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奇妙なラブレター  作者: 山本正純
後編 I know it is not a date any more.
13/34

「ダブルブッキングには気を付けてください」

 9月9日月曜日。午前8時春上博也は自分の下駄箱の前でため息を吐いた。先週の金曜日に行った江角千穂の作戦が失敗したため、今日からはいつも通り午前8時に登校した。

「またか」

 

 春上の下駄箱の中には黒い封筒が入っている。彼はその封を剥がし中身を確認する。仲に入っていたのは彼を悩ましている奇妙なラブレター。新聞や雑誌の文字を切り抜いて書かれたものだ。そのラブレターに目を通した彼はポケットに三枚目となったラブレターを仕舞い江角千穂がいる二年三組の教室へと向かう。


「千穂。三枚目のラブレターだ」

 開口一番。春上は息切れを起こしながら、机に教科書を並べている江角に話しかける。

 江角千穂は春上から三枚目のラブレターを受け取り読む。

『9月6日は早く来ていたよね。もしかして探りを入れているのかな。そろそろ呼び捨てにしてほしいな』

「なるほど。奇妙なラブレターの差出人さんは呼び捨てを望んでいるそうですね」

 

 女性をさん付けにすることを止める瞬間からその女性は大切な人となる。それが恋愛関係なのかそれともそれとは別の特別な関係になるのかは分からないが、男の勇気が試されることに変わりない。

 その上で江角千穂は三枚目のラブレターの内容に納得した。

「それでどうする」

 春上の質問に江角は笑いながら答えた。

「要求に従うしかないでしょう。それともう一つサービスしてあげませんか・・」

 江角の追加注文に春上は首を横に振った。

「それはちょっとダメだろう」

「そうですか。それをしたらラブレターの差出人は泣いて喜ぶと思うのですがダメですか」

「だからそれをやったら差出人の思うつぼだろう」

「確かにそうかもしれませんが、遅かれ早かれ彼女はあれを要求してくるでしょう。ここは先手を打とうではありませんか。それに今週末は都合がいいですし」

「分かったよ。覚悟は決めた。今週末の三連休であれをする」

 決意した春上は教室に戻ろうとする。そんな彼の後ろ姿を江角は呼び止めた。

「それともう一つだけ注文です。ダブルブッキングには気を付けてください」

「分かった」


 覚悟を決めた春上は颯爽と教室に戻っていく。そんな彼とすれ違う形で夏川誠は二年三組に現れた。

「江角さん。ラブレターの件で何か進展がありますか」

「デートです。この三連休に容疑者たちを個別にデートに誘い差出人を特定する作戦です」

 夏川は江角の発言を聞き驚いた。

「いきなりデートですか。須藤涼風さんは良いとしてテレサ・テリーさんと漆谷梅子さんと春上くんは出会って一週間しか経過していないと思いますので、デートに誘うには早すぎませんか」

「大丈夫ですよ。こちらには秋山君に貰った情報ノートがあります。それさえあればデートくらい攻略できるでしょう。もっとも一番攻略に苦戦するのは須藤涼風さんでしょうが」


明日からヒロインたちをデートに誘う話が始まる。

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