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ドイツ軍召喚ッ!〜勇者達に全てを奪われたドラゴン召喚士、元最強は復讐を誓う〜  作者: LA軍@呪具師(250万部)アニメ化決定ッ


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第1話「北の最前線」

久々更新!

しばらくは日曜日更新予定!

次は4/26〜です。


また、

新作も投稿しました!


『ミミック』転生~ダンジョンで冒険者を食べてたら、いつのまにか「厄災の箱」呼ばわりされてたけど、希望はありません~


↓のほうに、リンク貼ってます!


よろしくお願いします

 ビュゴォォォォォォオオ…………!




 王国北部───最前線。



 冷たい風の吹きすさぶ北の大地。


 王国によって多数の要塞線が築かれているが、それより北には何もない……。



 唯々(ただただ)、茫洋とした大地が広がり、全てが凍り───あるいは枯れ果てていた。



 ……いや、正確には違う。


 何もない(・・・・)わけではない。

 荒れた大地の先、凍り付く河川と巨大な湖を越えた先───。

 魔都、エーベルンシュタット。

 そこは人類に仇なす魔族が生息し、それらを統べる魔王がいる都市……。


 その魔の都で彼等は牙を研ぎ、

 温暖で肥沃で豊かな土地を求めて南下し、度々人類の文化圏と衝突し世界に混沌をもたらしていた。

 そして、王国は千年の昔よりそれらと対峙し、常に勝利し───駆逐してきたのだ。


 かつては勇者が。



 ……今は───勇者に負けないほどの、勇気と秩序と強さを持った人々がこの地を守ってきた。



 王国軍───最精鋭『野戦師団』。

 彼らが睨むには魔王軍との最前線───。


 ……つまり、人類を守るべき、絶対国防圏(・・・・・)の外縁である。


 そこに築き上げられたのは、強固な要塞線の数々であり、

 堅牢な城塞に、堀を巡らせた砦。


 そして、大量の人足を投入し築き上げた長大な防塁があった。


 要塞には、常に精兵を配置し、

 数々の拠点には機動戦力たる騎兵部隊が日々訓練に明け暮れ、防壁の上にはありとあらゆる兵器がズラリと並んでいた。


 ここ(・・)こそが人類の希望にして、史上類を見ない最強の陣地。

 そして、ここを治める者達が王国史上最も活躍し、最も信頼される軍隊が───野戦師団である。


 『野戦師団(ディヴィジョン)』……───彼らは強い!


 王国随一の騎兵部隊を誇り、

 王国最強の歩兵隊を編成し、

 王国唯一の魔法部隊である魔法兵団すら配属されているのだ。


 攻守どれをとっても最強にして、最恐。


 彼等さえいれば、北の大地からどのような敵が来ても跳ね返すことができる。

 その精強さに、王国は───……ひいては人類全体が守られているのだ。


 ───そして、今日この日、いつものように野戦師団の毎日はやってきて、

 彼等は人類のため、いつものように魔族からの脅威を防ぎ、平和に貢献するのだった……。


 それはここ、野戦師団本部のある北部国境一の大都市───前線都市においてもそれは変わらない。


 

 ──ガラガラガラ……!



 そんな最前線の都市に向かって、粗末な車輪をきしませながら多数の車列がキャラバンを組んで移動していた。


 大地は痩せこけ、川は荒れ果て、木々は細い、ろくな産業もない北の地ではあったが、

 最前線の都市は、多数の軍人を抱えるがために、ここは最大の物流拠点でもあり、常に人々の通行があった。


 人が集まれば物資が集まる。

 物資が集まれば人が集まる。

 集まる物資と人を求めて、王都はもとより、帝国よりも商人がきて恐ろしい規模の物資がやり取りされていく。

 人類生息圏の最遠であり、最前線でありながらも、王国では王都に匹敵する規模の最大消費地なのであった。


 無数、無数、無数の物資と軍人と軍人と軍人軍人と──!


 糧秣、

 武器、

 軍馬、

 飼葉、

 補充兵に大型武器──そして、奴隷と強制労働者たちがひっきりなしに往来する最前線……。

 そして、今日もまた、哀れな強制労働者たちが最前線のこの地へと消耗品として運ばれてくるのであった。



  ガラガラガラガラガラガラ……!

