十一話:猫っていいですね
「白蛇様。大丈夫ですか?起きられますでしょうか?」
ロマにそう話しかける声がある。最近ようやく慣れてきたその声の主は、ブドウ姫こと、ルティラ・ツェルンだ。
『ンン……ふぁあ~……』
「本日は少し寒いですから、部屋にいるのがおすすめですわ。お望みでしたらお湯でも──」
そんな風にルティラはロマのお世話をする。ロマは何とも思っていないが、リスタがこの場にいたのならルティラに感心していただろう。なぜならルティラは貴族の令嬢。しかも、かなり地位の高い侯爵の令嬢だ。そんな彼女が”お世話をする”という、令嬢とはあまり結びつかないことをしている。しかも、蛇にとって適切なお世話をするのだ。
「う~ん……白蛇様のご飯をもっと手に入れたいのですけど…今日は肌寒いですし、私が持ってくるしか……」
[ご飯無いの?]
ルティラの独り言を聞いて、ロマは紙にそんな字を書き、ルティラに見せる。すると、ルティラは困ったような笑みを見せた。
「そうですね。焼いたお肉などを白蛇様が食べられてはお腹を壊してしまうのですわ。ですので、生のものが一番好ましいのですが……厨房に行くにしても、私が入らせてもらえるわけがありませんし……」
そうしてルティラはまたブツブツと独り言を始めてしまう。ロマ的には無いのなら無い。ということでいいのだが、ルティラ的にはそうもいかないらしい。まぁ、そろそろ冬眠の時期だというのに全く食べていないのは致命的だが、今日を入れてあと2日もすればロマのもとにリスタが迎えに来る。なのであまり心配はしていないのだ。
[アタシは今日動かないから食べ物はあんまりいらないわ。アタシがお腹を壊さないご飯だけ頂戴]
ロマはそう書き綴り、ルティラに見せる。それを見たルティラは申し訳なさそうにしながら、運ばれてきた朝食の中で食べられそうな部分だけをナイフとフォークで器用にほぐし、ロマに渡す。
「あぁ、あとそれから、昨日王宮の庭で見つけたものですわ。これもどうぞ」
そう言ってルティラが差し出したのは1度冷凍され、再びぬるま湯で解凍された2匹のトカゲだ。冷凍処理も解凍処理もルティラの魔法によってされたのだろう。ロマはほんのりそのトカゲからルティラの魔力を感じ取る。
[これで2日は持つわ。とりあえずご飯はなくても大丈夫よ]
ロマはそう言葉を綴り、トカゲとルティラの朝食の一部を飲み込む。そしてそれらを食べ終わるとロマはベットの中に潜り込む。ほのかに残るルティラの体温が、ロマの体を温める。そうしてそのままエネルギーを節約するためにロマはそのまま眠ってしまったのだった。
* * *
ロマが眠りについたころ、リスタとメアは王都をグルグルと歩き回っていた。なぜかというと、今日を入れて2日後に王城にロマを迎えに行かなければならない。その時のための逃走経路を探すためだ。
「よし、この道もリストに……」
そうしてリスタはいくつかの道をメモし、できるだけ頭の中に叩き込んでおく。隠密行動をする予定だが、王城で警備をしている騎士たちが簡単にそうさせてくれるとは思えない。見つかる前提で動くのが前提であり、見つかって追いかけられている途中に王都の道がメモされたメモ帳を見ている暇などはない。
(まぁ、最悪屋根の上を走るつもりですが……それは目立ちすぎるので最終手段にして……あとは……)
逃走経路はある程度確保できたが、リスタには一つ懸念点があった。それは、王都から出た後である。まず間違いなく見つかったまま王都外に出ても、最低でもフロンツ王国中ではお尋ね者扱いだ。当然だ。王城に侵入したとなれば、何も盗んでいなくとも盗みなどの罪を疑われるだろう。
「もう少しフロンツ王国でしたかったことはあるのですが……こればっかりは仕方ありません。最速でこの国を出ましょうか」
そうしてリスタはこの国を抜け、隣国までどれくらいの日数がかかるのかをざっくりと計算する。
「寝ず……それから飲まず食わずで1週間くらい……でも、ロマとメアが酔うことを考えなければあと1日くらいは早くこの国を出れるかもしれないですけど……」
そうつぶやいてリスタはちらりとメアのほうを見る。すると、メアは不満そうな顔でリスタのほっぺたを肉球でポンポンと押してくる。
「じゃあ、この国を出るなら、最低でも1週間以上かかると……それまで捕まらないといいんですが……」
そんなことをつぶやきながらリスタはまた王都を歩く。今度は逃走経路を見つけるために歩くのではない。逃げるときに顔を見られてはいけないので、それを防ぐための仮面を買うのだ。まぁ、これくらいならテキトーな商人から買っても問題ない。
「案外安かったですね」
最近冒険者としてお金を稼いでいないせいで、生活のためのお金が少ないということもあり、あまりこういうものにはお金をかけられないが、仮面が安かったおかげでまだ一応余裕がある。
「逃げている間は野宿確定ですね……」
リスタが悲しそうにそう言うと、メアがリスタのほっぺたをムニムニと触る。今度はかわいそうなものを見るような目でリスタのことを見つめていた。
「いや、今回ばかりは元凶のロマと、それからそのロマを連れてこなかったメアにも非がありますからね?わかってますか?」
「ニャ~?」
「とぼけても結果は変わりませんからね」
「ニャ!ニャニャ!」
「ん?なんですか?」
メアがリスタの手を触ったかと思うと、そこに爪を立て、軽い力でひっかく。ひっかくと言っても痛くもなんともない。少しくすぐったいだけ。そう、文字を綴ってのリスタとのコミュニケーション方法だ。
[でも、ロマちゃんが最初どっか行っちゃったのは主様が見てないのが悪い!]
「い~や、私は悪くないですよ!ロマにもメアにも今まで甘かったですけど、今回ばかりは譲りません」
「……ニャ~ン♡」
「かわいこぶっても無駄です」
「ゴロゴロゴロ……」
「だから無駄です。わかりましたか?」
「ニャ……」
「よろしい」
そうしてリスタはメアとともに泊っている宿へと帰っていく。逃走の準備はすでにできている。あとは侵入の準備だけだ。ただ、どうやって侵入するかについてのあてはすでに1つ策を立てている。それを確認するため、リスタは1度夜になるまで待つのであった。
* * *
そうして夜になり、満月がちょうど真上に昇ったころ、リスタは王城の近くまで来ていた。真っ白な髪のせいで見つからないようにローブも羽織っている。
(うん……群青色のローブで良かったです。今日みたいに満月の夜だと黒は少し目立ちますから)
そんなことを考えながらリスタは逃走経路を調べていた際に発見した、警備が他の場所よりも甘い場所に移動する。そこは朝と同じように警備が甘くなっており、満月の夜でも難なく侵入できそうだった。それを確認したリスタは、そそくさとその場を去り、宿屋に帰る。
宿屋に帰ったリスタはローブを脱ぎ、そのままベットに入る。ベットの中にはメアがおり、すやすやと眠っている。
「猫っていいですね……主人が苦労してても寝てられるんですから……」
そう呟いたリスタはメアの体をつかむ。それによってメアは目を覚まし、不思議そうにリスタのことを見ている。
「主人の苦労を知らない猫ちゃんにはこうです!」
そう言ってリスタはメアの体に顔をうずめ、思いっきりメアのことを吸うのであった。




