第三章閑話:呼び方
時刻は夜。フロンツ王国と、その隣国、ヨーラヴィリア王国との国境付近。リスタとルティラ、そしてロマとメアは野宿をしようとしていた。魔獣や追手の兵士たちは、ルティラが使う幻覚魔法のおかげで数時間は心配しなくてもいいらしい。
[ブドウ姫そこの毛布入らせて]
「はい!」
「ブドウ姫?」
ロマが文字を使ってルティラと意思疎通を図っている際、リスタはブドウ姫という単語が気になった。
「なんでロマはツェルンさんのことをブドウ姫と呼ぶのですか?」
そんなリスタの問いに、ルティラはロマの代わりに答える。
「ツェルンがブドウが有名なので、おそらくそこから来ているのですわ」
ルティラがそう言うと、ロマは「その通り」とでも言うように首を縦に振った。なるほど、ブドウの特産地が出身であり、フロンツ王国第一王子の元婚約者の特徴を取ってブドウ姫という名前になったのだろう。
「一応ルティラという名前はお教えさせていただいたのですが、呼びやすいらしく……」
リスタとルティラがそんな話をしている間、ロマはいそいそとルティラの使っていた毛布の中に入る。
『あったかいワ~』
夜になると冬が来たとわかるくらいの厳しい寒さが襲ってくるので、ロマは人が使っている毛布の中に入るのだ。
『ご飯もあんまり食べてないのに、冬眠……初めて、ネ……』
温かさが体にしみわたると同時に、ロマに眠気が襲ってくる。リスタとルティラの会話が聞こえてくるが、それすらも子守唄だった。
* * *
『ロマちゃん寝ちゃったニャ』
リスタの膝の上に座っているメアがそう言った。リスタもルティラもメアの言っていることは完全にはわかっていないが、なんとなくは理解したのだろう。2人ともロマのほうを見て少し声のボリュームを下げる。
「メアも寝ていいんですよ?」
『もうちょっと起きておくニャ』
「寝ないんですか?じゃあ……ルティラさんの近くにいてあげてください。そろそろ私は周りを見張っておきますので。ルティラさ……る、ルティラは寝てくれていいですよ」
「いいえ、私も起きていますわ。少し目がさえてしまって……」
「それなら、メアとお話でもしてあげてください」
「そうさせてもらいますわ」
そう言ってルティラは近くにあった木の枝を持って、地面にガリガリと文字を書き始める。今2人と2匹が野宿をしている場所の地面には乾いた苔が敷き詰められているので簡単に文字が書けるのだ。そうしてルティラとメアは筆談を始める。それを横目に、リスタは周りの見張りを始めたのだった。