   ガラガラガラガラガラガラ───。



 そんな消耗品を運ぶ一台の馬車があった。

 粗末で、中の人間(モノ)の乗り心地など一切考えない粗雑なつくりのそれ(・・)

 まるで護送馬車のようなそれ(・・)の中にあって、一人の人物が格子を手に外の景色を眺めていた。


「……ふふっ。まさか、またここに戻ってくることになるとはな───」


 馬車の狭い窓から、グレーの空を見上げて皮肉気に小さく呟くのは、美しく輝く金髪をかき揚げ小さく呟く凛々しい人だった───。


 その見た目に全くそぐわない様子からも、ただの奴隷や囚人でないのだけは察せられた。おそらく元は貴族か騎士などの階位の高い人間だったのだろう。

 それを示すように、目は鋭く、所作は洗練されていた──この馬車の中にあってでも。


「ふぅ……うぅ……」

「大丈夫か──────……リズ」


 彼女は、窓の外から視線を外すと、そっと隣の少女──リズをを抱き寄せ、頭を優しく撫でてやった。

 それでいくらか落ち着いたらしい少女の数多をよせ、周囲を見渡し小さくため息をつく。


 いつまでここに……。


 ……不衛生な馬車の中には、女性が一人、二人などではないほど詰め込まれていた。

 リズを含め、全員が全員、虚ろな目つきで格子付きの馬車に入れられ、唯々揺られている。

 冗談でもなんでもなく、すし詰めのモノ扱い。いや、いっそ家畜だ……。


「まだ眠っているがいい──……どうせ、目覚めたって良いことはないしな」


 優しく撫でつけ、その頭に口づけを落とし、そっと胸に抱く。

 何日も洗っていない頭が酷く臭ったが、自分も負けず劣らずの臭いだなと、自嘲気味に笑う。

 ……いや、頭どころか体だっていつ風呂に入ったのか思い出せないほどだ。髪を掻けばぽろぽろとフケは落ちるし、肌をこすれば爪の中まで真っ黒になる程の垢だ。

 おまけに、毎日毎日、最前線の荒れくれた兵士どもの相手をさせられて、身も心も疲れ果てているうえ、身に着けている物はといえば、ボロを纏うのみ。


 この中のほぼ全員が、ここまでに酷い暴行でも受けたのか、ボロから覗く手足には痣がいくつか見えた……。


 それでも──。

「……安心しろ、リズ。何があってもお前のことは私が守る──」


 リズを抱き寄せる彼女自身が一番酷い有様だというのに、その目は強い輝きを持っていた。

 酷い生傷だらけ。だがその意志の強そうな眼は全く濁っていない。


「──この身を呈してでも、な」


 ギュッと抱締める手に力を入れると、リズも僅かにだが目に光を灯して彼女を見上げる。

 その間にも、馬車はガラガラと喧しい車輪の音をたて、大勢の軍人が行き交う野戦師団本部へと向かっていった。


 ……ここまでは予想通りだ。

 覗き見た外の光景と喧噪。その見知った光景を見て目を細めると、皮肉気に口角を歪めた。


「ふ……。騎兵連隊の本部から慌てて連れ出したと思えば……。今度は師団司令部か? 出世とは嬉しいね」


 脈絡のない移送に、これは何かあったなとあたりをつける。

(どうやら、よほどのことがあったらしいな……)


 師団本部の旗が、寂し気に揺れているのを楽し気に眺めて、薄く笑う。 


 すると、

「おい、さっきから喧しいぞ! 鞭を貰いてぇのか!」


 ガンッ!!


 馬車の御者から、長打とともに鋭い声が投げかけられる。

 その様子に中に閉じ込められている女性たちが激しく怯えるも、当の言葉を投げられた本人は涼しい顔だ。


「ふん……。好きにしろ。鞭だの暴力だので私の意思を削ぐことができるとでも?」

「んだと、ごらぁあ!!」


 ガツン!!


