、一番多かったのは帝国貴族の送り込んで来たスパイだった。
まあ100%捕まえてるけどね・・・アイスコフィンのスタッフとエルミスⅡの乗員は、全員ナノマシンを体内に飲み込んでいる。
他人が情報収集に来たら一発で判るのだ。
「でもコレはエゲツ無さ過ぎるだろ?」
クランキー大尉が言った。
新造する訳じゃ無いがジェリス艦長の戦艦ラグナレクやピスタ艦長の戦艦アルマゲドンにも、チョッとズルいカスタマイズして上げてるので、アイスコフィンの外側に係留されている。
その横を捕まえたスパイ達が、動物用の檻に入れられて透明チューブに入ったベルトコンベアで運ばれて行く。
「こう言う真似をする奴等が帝国に多い以上、信用出来る人間にしか情報は明かせないとキッド君から叱られてね・・・悲しい事だ」
「そう言いながらキッド君の情報公開の窓口に収まってるよなオマエ・・・中間マージンで幾ら儲けた?」
ピスタ艦長がジェリス艦長に噛み付いた。
ピスタ艦長は平民出身の職業軍人、商売っ気は全く無かった。
「全く嘆かわしい・・・帝国貴族が職権乱用して」
「じゃあウェルム少将は海水清浄機の技術、要らないんですか?」
「これは老人の楽しみを奪われた慰謝料だから良いんだよ!海老大好物だったのに♪」
「「「「「海老で先進技術を釣るんじゃない!」」」」」
良識的な帝国企業には、コチラで規制する範囲内で情報を公開している。
しかし踏み込んだ部分の情報を、仲の良くなった彼等が齧って仕舞うのは仕方ない事だろう。
「程々にしとけよ・・・今回の内乱は残念ながら褒章が多く出せぬ。その埋め合わせで大目に見てるだけなんだからな!」
その場に居た全員が立ち上がって頭を下げた。
この世界は主従関係も大らかで堅苦しくは無い。
それでも最高権力者に敬意を払う必要は有るだろう。
「寛いでいる所をスマンな・・・如何しても君の言った事が気に成って仕方なかった」
「もう一度ミューズ姫と会話をしたくないか・・・ですね?」
陛下は力強く静かに頷いた。




