赤い少女
「いやぁ、助かったよ。どうもありがとう」
「いいわよ、べつに。アタシが勝手に助けただけだし」
現在、俺は馬車に乗せていただいている。いろいろあってかなり疲れていたので、彼女が通りかかって本当に良かった。
ちらりと横を見てみる。赤い髪を左のサイドテールにして、つり目がちな赤い瞳が活発そうな印象を与える美少女だ。胸や右肩に赤黒い小さめの鎧っぽい物を着けているから、何か戦う職業についているのだろうか。
「しかし、いいのか?女性が一人で、素性の知れない男を招き入れてしまって」
「問題無いわ。アンタが何者でも、何かされる前に馬車から蹴り落とすくらいの事は簡単だし」
お強いようである。
背後を確認すれば、そこには彼女の物らしきハルバードが置かれている。目の前の少女がこれを使っている姿は、あまり想像できないが。
「そういえば、名前教えてなかったわね。アタシはフラムっていうの。見たところ冒険者どうしだし、姓はいらないでしょ?」
どうやら、彼女は冒険者というやつのようだ。
うむ、実にテンプレである。
「俺は冒険者じゃないけど………流次だ」
「ふうん、リュウジっていうんだ………って、冒険者じゃないの?じゃあ、アンタ何者?」
「何者か、と言われると…………旅人?」
「なんで疑問形なのよ…………やっぱり怪しいわね。王都につく前に、ちゃんと説明してもらうわよ、アンタのこと」
ほう、この馬車は王都とやらに向かっているのか。今初めて知った。
「俺のこと、か…………」
正直、俺ことを話す事は簡単だ。しかし…………
ありのまま「別の世界から来ました~」なんて言って、狂人扱いされて馬車から落とされる……なんてことになったら困る。王都がどれだけ離れているかわからない以上、ここで移動手段を失うのは、よろしくない。
………………………………………。
………………………………………。
…………………ま、べつにいいか。
場所はわかっているんだ、歩いていればいずれ着くさ。
「俺、こことは別の世界から来たんだ」
「………へ?」
固まってしまった。
「大丈夫か?」
「ちょ……ちょっと待ってよ…………じゃあアンタ、『渡り人』なの……?」
わたりと?
「何だい、それは」
「渡り人も知らないの?じゃあ、やっぱり、そういう事なの………?」
どういう事なの。
「ああ、ごめんなさい………渡り人っていうのはね、別の世界から来た人間のことよ」
なるほど、異世界から渡って来た人、だから渡り人か。
気持ちがいいほど安直なネーミングだ。
「そういう言葉があるって事は、過去にも異世界人が来た事があるのか?」
「うん、そんなに頻繁には来ないけど………だいたい、100年に一人くらい?」
女神の言葉とも一致するな。
「そういう事なら、俺はその渡り人だよ。証明はできないけど。だから、信じられないなら、それでもいいけど」
「…………ううん、信じる。ただの勘だけど、アンタは普通とは違う感じがするし」
「勘か……」
「そういうのも鍛えないと、冒険者としてやって行けないのよ」
そんなもんか。
「ねえねえ、渡り人ならさ、アンタも何か凄い力があるの?!」
「は?」
「渡り人にはね、たまに凄い能力や知識を持った人がいるの!アンタは何かないの?!」
テンション高っ。
「残念だけど、俺がもらったのは、とりあえず戦えるだけの身体能力と、今身に付けている物だけだよ」
「そうなんだ…………ねえ、ちょっと見せてよ」
「ん、いいけど」
そう言うと、彼女は俺の荷物を漁り始めた。まあ、特に珍しい物は入ってないはずだけど…………馬車って、片手運転して大丈夫なのか?
「ねえ…………これも…………?」
「ん?…………あ」
ごめん、やっぱり珍しい物あった。
ドラゴンの角、入れておいたの忘れてた。
「いや、それは拾ったんだよ。さっきの森の中で」
一応、事実は伏せておく。言わないでって言われたし。
「………あの森で?」
「ああ」
「…………そう………」
どうかしたのだろうか。あの森には、本来ドラゴンはいなかった、とか?
「これは隠しておきなさい。アンタは知らないと思うけど、ドラゴンの角なんてのは、かなり強力な素材だから。無用心にしてると狙われるわよ」
そういうわけではないらしい。というか、心配された。まだ出会って数十分だが、このフラムという少女はお人好しのようだ。
「ありがとう」
「………べつに」
素直ではないようだが。
「さっきから言おうと思ってたけど………アンタ、その棒読みなんとかならないの?お礼言われた気がしないわ」
「………すまん」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「さ、着いたわよ」
雑談してたらいつの間にか着いた。意外に近かったな。
「一応、この国の国民として言っておくわね。………ようこそ、王都『エル・エカイユ』へ」
ドラゴンの角=屋敷一軒
くらいの価値があります。主人公はまったく知りませんが。
評価・感想等お待ちしております