七話:欲張りだから
フロートシープの討伐依頼を完了した次の日。リスタは理由もなく町を歩いていた。帝都というものがどういう場所か詳しく知っておきたかったからだ。それに、なんとなく理由なく散歩をしているときは気持ちがいい。
(本当はジェーンさんの家の周りも見て見たかったのですが……貴族たちが住んでいるエリアですからね……あまり不審な行動は見せられません)
リスタがそんなことを考えているときだ。
「あ、リスタさん」
「ん?あっ!レピファさん!久しぶりですね!」
リスタが歩いていると、前からレピファが声をかけてきた。実に4日ぶりの再会だ。
「リ、リスタさんは今日どんな依頼を?」
「あ、今日は依頼受けてないんですよ。代わりに、この辺りを散歩してました。帝都に来てからまだ2週間くらいですから、あんまりこの辺りの道覚えてなくて……レピファさんは?」
「私、き、昨日から魔獣討伐の依頼を受けてて、その魔獣が夜行性だったので、今帰ってきたんです」
「へぇ~」
そうして2人が話していると、レピファはリスタの周りを一瞬だけ見た後、「メアさんやロマさんは今どこに?」とリスタに問いかけた。
「あぁ、今日はお留守番してもらってます。ロマかメアに何か用が?」
「あぁ、いや、特にないですけど……メアさんはいつもリスタさんについてますから、いないのが珍しいなぁ…と」
「そう言われればそんな感じがしますね……まぁ、あの子たちも生き物ですから。ずっと私についてるわけでもないんですよ」
そんなリスタの言葉に、レピファは「なるほど」とうなずいた。
「そう言えばレピファさんは夜に魔獣を狩って、今帰ってきたんですよね?」
「はい。そうですけど……」
「じゃあ、今日はもう早く寝てください。それか、レピファさんの家までついていきましょうか?」
「あぁ、いえ、大丈夫です。それに、帝都に家はなくて……今、宿屋にずっと泊ってるって感じなので……」
「そうなんですか?」
「はい。自由の利くところが冒険者のいいところですから」
そんな風に言うレピファは力なく笑った。それは寝不足から。と、リスタは少し思った。だが、他にも何か理由があると思ってしまった。
「……」
それを言おうとしたとき、リスタの口は言葉を発そうとはしなかった。どうしてかはわからない。まるで理性と直感が別々の人物に動かされているようだった。そんな時、リスタは少し違和感を覚える。レピファに感じた違和感とは別。周りに感じる違和感だ。
「……レピファさん」
「は、はい?」
リスタが少し鋭い空気をまとったのを察したのか、レピファの耳はピクリと揺れ、言葉が少し揺れる。レピファは……というか、獣人は変化ということに敏感だ。リスタの感情の変化を察知し、不安が言葉に出てしまったのだろう。しかし、その不安の裏に、なぜか焦りを感じた。
「……レピファさん。一つ、聞きたいことがあります」
「は、はい……」
「昨日。何をしていましたか?」
リスタがそう口にする。すると、レピファは顔を真っ青にして、リスタの前にひざまずいて泣き出してしまった。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!リスタさん!私のことはもういいですから早く逃げて…ひっ?!」
レピファがリスタのほうを見て小さく悲鳴をこぼす。いや、正確にはリスタの後ろにいる人物を見て悲鳴をこぼしたのだ。リスタは自分の後ろに誰かがいると察した瞬間に振り向いた。が、すでにその人物はもうリスタの目と鼻の先におり、その左手には小さな黄色い宝石があしらわれたナイフが握られていた。
「うぐっ!」
「痺れて」
「あがっ?!」
ナイフを握っていた人物がそれをリスタの腹部に突き立て、言葉を発すると黄色の宝石がきらりと輝く。すると、バチバチという音を立て、電流がリスタの体を駆け巡った。その電流によって体がしびれ、自由が利かなくなる。その隙にナイフを刺した人物はまた別の宝石を取り出し、リスタに投げる。すると、リスタに当たった宝石が檻のような物へと変化した。
