一話:ドラゴン(1)
「ほんとにやるんですか?」
「ええ、私たち自身のためですわ」
「でも……」
「迷っている暇はありませんわ」
「それでも……この大きさのドラゴンを2人で相手にするのはキツイと思うのですがー!!!???」
* * *
─1日前
リスタとルティラがフロンツ王国とヨーラヴィリア王国の国境を越えてすぐの村に着いた時のことである。2人はその村の惨状を目にした。入る前からわかるのは荒らされた畑。いくつか半壊している民家。それらがすぐ目に付く場所にあるのだ。
「これは……魔獣の被害を受けたのでしょうか?」
「魔獣……これだけの被害を受けるのならばかなり強い個体なのですわ」
そんなことを話しながら2人は慎重に村に入っていく。あれだけの被害を受けているのだ。果たして村に人がいるのだろうか。と考えていたが、案外そんな心配はいらなかった。半壊した家屋たちがある場所を抜け、少し奥の方へと行くと、村人たちがせっせと農作業に精を出していた。
「すみません」
「おや、あんたたち、見ない顔だな。旅人か?」
「そうです。少しお話聞いてもいいですか?」
「ああ。と言っても、あれだろ?村の入り口の半壊した家とかぐちゃぐちゃの畑とかだろ?」
「そうです」
「あれはな、1年前に魔獣の被害にあってそのままなんだ」
「直さないのですか?」
リスタがそう言うと、ルティラが推測を口にする。
「まさかとは思いますが魔力の濃度が高くなりすぎたのでは?」
「お、正解だ。俺は魔法のことは知らねぇが、その魔獣を追い払ってくれた人によれば土地の魔力濃度が高くなりすぎてるらしい。そんな場所には人間は住めねぇし、人間の食べ物も育たねぇんだとよ」
「なるほど。ありがとうございます」
「おう、この村で気になることがあればまた聞いてくれ」
そうしてリスタとルティラは畑仕事をしていた人と別れ、まずは宿をとるために宿屋へと向かっていく。
「先ほどから何か考え事ですか?」
宿屋へと向かう途中、ルティラはずっと何かを考えていた。それが気になり、リスタは聞いてみる。
「あぁ、いや……リスタは知っていると思っていましたわ」
「何がです?」
「魔獣が土地の魔力汚染を引き起こす条件ですわ」
「魔力汚染を引き起こす条件……」
魔力汚染とはある土地の魔力濃度が高くなることである。魔力汚染された土地には人間や普通の動植物が生存することはできない。生存できるのは体内に大量の魔力を宿している魔族、魔獣。そのほか特殊な植物だ。
そして、その魔力汚染を引き起こす条件というのが、一定期間に大量の魔力がその土地に接触するというものだ。聞くだけなら簡単に魔力汚染が起こりそうだが、実際には簡単ではない。まず一定期間というのが5分以内。そして、大量というのが、生物の中で平均魔力量が真ん中くらいに位置する”夢魔”や”魔女族”という種族のほぼすべての魔力を使ってようやく魔力汚染を引き起こすのである。さらに、その魔力汚染が続くのはせいぜい1か月。1年も魔力汚染が続いているのは、その時、その土地が浴びた魔力量がそれよりも何倍もの量だったということを物語っている。
「──というのが魔力汚染を引き起こす条件ですわ」
「ん~……言われればそんな感じでしたね……記憶喪失ですが、知識は失っていないので……これは普通に忘れてしまっただけでしょう」
「まぁ仕方ありませんわ。魔力汚染を引き起こすようなことはどう頑張っても人間にはできませんし、やろうとするほかの種族もいない。それに魔力汚染を引き起こすことのできる魔獣は人間が住むような場所にはほぼ確実と言っていいほど来ませんわ」
「……ですけど、さっきの人は……」
「ええ、魔獣に荒らされたと言っていましたわ」
「魔力汚染を引き起こすことのできる魔獣がこの近くで住み着いているということですよね……」
リスタとルティラがそんなことを話していると、目的であった宿屋の前にいつの間にかついていた。
「まずは休憩ですわね」
「ええ」
そう言って2人は宿を取り、それぞれ久しぶりのベットへと寝転がる。フロンツ王国から出るまでほとんど野宿をしていたせいで久しぶりのベットの柔らかさに体が喜んでいるのを感じる。
「こんなにベットがありがたい物だったなんて、旅に出なかったら知りませんでしたわ」
「でしょう?あ、ロマとメアも出してあげないと」
