過去7 京子編
短めです。
「ゴホッ…はっ…つっ…。」
苦しい、辛い。もう、持って何時間、いや、何分だろうか。
今の私はいつ死んでも可笑しくない状態だ。
ベッドからもう動けない。
さっき晴樹が「待っていて!」と言ってから何処かへ行ってしまった。
最後くらいずっと晴樹といたかった。
何処へ行ってしまったのだろうか。寂しい。
いつもはこんな弱気にならないのに、弱っているからだろうか、本音がどんどんとこぼれてくる。
今日は私の誕生日だった。
この日を迎えられ良かった。今日で私は26歳になった。
私の人生を思い出すと、26年間しかなかったのに、たくさんのことがあった。
12歳の頃に両親がいなくなって、晴樹に出会い、頑張りすぎて倒れて、晴樹の事を好きになって、晴樹の秘書になって、病気で死んでしまう。
私が生まれてきて一番幸せだったことは、晴樹と出会えたことだと思う。
晴樹がいてくれたから、こうして幸せに生きてこれた。悔いはないと言いたいところだったけど、本当は、本当は、もっと生きたかった。
もっと、晴樹と一緒にいたかった。私が死んだら、晴樹はどうなってしまうの。
私のこと、忘れてしまうの。
(会いたい。)
晴樹に会いたい。私がいなくなってしまう前にもう一度、ちゃんと言いたいことを言いたい。
(晴樹…。)
私が願ったからだろうか。部屋の扉が開いた。
そこには
「京子っ!」
晴樹がいた。
「晴…樹っ、」
晴樹は私を優しく抱き締めてくれた。私の頭を撫でてくれた。
「遅くなってごめん、待っててくれてありがとう。前デートしたときに買った指輪を取りに行っていたんだ。26歳の誕生日、おめでとう。」
それで、晴樹はいなくなったのか。
(指輪…。)
「左手、貸して」
晴樹はそう言ってきたので、私はなんとか手を動かし、晴樹の手の上に乗せた。
晴樹は私の左手の薬指に綺麗な銀色で、宝石が何個もちりばめられている指輪をはめてくれた。
「これ、ペアリングだから、僕のもあるの。京子にはめてほしいな。」
晴樹は笑顔で言った。
今の私の力ではめられるだろうか。私は晴樹から同じ指輪を貰うと、力が入らない手で晴樹の左手の薬指にはめようとしたが、なかなか入らない。
私が指輪をはめるのに苦戦していたら、晴樹が私の手を包み、一緒にはめてくれた。
二人の手にはお揃いのリングが光輝いていた。
私は晴樹に言おうとしていたことを思い出し、青白い手で晴樹の頬を包んだ。
「晴樹、今まで、ありがとう…晴樹に出会っ、た時から、ずっと…貴方は私の光よ、愛しているわ…。」
私はとびきりの笑顔で晴樹に言った。
さっきまではあんなに笑顔だったのに、私の言葉
を聞いた途端に泣き出した。
「もっと、一緒にいたかった。折角、想いは通じあったのに、本当は、君と結婚して、家族ができて、仲がいい夫婦になって、一緒に会社を支えていきたかった。京子が…京子がなんで病気何かで…」
(晴樹も私と同じ考えだったのね。)
私は嬉しくなった。そして、別れるのがもっと嫌になった。
「それは、良いわね…絶対に、幸せだわ…きっと出来る…今は無理だったとしても、いつかは…」
確かこの前宝石屋のお店の人はこの指輪は『来世でもまた』と言う意味が込められていると言っていた。嘘でもかまわない。ただ、今はこの指輪にすがっていたかった。
「そうだね。いつか…いつか全体、叶えよう。僕と二人で。」
いつの間にか私も泣いていた。
何故かこの約束は、必ず叶う気がした。
「いつか、私を見つけたら、絶対…晴樹は私を捕まえて欲しい…たとえ、私の記憶が無くなっていようとも…」
もう、ダメだ。
本当に山本京子の人生は終わる。
「もう、無理みたい」
泣きながら、悲しそうに私は笑った。
晴樹も泣きながら、私をいとおしむように見つめて、
「京子、愛しているよ。今まで京子がいてくれて、とても幸せだった。また、会おう。」
晴樹は『さようなら』ではなく『また会おう』と言った。
永遠の別れではない。また、会えると信じて。
(それじゃあ、私も)
「晴樹、愛しているわ…また、会いましょ…う」
さっきから繋いでいた手から滑り落ちて、意識もなくなってきた。
もう、山本京子はいなくなる。
意識がもうろうとするなかで私の唇に柔らかいのもが触れた。
そこで私の意識は途切れた。
「お休み、京子。」
晴樹は深い眠りについた愛しい恋人に、優しいキスを落とした。
そして見てしまった。
彼女の指輪が消えていくのを。
前、店の人が言っていたのは本当かもしれない。
彼はまた会える日を確信し、その日を待ち遠しく思った。
「仕事、しようかな。」
目元に残った涙を拭い、晴樹は今日も仕事を頑張るのであった。
過去編の京子編は終わりました。いつか過去編の晴樹編を書こうと思います。ここまで読んでいただきありがとうございます。次からは第2章になります。