「ふ~……やっぱり魔法が自由に使えないとちょっと不便だよね。ね?リスタちゃんもそう思わない?」
リスタにナイフを刺した人物はリスタに向けてそう言った。その人物の見た目は幼い少女であり、リスタは面識などないはずだが、どこかで見たことがあった。
「あ、なた……行方不明の……」
「んぁ?あ~!そっか、リスタちゃんは知らないんだもんね?」
「な、にを?」
リスタが少女にそう問いかけると、少女は服を脱ぐかのように、その皮を引きはがした。
「じゃじゃ~ん!可愛い可愛いフローラちゃんだよ~?どうどう?新しい服は」
「フ、ローラ…な、なんで!」
「ここにいることについてかな?まぁただの偶然。ただ、偶然でもあるけど、必然でもある」
「どういう……」
「まぁ、いずれは出会う運命だったってことだよ」
「いや、そうだ!それより!なんでレピファさんが……!」
「私の子猫ちゃんだからね。昨日ペットになるって言ってくれたんだ~」
「……」
レピファは先ほどからうつむき、何も言わない。そんなレピファのもとに、フローラは笑顔で向かっていく。
「っ!シェリルオーラの黒鎌!」
よくない予感を感じ取ったリスタは、檻を抜けるためにシェリルオーラの黒鎌で檻を壊そうとした。あの宝石たちは魔道具だ。そう確信したリスタは、この檻が魔法でできていると考えたからだ。
「え?」
だが、壊れなかった。
「あ~、いい考え。だけどその檻は魔法じゃないんだ。私が使ったのは、電流が流れる魔法と、物を収納する魔法の魔道具。だから、その檻自体が魔法ってわけじゃなくて、檻を出したっていうのが魔法なの。……これって言葉にすると意味わかんないね」
そう言ってフローラは無邪気な笑みをリスタに向けた。しかし、その笑みはすぐに消え去り、ぞっとするような無の表情がレピファに向けられた。
「なんで私が来た時リスタちゃんに「逃げて」って言っちゃったのかな?」
「ごっ、ごめんなさい……」
「言うこと聞かないペットはしつけてあげないといけないんだけど」
「やめろ!!」
「うるさいなぁ!今子猫ちゃんに話しかけてるの!リスタちゃんは黙ってて!」
フローラはそう言ってまたレピファのほうに向きなおる。
「最初甘やかしすぎちゃったのが悪かったのかな?これからは厳しくしてあげるね」
「や、やめ……」
「そうじゃないと私の言うこと聞かないでしょ?ご主人様の言うことは聞かなきゃ」
「っ……!」
リスタはレピファが危険な目にあっているというのに、それを見ていることしかできない。
「そうだそうだ。リスタちゃん。私たちの仲間になってくれるなら、この子猫ちゃんは野良に返してあげてもいいけど?」
「「!」」
「正直この子猫ちゃんは正直私の趣味の範疇だからさ~、あってもなくても言いんだけど、リスタちゃんのことについては、今のボスが「欲しい」って言ってるから任務になっちゃうんだよね。で、任務は成功しないといけないから……リスタちゃんに関しては絶対にこっち側に欲しいってわけ」
「なんでかは知らないけど」とフローラは小さな声で付け足す。それからフローラはリスタに見せつけるようにレピファの首をガッとつかんだ。
「あ…かっ……」
「やめて!!」
「私たちの仲間にならないとこの子死んじゃうよ?」
「わ、わかった!わかったから!レピファさんのことは離してあげて!!」
「……」
しかし、リスタがそう言ったにもかかわらず、フローラは無言のままレピファの首をつかんだままだ。
「うっ……あ゛っ……」
「早く離して!」
「……あはっ」
だが、フローラは笑みを浮かべるだけで、一向にレピファの首から手を離そうとしない。
「な、なんで!!」
「……私、欲張りだから趣味と任務どっちも成功させたいんだよね~」
「っ!、ぐっ……あ……はっ……」
「やめて!!!」
「いい?リスタちゃん。見ててね?」
そう言うフローラの目は、光を反射する海のようにギラギラと輝いていた。