そうしてリスタは自らのカバンから眠っているロマと、そんなロマを温め続けているメアをゆっくり取り出した。季節はもう冬になっている。ルティラの魔法によって2人の周りは少し暖かくなっているが、あまり長期的に使えるものではない。
「あ、ルティラ、さん…」
「なんです?」
「もう保温の魔法を切っていただいても大丈夫ですよ?」
「あぁ、ロマ様のために、まだしておいた方がよかったと思いまして……」
「あ~……でも、ベットがあるので。こっちで寝かせておきます。メア、ロマと一緒にいてくれる?」
「ニャ~」
「よしよし、いい子」
そう言ってリスタはメアに干し肉を渡す。食べ物をもらってメアはご機嫌そうだった。
「それじゃあ、私は少し外に行って何か旅に役立ちそうな物を買ってきますけど……ルティラさ、ルティラはどうしますか?」
「ついていきますわ!旅に出てから初めてのお買い物ですから!」
リスタに呼び捨てにされて少しテンションが上がったルティラだが、旅での初めての買い物でさらにテンションが上がる。
「何か準備はいりますか?」
「何か買いたいものがあれば自分で買ってもらうのが一番なのでお金が必要ですけど……必要であれば私がお金を出しますけど……」
「いいえ、もちろん自分でお金は出しますわ」
そう言ってルティラは持っていたバックの中からお金の入った袋を取り出す。所持金は多いとは言えないが、少なくとも貯金だけでこの村で1週間はやっていけるだろう。
「それじゃあロマのことはメアに任せて、一旦買い出しに行きましょうか」
そうしてリスタとルティラは宿の外に出る。保温の魔法は今はないので厚着をしているのだが、それでも寒いと感じるほどだ。
「記憶を失ってから初めての冬ですけど、冬ってこんなに寒かったんですね」
「リスタは寒さの度合いがわからないのですか?」
「ええ、まぁ。”冬は寒い”という知識があったとしても、経験したすべてを忘れてしまっていますから」
そう言いながら2人は歩く。今売っている食べ物と言えば硬いパンや冬野菜、保存食くらいしかないが、旅人にはすべてがありがたい食べ物だ。
「干し肉をいくつかとパンと……今日は暖かいスープでも作りますか?」
「賛成ですわ!」
リスタはルティラにそう言われ、いくつか野菜を買う。前までは自分で手作業で火を起こしていたが、ルティラがいる今、火を使う料理がかなり簡単になっている。こういう面から見ても彼女を仲間にして正解だったとリスタは心の底から思う。
「そう言えば、ルティラはどうやって魔法を覚えたんですか?」
「どうやって、とは?」
「すべての属性の魔法を、しかも1属性1個などではない。1属性につき複数個使えるでしょう?それも上級魔法もいくつか使えている。その歳でやってのけるのには相当な苦労があったはずですが……」
リスタがそう言うとルティラはふふんと鼻を鳴らし、自慢げに答える。
「なんと、私、運のいいことに独学ですべてを習得できましたの」
「ど、独学?!初めからですか?」
「初めからですわ」
魔法を独学で理解し、複数個も、更には上級魔法を習得するためにはかなりのセンスがないとできない。ルティラはいわゆる天才の枠に入る人間だ。基本的に魔法師となる人間には師と呼べる存在がいる。個人的な師匠だったり、学校に通うことで出会える先生だったりだ。しかし、師というものを持たず、基礎すら自分1人で学び、己の力にできる魔法師がいったい何人いるだろうか。
「すごいですね……」
「すごいでしょう?これは自分でも誇れることなのですのよ?たとえ、誰かから卑下されようとも、これだけは自身を持って言えますわ」
そんなことを言うルティラの目は一瞬どこか遠くの方を、怒ったような目で見ていた。その視線を向けられた相手は今頃反省しているだろうか。そんな考えがリスタの脳裏をよぎり、笑いがこみあげてしまう。
「何笑ってますの?」
「いいえ?笑ってませんが?」
「声が笑ってますわ!」
そんな言い合いをしながら、少女たちは買い物を続けるのであった。
様々な種族の中で悪魔族(夢魔)や、魔女族の平均魔力量は中間くらいですが、人間族の平均魔力量は下の下くらいです。しかし、平均なので人間族の中でも上振れた人間は中の下くらいに位置しています。
※今までの物語内で出てきた種族と、大まかな魔力量比較
人間族<<獣人族<妖精族<死霊族<魔女族≒悪魔族(夢魔)<吸血鬼族<<竜人族<悪魔族(太古の悪魔)
ルティラは獣人族位に位置しています