「「「ひっ」」」

 挑発するような声に一気に激高する御者。

 格子をぶっ叩いて中の人間を怯えさせると、その様子にニヤリと口角を吊り上げるが、言われた本人はまったく表情を変えておらず、飄々としているではないか。


 ……それに気づいた御者が憎々し気に顔を歪めた。


 それどころか、怯えた様子で震えているリズの頭をポンポンと軽く撫でて落ち着かせるほどの余裕があるではないか。


「ふっくくく……。どうした? 随分落ち着きがないじゃないか? それに急な移送───我々を囲っていた第一騎兵連隊はどこへ行った?」


「だ、黙れこのアバズレ! 異端者の係累が偉そうな口叩くんじゃねぇ!」


 なにが気に障ったのか、馬車の操作もそっちのけで、口から泡を飛ばしながら怒り狂う御者。

「おいよせ! 構うなッ」「うるっせぇ!」

 見かねた馬車列の護衛兵が宥めているが、全く聞く耳を持たない。


「……ふッ。おかしいよなぁ? この時期に移送? 雪も降り始める時期だ───……。一刻も早く食料を備蓄しなければならない時に無駄な人員の配置換え?? ふくく。……別に女の交換というわけでもなければ、補充が必要とも思えない。何せ、私達はお前の言う通りのアバズレ───……いわば傷モノだ。師団本部のお偉方の食指が動くとは思えんがな……」


「ぐ……! さっきから訳知り顔でペラペラと! いい気になっているのも今の内だぜ。ここの連中がお前らをたっぷりと可愛がってくれるとさ! それも軍の高官じゃねぇぞ───下っ端の兵隊どもがさ、げははははは!」


 下卑た声で、ひーひーと膝を叩いて笑う御者。


 そして、

「ひひひ、そっちの可愛い子ちゃんは俺が相手してやるよ───てめぇは、せいぜい昔の部下に可愛がられるんだな! えぇ、おい? 部下の数は百人か? 千人かぁ───元大隊長殿(・・・・)ぉ。……それが終わったら、俺も相手してやっからよぉぉぉおお。げははははは!」


「ふん……ゲスめ。貴様の貧相な竿()で、相手も何もない。その辺の馬で練習してからこい」


 ニィ……と全く堪えた様子もなく笑う様を見て、脅していたはずの相手に侮られていると悟った御者は、顔を真っ赤にして馬車を止めた。


「こ、こここ、このクソアマぁぁぁああ! ぶっ殺してやる!」

「おい、いい加減にしろ!!」


 さすがに見かねた護衛が、馬車の手綱を引き強引に進ませる。


「ほら、もう本部につく──────アンタも黙ってろ!」


 ガンッ! と馬車の外から格子を殴りつけ護衛の兵も不機嫌を表明した。


「ふッ。笑止──────……怯えているのは、お前らだよ」


 クククク。


 そう言った彼女はひとしきり笑うと、愉快そうにリズの肩を抱き、独り言のように語った。


「……ふふふ。野戦師団の連中───随分と慌てているな。あの、アホ騎兵連隊どもが姿を消したかと思えば、」

 ──急な移送とな?


 それだけで十分怪しいというのに、

 だというのに魔王軍の侵攻の兆候もないと来た。……つまり、

「……何かあったな?──帝国が動いたか、それとも政変でもあったのか……。いずれにしても、大事(おおごと)だぞこれは───」


 くくくく……。


 ならば、チャンスはある。

 ……か細い糸のような滓かなチャンスという名の希望……。

 それでも、

「……それでもリズ───。気を強く持てよ。必ず……必ず、助けは来るさ。…こんな理不尽、あってたまるものかよ」

「たす、け……?」


 リズが瞳に光を宿し、小さく呟く。


「あぁ、そうだ───。理不尽を打ち砕き、不義を正す───温かい救いの手が必ず来る」

「……それって、ゆう───者?」


 ッ!


