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私はオートバイ  作者: 京丁椎
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私はミント(磯部の最初のバイク)

フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。

私はミント。ヤマハの小さなスクーター。


小さくて軽い私は女の子が乗るのにピッタリなスクーター。

免許取立てのお嬢さん・奥様の買い物の足・お婆さんの散歩の足・・・。

老いも若きも重宝する人気者。


安いから自転車代わりに買ってくれただけだけどね。


そんな私も段々と歳を取り、ウジャウジャ居た仲間も見かけなくなった。

私もあちこちが弱った気がする。


私は走ることは出来るけど、御主人様の体調は深刻だ。

病に伏せり入院中。今日は御主人様の孫が私に乗ってお見舞い。


「お祖母ちゃん。調子はどう?」

「う~ん。良いんか悪いんか解らへんな」

「何か食べる?果物持って来た」

「ありがとうな。剥いてきてくれたんか?」

「ううん。お母さんに剥いてもらった。私は包丁はちょっと」


「リツコちゃん。あんたは御転婆さんやから女の子らしゅうせんと。

皮むきを使うても良いんやで。お祖母ちゃん、心配でならんわ」


そんな会話が有ったみたいだけど、私は駐輪場に居たから聞いていない。


リツコの祖母、節子は駐輪場からエンジン音を響かせて走り出す孫娘を窓から見ていた。


息子はリツコの幼い頃に病気で他界。嫁は外に出て必死で働いている。

リツコを女の子らしく育てるのが自分の仕事と思って来たのだが、

自分の気持ちを知ってか知らずか、孫のリツコは御転婆になってしまった。


「あの世であの子に何て言い訳しようかしら・・・」


御主人の孫のリツコちゃんは御転婆さんだ。

免許を取って以来「わ~ん!寝坊した~!」なんて言いながら

暖機もせずにブンブン走る。


きついなぁ・・・。


ある日、リツコちゃんは妙に早く学校を出発した。

家を通りすぎて高嶋市民病院へ直行。


御主人様が亡くなった。

家族も覚悟はしていたらしく、葬儀はしめやかに行われた。


「お祖母ちゃんはね、『リツコが心配や。女の子らしゅうなって良い御婿さんに

嫁いでもらわんと』って最期まで言ってたのよ」


「お祖母ちゃん・・・」


それから、リツコちゃんは少しだけ御淑やかになった。

時間に余裕を持って出発する。足を揃えて乗る。

大慌てで走らなくなった。


男子から告白されたけど「それどころじゃないから」と断っていた。


勉強勉強・・・学業に明け暮れたリツコちゃんは無事に大学へ合格した。


初めての一人暮らし。私も付いて行った。


「大学で勉強して、しっかりした仕事に就いて、良い御婿さんと結婚して

お母さんを安心させなきゃ。でも、ちょっとくらいは良いよね?」


大学生活を満喫しながらリツコちゃんは再び教習所へ通い始めた。

就職に必要な普通自動車免許と憧れていた大型自動二輪免許を取るために。


普通自動車はMT免許で取れた。『教習所の伝説』になったらしいけど。


大型自動二輪は、引き起こしと坂道発進で苦戦していた。

それ以外は順調に進んでいたので、バイクと相性は良かったのだろう。


「可愛いよな。あんな女の子にシフトされたら萌えるよ。」

「ニーグリップされると堪らんよね。男と違うよ。」

「今日は3号車か・・・良いな~」


その3号車はデレデレして走ってる。何でカワサキって(おとこ)ばかりなんだろう?

不思議だなぁ。


そして卒業検定の日。

「てめえみたいな下手糞を公道へ出して堪るかっ!」

「おととい来やがれっ!」

「・・・まぁ・・ええんちゃう?」


教習車の声が聞こえる中、リツコちゃんがスタンバイしている。

凛とした姿はお婆さんの若かかりし頃に似ている。


「ゴメンね。厳しく行くけど仕事だから・・・」

検定はエースの1号車か・・・女性が乗ってもデレデレしない奴だ。


「馬鹿野郎!優しくしろ!」

「我らの女神をもう少しだけここに!」

「頼む!引きとめてくれ!」

好き勝手言う教習車たち。(おとこ)って奴はまったく・・・。


リツコちゃんは緊張せずそつなく検定をこなした。

最期の急制動で少しだけロックしたけどそれ以外の減点は無かったと思う。

無事に教習所の卒業検定に合格。


免許センターでの学科試験も合格して無事に免許を取得した。


その後のリツコちゃんは学業・バイトに明け暮れる毎日。

私に乗って通学・バイトへ走り回った。


そして二十歳の誕生日。

「二十歳のご褒美!バイクを買うぞっ!」

大学近くのバイク屋へ行く途中・・・私のエンジンが止まった。


「あれ?あれ?ミントちゃん?どうしたの?」

数回キックしようとするがキックが降りない。


「ま、いいか。バイク屋さんへ行く途中だし」

リツコちゃんは私を押してバイク店へ向かった。


バイク屋の店長はすぐにカウルを外してシリンダーを見てくれた。

「焼き付きだねぇ。全体的に傷んでるし・・・どうします?」


手入れが悪かったわけでは無い。オイルも良い物だった。

長年走り続けての磨滅や経年劣化で仕方が無い。完全に寿命だ。


やれやれ・・・私もここまでか。


「姐さん。どうした?」声をかけてくるバイクが居る。


「焼き付きよ。あなたは?」


「中古コーナーで並ぶのに向けて商品化中」


「新しいじゃない。どうして売られたの?」


「先輩の方が良いからだってさ。乗り易けりゃ良いってもんじゃないんだね」


「ウチの御主人、免許取立てよ。乗りやすいって自信があるなら誘ってみたら?」


「あのなぁ、姐さんよ。俺は大型だぞ。原付きとは違うよ」


「あの娘、大型二輪免許は持ってるよ。アタックしたら?」


「そうか・・・」


「店長さん。このバイクは?」

「中古で出そうと思ってるんです。殆ど乗らずにZ1に乗り換えた人がいましてね」

「ふ~ん・・・良いわね・・・これ」

「慣らしが終わったくらいの極上車ですよ。私が乗りたいくらいです」


「店長さん。私にこのバイクを売ってください。お金は頑張って払います。お願い・・・」

目を潤ませて店長を見つめるリツコちゃん。


まだまだ甘い。『店長さん』じゃなくて『おじさま♡』の方が

破壊力があるのに。それでも破壊力は充分みたい。


「店長~そんな安値で売ってどうするんですか~!」

「・・・・・可憐だった」


もう役目は終わったね。私も御主人様の元へ行く事にするか。


私はミント。小さなスクーター。役目を終えて黄泉の世界へ旅立つ。

大きな西風(ゼファー)にリツコちゃんを任せて・・・。



「店長。このミントどうします?処分するなら欲しいんですけど」

「いいけど、ヤレてるぞ?」

「それが良いんですよ」

「?」

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