私はフレーム(倉庫に保管中)
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
私はホンダスーパーカブ。
走り続けて何年が経ったのだろう。雨の日も雪の日も走り続けた。
いつ頃からだろう?道路に大量の塩が撒かれ始めたのは。
塩は私のリヤフェンダーをみるみるうちに蝕み、
穴を開けてもまだ浸食していった。
そしてとうとう破滅の日が来た。
「あれ?傾いとる。何でやいな?」
とうとうサスペンションの取付け部まで錆に蝕まれてしまった。
もう走れないだろう。他にも錆びて腐ってしまった所は沢山ある。
自分の車体の事は自分が一番わかってるよ・・・。
「バネがもげてしもた」
御主人は私を必死になってバイク屋まで運んでくれた。
小さなお婆さんが泣きそうになって私を押す。
バイク屋は私を見た途端、ため息をついた。
「溶接で直せるレベルやないで。グスグスやで」
「なんとかならんか?こいつとは長い付き合いなんや」
バイク屋さんは首を横に振った。
「ここまで腐ると直しようがない。直せても強度を保証出来へん。」
「ここまでか。今までおおきに」御主人は皺だらけの手で私を撫でた。
バイク屋は買い替えを勧めたが、御主人は私を最後のバイクと思っていたそうだ。
高齢になった御主人はこれを機会に免許を返納することになった。
車体が腐った私はバイク屋に引き取られてあの世行き・・・。
ナンバーを外された私は部品が外されフレームだけになった。
タガネが打たれてフレームナンバーは消された。
そして私は溶鉱炉で解かされて再び鉄として再利用された。
誰が言ったのだろう。
「バイク乗りはスーパーカブに始まり、スーパーカブに終わる」
そんな私にも終わりの時が来た。
私はスーパーカブ。錆に侵されこの世を去る。
御主人様の思い出と共に・・・・・
・
・・・・あれ?
何故か意識がある。気が付くと、私は箱に納められていた。
トラックへ積まれて何処かに移動している・・・と思う。
何で?何が起こったの?お~い。どうなってるの~?
トラックが止まった。何やら話し声が聞こえる。
「お届け物で~す」
「はい、ハンコ。それと署名と代金ね」
私はトラックから降ろされた。
「今回は大荷物ですね~。バイクの部品ですか?」
「フレームや。ホンダ純正の新品のフレーム。」
「へ~買えるんですね。フレームって」
「ややこしい手続きが有るし、割に合わんけどな」
どうやら私の魂は新しいフレームに移ったらしい。
そして走り慣れた安曇河町へ戻って来たようだ。
「錆びてボロボロになるまで事故に会わんかったフレームナンバーや。
事故して廃車になったフレームと違って実に縁起が良い」らしい。
こうして私は生まれ変わって出番を待つことになった。
次はどんな人が乗ってくれるのかなぁ。
今度は高嶋市以外にもいろいろな道を走りたいなぁ。
私はスーパーカブ・・・のフレーム。
新しいご主人様と出会う事を夢見て、今日も眠り続ける。
後にこのフレームは大島の手で再生されて新しいオーナーの元へ行くのだが、
それはまた、別のお話。