(……勇者、か)


 ──リズは知らないのだ。


 何もわからないまま、囚われ───北の前線に送られ、異端者の係累として、奴隷のごとく酷い扱いを受けていた。

 だから、事の発端が勇者たち(・・・・)にあったことなど何も知らない。


 ただ、恐怖に負け───……言われるがままに、叔父を異端者と言い切ったリズ。


 それは、家族であり、流行病で亡くなった母のなきあとに残された最後の家族を(おとし)めてしまった事に他ならない。

 そして、そのことが、彼女の心に……深く、深く突き刺さっていた。

 ……希望を失うほどに───。


「勇者…………か。…そうだな。きっと、本物の勇者(・・・・・)が来る───そして、」


 トン。とリズの胸を叩くと、


「お前も立派な勇者だよ───……」

「わたし、も、勇しゃ?」


 あぁ、そうだ。


「───立派な勇者さ……。そうとも、お前とお前の両親……そして、ナセル・バージニアは間違いなく勇者だ。…そんなお前と、お前たちを私はを誇りに思うぞ」


 そうだ。

 あの理不尽に耐え、抗い……。


「そして、戦った───!」

「戦ぅ……。わ、たし、何も……」

「いや、戦ったよ───」


 そうとも、リズは戦った。抗った……。

 どんな理不尽にも、自らの命を繋いだのだ──。


 そう。ナセル・バージニアの最後の希望としてッ。


「充分に戦っているさ───……と?」


 その時、ガタンッ! と、馬車が大きく傾き、

 バリバリバリ! と、枯れ枝を踏むような音を立てて何かに乗り上げた。

 だが、御者、懸命に鞭を振り、馬力にものを言わせて強引にそこを乗り上げていった。


 どうやら野戦師団本部の敷地内に入ったようだが──────……。

 

(なぜこんなに道が悪い? 腐っても、ここは師団本部だろうに…)

 訝しみつつ、車外を覗き込むと、

「げッ! デカい骨(・・・・)を踏んじまったよ。車輪傷んでねぇかな?」

「あ~……大丈夫そうだ。ったく……。そこら中にあるぜ、ほんと。段々と酷くなってやがるな。──死体の片づけも追いつかねぇほどか……」


 酷く不機嫌そうな、それでいて嫌悪感を感じさせる声で、御者と護衛がぼやく。


 死体……?

 骨───??


(そして、何だこの匂いは───……?)

 その時、鼻を突く悪臭に気付いた彼女らが馬車の外を見れば───。


「「「「ひぃ!!」」」」

「む…………こ、これは?!」


 彼女たちの視界に、多数の十字架が目に飛び込んできた。

 それも、恐ろしい数……そして、大量の──────炭化した死体のぶら下がったそれを……。


(な、なんてことだ。これは───……)


 か、火刑の跡だ……。

 寒空にあってさえ腐臭を放つほどの大量の焼けた死体。死体死体死体の山だ──。


 さすがにこの光景には護送している兵らも不快気に顔を歪めている。

 匂いも、光景も、とても愉快なものではないのだから当然だろう。


「ちっ…………まぁた、異端者(魔女)狩りか?」

「だろうな……。八つ当たりもほどほどにしてほしいぜ。……ま、ほとんどが異端者というより、その係累ばっかだろうけどなー。ったく、最近じゃ街や師団内からも、手あたり次第連行してるって噂だ」


 そう言ってバリバリバリと、今度は遠慮なしに十字架から落ちた死体を踏み割りながら馬車は奥へ行く。


(異端者狩り……いわゆる魔女狩りか───……。まったく愚かなことを)


 フラストレーションの溜まる戦場では、捕虜の虐殺や、非戦闘員への暴行などは、度々起こりうるリンチ現象だ。

 とくに敗戦直後や、補給の途絶え───そして、情報の錯誤が主な原因となる。


 ───敵を討て、

 ───あそこを見張れ、

 ───我らの敵を根絶やしにせよ……か。


 戦場ストレスがピークに達しているのだ。


「……惨いことをするものだ」

「ひっ、ひぃぃ……」


 ガタガタガタ…!


 リズは死体の山を見てすっかり怯え切り、ただただ縋りつくのみ。

 だから、その頭を撫でてやりながら言う。


「大丈夫だ。……私が、私がいる──────……そして、いつか来るさ、」

「ひぃ……! いやだ。嫌だよぉ! 帰りたい! 帰りたいよぉ!! もういやだぁぁぁ!」


「リズ……」


 ポンポンと肩を撫でてやり、その小さな頭を抱きしめる。


「落ち着け。落ち着くんだリズ。……来るさ。アイツは来る。…………ナセルは来る(・・・・・・)──────……私が認めた男だ。絶対に立ち上がって、な。……そうして、あの男は必ず来る───」


 必ず──!


