ゴンザレスとエール共和国③
「そっち!魔獣行った!堪えて!」
激しく息を吐きながら、僕は牛の魔獣を一息で叩き斬る。
荒い息を僅かの間に整え、次の魔獣へと斬りかかる。
「モーリー!サーリー!大丈夫!?」
モーリーがサーリーを守りながら叫ぶ。
「キョウ!大変だ。街の裏手に大量の魔獣が接近してるって!数は、、、こっちと同じぐらい、、、。」
その言葉は勇者である僕であっても、絶望を感じさせるものであった。
だが、と僕は思う。
僕は勇者だ。
そりゃ確かに、エストリア国に召喚されて、名前だけで浮かれた時もあった。
でも、あの日、僕の大切なものをあの男に奪われた日から、泣いてばかりの僕にサーリーとモーリーは言ってくれた。
『私たちには、貴方が(面白くて)大好きよ?』
副音声っぽいものが聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。
気配読みとかのスキルが発動した訳ではないはずだ。
それ以来、僕はこの世界を強く守りたいと思う様になった。
「崩れるな!耐えるんだ!必ず何か手はある!」
共に戦う周りの冒険者たちを鼓舞し、彼らもまた、それに応える様に、雄叫びを挙げた。
魔力はもう殆どない。
エール共和国のちょび髭元首の指揮の元、集められたエール共和国の冒険者と共になんとか、平原の数千の魔獣については、押し留めることに成功出来そうだが、、、。
同じ数の魔獣を相手に出来る気力はもう誰にも、残ってはいない。
こういう時、突然、勇者の力に目覚めたりするものだけど、現実は甘くはない。
全ては日々の努力の積み重ねなのだ。
チートを貰った僕が言えた話ではない。
ちょっとの努力だけで伸びるスキル。
最強という言葉に溺れた。
そうして、唐突に気付く。
この世界には、たしかにスキルというものがある。
けれど、同時にスキルに表せられない力もまた同様に、存在するのだ。
努力というスキル。
No.0は、ただそれを行っただけなんだ。
奴は、スキルなんてものに頼ることなく、最強になった。
ただそれだけ。
気付いてしまえば、簡単で、そして当然のことだった。
だが、それはどれほど激しく辛い苦難を乗り越えただろう。
だからあれほど、この魔獣が蔓延り絶望が漂う中でも、自分に全く関係がないとでも思っているかの様に飄々《ひょうひょう》として居られるのだ。
スキルなんてない世界から来ながら、それにようやく気づいたのだ。
『惜しいが、今は仕方ない。刻を待とう。』
No.0が僕に会った後、去り際に言ったらしい言葉。
「待っていろ、、、。No.0。必ず僕は貴様の期待に応えてみせる。」
だけど、それにはまずこのピンチを切り抜けなければ!
その時。
ドドドドと激しい音が、街の裏手の方から聞こえる。
「山が!!」
誰かが、あるいは僕が、叫んだ。
、、、やがて街から歓声が上がる。
山が魔獣を飲み込み、街は救われた、と。
街から立ち去ったNo.0。
彼が向かったのは、今まさに魔獣を飲み込んだ山。
そして彼以外にこの長雨で、危険な山に入った者は居なかった筈だ。
「No.0、僕は必ず貴方の求めに応えて見せる!」
それを後ろで聞いていたモーリーとサーリーが、貴方の(身体の)求めに応えて見せる!だってー!!と叫んでいるのは、きっと気のせいだ。
その日、エール共和国を襲った危機は去った。
その危機について、エール共和国元首マークはこう語る。
「カストロ公爵、いえ、No.0はこう言いました。
貴様らの覚悟を見せろと。
世界最強に頼るのではなく、この危機は、この世界の危機は全員で乗り越える試練なのだ、と。
それと同時に彼は希望もまた、私に提示しました。
ベテラン冒険者を集めよ、と。
当然、彼は知っていました。
最強勇者と呼ばれるキョウ・クジョウがこの街に居たことを。
なんのことはない、私の執務室を訪れる前に、キョウ・クジョウに接触済みだったのです。
キョウ・クジョウはNo.0の女であるという噂もあります。
彼は自らの大事な女をこの街に置いて、山の方に入っていったそうです。
そう、我々が情報を掴むよりずっと前から、魔獣が前面だけではなく、後背の山から接近していることに彼は気付いていたのでしょう。
気付いていたから、彼は私にああ言ったのでしょう。
後ろは任せろ。
全員で前から来る魔獣を防げ、と。
世界最強と呼ばれる存在がいる。
曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。
曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。
曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者
曰く、元男でも関係なく、愛せる慈愛の人
曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に
刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0
それが、世界最強ランクNo.0、、、。
その伝説に偽りなしです。」
だが、そこからカストロ公爵アレスと名乗るNo.0は忽然と姿を消した。
ある者は言う、彼はその身を賭して、魔獣と相打ちになったのだ、と。
ある者は言う、彼は神の遣いであり、使命を果たし消えたのだ、と。
ある者は言う、彼はいつものように、忽然とその姿を現すのだ、と。
だが、誰一人として、その真実を知らない。
それが、世界最強ランクNo.0彡☆
温かい、、、。
誰かが俺を救い出し、抱きしめている。
女性特有の良い匂いだ。
何処かで嗅いだことのある、、、。
そう、いつも一緒に居た、、、。
俺はゆっくりと目を開ける。
年の頃は10代後半といったところ。
亜麻色の髪を肩まで伸ばし、綺麗より可愛い系の女だ。
「あ♡あるじ様。お目覚めになられましたね!」
その名は世界ランクNo.8イリス・ウラハラ。
俺をNo.0と慕う勘違い女。
そして、俺の恐怖の対象。
ヒーーーーヤアーーーー!!!!!!!!




