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奴隷宰相 ~帝都クーデター編~  作者: 近衛翡翠


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9/9

戦後処理

あらすじ:クーデターで政権を奪取したはずのナッシュが、毒物を飲んで自殺したとの報が帝国中に触れ回った。しかし、「なぜなのか?」は依然謎でありつつ、リュカ達は戦後処理に動く。


***************************


「今何が起きたんでしょう?」と、モモが不安そうな声で尋ねる。

「わからない。でも、ナッシュが倒れたような…」さきほどまで気が塞がり嗚咽でうずくまっていたリュカが、ようやく気を取り直した。

「そして、むこうは何やらざわめきだっているようですね。遠くなので、仔細は見えませんが…」とヘレナが発言する。

「そちら側も、よく聞いてくれ。」と、東国のパンチ将軍の呼びかけがする。

「現在、貴殿らは包囲されている。だが、こちら側の総大将ナッシュも死んだ。我々としては、リュカ殿を宰相職から追い落として解任したり、その命までを狙うつもりはない。」パンチの声には、怒りでも勝利でもない、疲労が滲んでいた。

気を取り直したリュカは、深呼吸してこう告げる。「では、あなたたちは何のために蜂起に参加したのですか?」

パンチはうつむくと、威厳を持ちつつも訴えかけるような声で告げる。「我々サンクロウとしては、積年にわたりユニマルが掠め取っているアポワス回廊を還付していただければ、それで結構だ。」

リュカは、モモとリゼ、次いでヘレナ、マリーの方を向いて頷き、頷きが帰って来るのを見て、こう告げる。

「わかりました。アポワスの地は、サンクロウ王国にお返しします。」

その瞬間、東国の兵士たちは歓声を上げた。

「陛下。僭越ながら講和の大権は宰相にある。それで構いませんよね?」

「ああ、そうだな。」突然のことに驚いたのか、少し間を開けてテレサが答える。

「アポワス回廊の件、好きにせよ。」

テレサはそう言った。それは許可でもあり――試しでもあった。テレサは、立派な鳳輦ほうれんに乗ってその場を立ち去るのであった。


***************************


「リュカ君!」

その途端、モモがリュカに抱きついた。

「モモ!」と普段一緒のリュカも大衆の面前で抱き付かれると、とても赤面してしまう。

「良かった。暖かいよ…死んでしまうかと思ったから…」どうやら、この大乱に巻き込まれた僕が殺されることを非常に恐れていたようだ。

「心配かけてごめ…」

という僕の言葉を遮って、モモが僕に口づけをする。ぼくにとり初めてのキスだ。

僕は、何が起きたかあまり理解できず、ひたすらに息がしにくい状態と、モモの柔らかく暖かい唇の感触とを味わいながら、その刹那を過ごした。


それから二、三刻して離宮において、事後協議が行われた。①双方ともにお咎めなしとすること。②リュカを宰相に任命すること。③宰相お披露目の会は、予定通り帝都で行うこと。④閣僚の任命のやり方は、今まで通り、各国からの推薦に基づくものとすること。⑤アポワス及びナッシュの旧領を、リュカに還付することが決められた。


あと、僕としては⑥現在の大臣ポストの各国の既得権益化を防ぐため、各国から1人を選び、任命ポストは問わないこと。⑦アポワスの地をリュカに還付する代わりに、その地の年貢のうち半分を東国に送ること。を提案して、受け入れられた。


さて、講和会議も冷めやらぬ夜の城内で、リュカはテレサ女帝に呼び出されていた。

5月近くだが、外は五月雨が激しく、気候が涼やかである。そのため、テレサは、毛皮のローブをまとい、薪を焚いて暖を取っている。

「リュカよ来たか。まあ、掛けよ。」

その言葉とともに、僕はソファにかける。

テレサ女帝は、息をすうっと吸ってこう続けた。「このようなことが起こったのは、アポワス還付問題と、リュカ宰相就任問題にまつわるあらぬうわさが飛び交ったからじゃ。」

そして、テレサ女帝は現在、枢密院(という皇帝や王の諮問に答申する機関)で審議している治安維持令の原案を見せてきた。


それによると、帝国での反乱、特に今回のような帝都での反乱を未然に防止するため、人民を監視するシステムを採ろうということであった。最も、人民の監視といっても人海戦術である。つまり、より多くの兵士を雇って、彼らに警備がてら監視を依頼するのだ。

しかしリュカは反対だった。より多くの人的資源の浪費につながるだけではない。

「人民の権利や自由を封じ込めては、国の発展の兆しは薄くなってしまいます。」

それがリュカの意志であり、彼の答えであった。

「そうか、それならば仕方あるまい。」とテレサは法案を撤回することを示唆した。クーデターを終息させたリュカが人気となった今となっては、仮に枢密院を通過しても、議会で可決させる公算が付かないからだろう。

「その代わり提案がございます。」とリュカはテレサ女帝に囁いた。

「憲法じゃと?」

「はい、異国では国のしきたりや運営方法を、憲法という法典にして制定するそうでございます。」


***************************


その頃帝都の一室では


「うまくいきましたな。デッシュ卿。」

「ああ、これで邪魔者は消えた。」

「しかし、今度の宰相閣下もかなりの曲者では?」

デッシュはにんまりと笑った。

「なあに、お手並み拝見といこう。」

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