「ナ、ナセル……おじ、ちゃんが───?」


 ……あぁ、来る。

 ナセル・バージニアは必ずお前を救いに来る!


 ……あんな理不尽(・・・・・・)に屈する男ではないッ。


「───そして、理不尽を真っ向から叩き伏せて、不義を打ち破って見せるさ!」

「う、うん───!」


 強く断言したその時、


 ……ガっ、ギィィィ……!!


 調子の悪そうな音を立てて馬車が止まり、御者の男はうんざりした顔で振る変えると、

「はっ。おめでたい奴だぜ───……その、ナセル何某(なにがし)のせいでそんな目にあってるだろうが、よ───」


「……ほざけ、それはお前たちの言い分だ──。こんな戯言に耳を貸すなよ、リズ」

「ぅ、ぅん……」


 到着したことにより、その先でまた酷い目にあうと知っているリズは、やはりガタガタと震えている。

 その肩をそっと抱いてやるも……。


「へ! そうやって、気丈にやってられるのも今の内さ、おらッ、全員降りろ!」


「ひぃぃ!」「いやぁぁあ!」

 乱暴に引きずり出されていく女性たち。


「騒ぐな!! さっさと歩け!!」

 その中にはリズ達も含まれていて、狭い馬車の中で痺れた足にも関わらず無理やり連行されていく。


「ぐっ!」「い、痛ッ!」


 だが、悲鳴をあげる彼女らにまったく気遣いもなく、まるで家畜のように引きづっていくと……。

 そんな彼女たちの目の間に広がる凄惨な光景が広がった。


 ぶーん……。

 ブン、ブンブー……。


 大量の羽虫が湧き、酷い悪臭を放つ──。


「くっくっく。どうだい? 新しいオウチの光景はよー!……ひゃは、ひゃははは! この次はお前らの番かもしれないぜぇぇえ!」


 ───ひゃーはははははははははは!!


「く……」

 残酷に笑う護送兵たちの嘲笑に煽られながら、まざまざと見せつけられた光景は、十字架に磔にされ、今もくすぶる炎に生焼けにされた多数の女性や男の死体の山であった。


 そして、

 悪臭を放つ原因は敷地の隅には処理しきれなくなった死体の山と、

 その山からも溢れた人骨のゴミ捨て場──……。


「……これはまた、地獄のようだな」

「「「ひぃぃぃぃいい!」」」


 それは、まさに地獄の光景だ。


 死体死体、死体未満。うめき声と虫の息。……そして、それらを容赦なく貪り食う野犬に鳥類ども。


 さらに、奥の方では、未だ燻る炎とともに、火刑に処されていく誰かの死体と、それを熱狂するように煽り立て野戦師団の兵士数名と前線都市の住民たち!


  「うぉぉおおおお!! 魔女、魔女! 異端者は死ねぇぇ!!」

  「焼け! 焼け! 焼けぇぇぇえ!!」


  「「ギャハハハハハ! 魔女が、異端者が燃えているぞぉぉぉお!」」


 その光景は───……。

 リズ達異端者の係累には、誰しも既視感のある光景だった。



  死ね♪ 死ね♪ 死ね♪



 「あぁ……そうか」瞼の裏に浮かぶ、あの日の地獄……。


 ……あぁ、どこもかしこも同じ巷だ。

 そう、今時どこにでもある、地続きの地獄───……。


「やだ……いやぁああAA!!!」


 リズが怯えて漏らす。

 王都で処刑された両親の姿が蘇るそれが、彼女にとっての精神的外傷(トラウマ)なのだ。

 磔に去れた死体と煽り立てる民衆──それらすべてが、容赦なく彼女の心を(えぐ)っていく……。


「おいおい、なんだなんだ?!」「お、新入りだぜえぇ?!」

「ウケケケ、活きのいいのがいるぞぉ?!」「……見ろよ。美人だぁ。こりゃ、楽しみだッ」

「けーけっけっけ! どうせ死刑だ! 魔王軍に与した連中は全員焼いちまえ! 魔女どもはさっさと焼けぇ!」


  「「「そうだ、そうだ!! 異端者どもは死ね!!」」」


 わあぁぁぁぁぁあああああああああ!!

  わぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!


 司令部前に集まった町の住民たちが、火刑の興奮そのままに、到着したばかりにリズ達を口汚く罵る。


 魔女は焼け!

 異端者の係累は同罪だ!

 殺せ殺せ!! と──────全民衆がリズ達を指さし、そういう(・・・・)のだ。


「いやだ……いやだよぉ!」


 耳を覆うリズ。塞いでも塞いでも声が途切れない!


 その耳を頭ごとそっと抱きしめ、

「気にするな、リズ。言いたい連中には言わせておけ──

「……へへへ。気丈なこった。だけどよぉー……お嬢ちゃんを抱く手が震えてるぜぇ。くへへ、さすがにアンタも怯えているみたいだなぁ」


「く…」


 御者の男は厭らしく笑い、リズ達をあざけると、そのまま連行するつもりで、無造作に彼女たちを繋ぐ縄を引く。

「……こ、これしきで、」

 見透かされた想いに顔を歪めるも、それでも震えた手を隠すようにリズを強く抱きしめる。

「へへ。強がりを言うなよ。……ほぉら、言ってる間に到着したぜぇ。……ようこそ、異端者の係累専門の労働所へ。げーひひひ、精々可愛がってもらいな、元部下たちによ~。シャ───」


 わぁぁぁあああああああああ!!

  わあぁぁぁぁぁあああああああああ!!

   わぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!


「ち、うるせぇ民間人どもめ。一回、公開処刑を見せてやったらこれだ。……焼くのも殺すのも、まだまだ先だっつーーーの」


 歓声が御者の言葉を多い尽くす。

 人々は火刑に熱狂していたのだ───。


「……まぁいい。せいぜい、ボロボロに汚しつくされるまで、束の間の()を楽しみな、お嬢さん方───その後は、炎で浄化されて神の国へ行けるようにしてやるからよー。ぎゃはははははははははははは!!───入れッ!」


 ──ガッッシャーーーーーーーーーン!!


 女郎屋よりも酷い牢獄に押し込められるリズ達。

 その耳には、火刑に処されていた哀れな魔女が一人が燃え堕ち、そして崩れさる音に民衆が熱狂し、笑い狂う姿と声が届いていた……。


 ここは悪名高き『強制労働所』。その中でも、ここは最前線の中で、最も大規模かつ劣悪な場所──…通称『矯正施設』

 ──なにを強制し、なにを矯正するのやら……。


「うぅぅぅぅ……」


 閉ざされ、外の音が間遠くなるも、なお兵士や民衆の熱狂した声が遠くに聞こえる……。


 そんな悪意に満ちた声を聴かされるうちに、リズは、また暗い世界に落ちていく……。

 落ちていく───……。


 死んだほうがましなほどの絶望しかない世界に落ちていく……。


 いやだ……。

 いやだ───!


 嫌だよぉぉお!!

 帰りたい……! あの頃のお家に帰りたい!


 ───誰でもいいから、助けてよッ!!


 少女の声なき声が叫び声となるまさにその時……。



   それ(・・)は来た──────。



「…………ぉぃ、───なんだ、ぁれは?」

「……見ろ! ……の上だ!」

「……ッ! 雲だ! ……の中に何かいるぞッ!」


 なにかに焦り、怯える声を響かせる兵士たちと民衆の声がジワリと広がっていく。

 それは扉に遮られくぐもっていたが、徐々に外の喧噪が静まり──。

 まるで、野生動物が捕食者の気配を感じて息をひそめるようにして、ついにシンと静まり帰ってしまった……。


 代わりに──。



   ……グオォォォォォォオオオオオオオン。

    ……グオォォォォォォオオオオオオオン。



 それが突如として、何の前触れもなく出現した。

 ……まるで空を圧する雷鳴にも似た轟音を、ビリビリと、ビリビリと揺るがしながら、魂を鷲掴みにする圧倒的な咆哮で大地を叩きつけながら───……。


 ゴウン、ゴウン、と気流をかき乱す巨大な質量が空を行く……。


 こ、これは……?

 この気配は────?


 最前線で魔王軍と対峙していたものなら知っている。

 この都市の人間なら誰しも感じたことはある圧倒的強者の気配。



   ……怪鳥か?!

   いや、違う。たかが鳥に怯える野戦師団ではない。


   ならば。

    ならば──……!



「……り、竜だと?!」

「竜が一騎、現出ッ!!」


「……い、いや、違うぞ! 一騎じゃない!! む、無数だ! 無数の竜がいるぞぉぉぉ!」



  ──ド、ドラゴンだぁぁぁあああああああああああああ!!



 カンッカンッ!

  カンカンカンカンッ!!


 その悲鳴が鳴り響いた途端、野戦師団本部を貫く空襲警報!

 鐘楼に取り付けられた大型の鐘が危急を告げる!!


「空襲ーーーー!! 空襲ーーーーーーー!!」


 ──空襲警報、発令ぇぇぇええええ!


 ドラゴンっ!!

  ドラゴンだ──!!


「「「──ドラゴンが来るぞぉぉぉお!」」」


 その瞬間、

 あれほど熱狂していた民衆の声が不意に鳴りやみ、

 あれほど罵倒していた兵士の声が鳴りを潜める。


 かわりに、一瞬にしてパニックに陥る野戦師団本部。

 民衆は悲鳴を上げ逃げ惑い、兵士は武器を手に所定に位置にとり急ぐ!


 ──う、う、うわぁぁぁぁああああああああああああああああ!!


 その喧噪は、矯正所に詰め込まれたリズ達のもとにも伝わってきた。


「な、なに……?」

「しッ……静かに」


 閉ざされた施設の中。


 「(くそ?! む、無数の竜だと?……バカな!)」

  「──勇者親衛隊(ブレイズ)は全滅したんじゃなかったのか?!)」

   「(お、おいおい、あの数は異常だぞ? 味方じゃないのか?! よく確認しろ!)」

    「(──ま、魔王軍の、奇襲攻撃かもしれん! 将軍閣下に連絡だ!! 急げッ!!)」


 バタバタ! ドタバタ!!


 どうやら、なにかとんでもないことが起こっているようだ。

 兵士たちの大移動の音とともに、民衆の悲鳴が混じっている。


(敵襲……? 野戦師団本部を強襲したバカがいるというのか──??)


 訝しむも、その正体はわからない。

 だがそれよりも、収容されているリズ達に聞こえたのはより衝撃的な言葉だった。


「(……えぇぇぃ! 構わんッ迎撃準備! 対ドラゴン戦、用ーーーーーー意ッ!!)」


 ──うぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!


(対、ドラゴン……?)


 今。

 ……ドラゴンといったのか───??


「ま、まさか…………」


 思わずリズと視線を合わせるも、

 その脳裏に浮かんだ面影は、施設内にいた兵士が武器を手に慌てて外に飛び出していく乱暴な音にかき消される。


「えぇい、どけ!!」「邪魔だ、異端者の女どもが!!」


 ──バンッ!


 だが、同時に!

 その瞬間、まさに閉ざされていた扉が開かれ外の大音声がリズ達に届いた……。


 そう。

 届いたのだ──かの大音声が!!


  グオォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

   グオォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

    グオォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「あ、あれは……!」


 あれは────!



    「……ドラゴン」



 リズと共に見上げた北の最前線のグレーに染まる夜明けの空。

 その朝焼けに煙ぶる鬱屈とした空の下を、無数の黒い影が舞い飛んでいく!


 ゴゥンゴゥンと空気をかき混ぜながら、大地を圧する大音声とともに──それはまさしくドラゴン(・・・・・・・・)だった。



 ドラゴン……。

  ドラゴン……。


   ドラゴン──────って……!!





「ッッ?!」





 ………………ま、まさ、か……。

 ……まさか、



「まさか─────────!!」

お読みいただきありがとうございます。

久々更新です!


また、新作も更新しました。


『ミミック』転生~ダンジョンで冒険者を食べてたら、いつのまにか「厄災の箱」呼ばわりされてたけど、希望はありません~


下記にリンクを貼ったので是非ともお読みいただければ幸いです!




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