開業1
魔法とは視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚、霊覚の6感の霊覚を使い、本来人間には出せないエネルギーを使用し、無から有及び有から有、有から無を創り出すことを言う。
この魔法は人それぞれの持つ個性により得意とするものが違い、本来起こり得ない奇跡を実現させることで証明される。他の5感とは大きく異なるのが、自らでコントロールすることができる点である。霊覚を悪用する輩は日々増加し、取り締まることがあるが、それもまた毒を以て毒を制すやり方が多く、治安の良い国になり得なかった。
霊とは目には見えない。見えないが確かに存在するものを意味する。そうすると目に見えないものの殺人は証拠不十分であり犯人の特定に時間が大いに要する。これにより魔法犯罪は積み重なり現行犯でない限り解決に至らない。
その為、魔法による殺し合いに発展し、物による経済発展は遅れてしまった。この魔法による犯罪を断つことが霊覚が存在する世界での平和を意味するのだと俺は考える。
言い忘れていたが、俺の名前はレーヴィン・シルシア 20歳 元の名を南 士郎
そうこの世界に1年前転送された日本人男性である。今ではこの世界の魔法律を勉強し法律で魔法犯罪を取り締まる仕事をしている。とはいえ、この世界に魔法の法律など正直ない。皆、逆恨みされ殺されることに怯えているからだ。
しかし、俺は違う。逆恨みされ殺されることがあろうとも捨てるものがない。別に未練もなければ悲しむものもいない。だからこうして法律を見直し、仕事として成り立っている。
首都 アルテリアの外れ、魔物が引く車が行き交う道沿いに建つ5階建のビル3階のテナント。静かな午後3時隣の田舎町で採れる薬草で作られた紅茶を啜り今日も何の仕事もないまま終わりを告げそうな焦りを誤魔化すため士郎は5年間の活動をまとめ始めた。
「あぁ〜。俺飢え死にするかもぉ…」とうとう漏れた士郎の声がテナント内で木霊する。
そう南士郎が運営する魔法律事務所は倒産しかけの企業である。
本日の仕事内容
・事務所内清掃 午前8時半
・魔法律事務所開場 午前9時
・魔法律勉強 〜今に至る
言わばニートである士郎は今月の地代家賃の支払いに困っていた。士郎はアルテリア銀行の紙通帳を開く。
「2,200テリアドル…テナント代は2,500テリアドル…。終わった。」
ティーカップからわずかに香る薬草は霊覚を持たない士郎にはなんの効果も与えなかった。
「営業だ。営業するしかない。とはいえ、ビラはばら撒き、家に訪問し、銀行に話を持ちかけた結果何にも得られなかった。次はなんだ…。何をすればいいんだ!!!」
本来であれば机でもひっくり返すべきだっただろうがひっくり返す机がない。
「虚しすぎる!!」
思い返せば1年前バイトの帰り道に自転車で川に落ちて流された先は知らない街、知らない言語、知らない生き物、そしてすれ違う人から漂う何か。霊感のない俺は目の錯覚だと思ったが、出された魔力入りの食べ物や、道具などからも同じようなオーラが見えたことで確信した。これは魔力、魔法の素であると。
この世界の魔法というものに非常に興味があったが自分からは魔力は出ていない。霊覚が存在しなかった。しかしこの世界の人間の霊覚が視覚でわかり、聴覚でも確認でき、触覚もある。霊覚がない以外は他の人となんら変わりがないことがわかったわけだがこの世界のお金がなく生活できなかったが為に質屋に行きスマホ、財布、上着を売ることでどうにかこの世界のお金テリアドルを手に入れた。
元の世界に帰るために川に再度入ったりしたが全く無意味でありここで生きることに決めたわけだが、困るのは仕事探しである。実際職場に行けばとんでもない魔法で作業をする奴ら、意味わからないエネルギーを使って電気を作ったりする奴ら、どんだけ話を聞いても理解できない魔法を使用した業務ばかりで霊覚無しの人間には離れ業ばかりであった。
雇ってもらおうにも履歴書作成で南士郎と書くと馬鹿にされ、仕方なくレーヴィン・セルシアと偽名を作り、学歴を詐称し孤児であると主張しこの世界の野菜を売る仕事についたが、仕事先の店長が魔法により殺害され俺はただ一緒に働いていただけだが怪しいという理由だけで誤認逮捕。たまたま店長が殺害された時間に俺の風俗の出入りが確認されたことにより釈放されたが、この中世フランスを漂わせる世界で俺の誤認逮捕であったことは広まることなく犯罪者の汚名が付けられ恩知らずとして半年を過ごした。逆に犯罪者というのは早くに広まりどの世界も同じなんだと確信したわけだが、後日店長の殺害された現場を見て驚いた。残った魔力は店長の奥さんのものだったのだ。
士郎はこんな簡単なことになぜ気づかないのかと自警団に訴えたが意味不明だと言って追い返された。
士郎は初めて魔力の痕跡が見えるのは自分だけであることを知った。
それからと言うもの、店長殺害の痕跡を集めたが首を絞めた痕と魔力で触れられた壁面。それ以外の情報がなかった為どのように殺害したのかわからなかった。しかし、靴の跡でその場にいたのが店長とレーヴィン・セルシアであることがわかった為犯人扱いされたことを知り、士郎が風俗に行った際靴を脱ぎその靴を履いての犯行として捜査をしていること。しかしそのような形跡がなく困難であり未解決のまま終わりそうであることを自警団から聞く事ができた。
そこからは店長と近かった人たちの魔法の内容を調べた。奥さんはどんな魔法だったか、お得意さんはどんな魔法を使用していたか。沢山資料を作る事ができたが、一番気になったのは娘の魔法であった。視覚などの五感と同じく霊覚も遺伝するパターンが通常であるが、店長は自分の顔を変える魔法であり、奥さんは触れたものを生み出す能力であった。
奥さんコピーの魔法は2分しか持たないのが難点で一度コピーしたものは2度とコピーできない条件を自らで作ることで本物と差のないコピーを作る事ができる。そんな魔法なのだが、娘の魔法は特定の人の位置を把握する魔法だと昔から言っていた。その魔法を使うことは今までほとんどなかったという。
ちなみに特定の人物はまず目で確認し、名前を知る。そうすることで条件を満たし、その後10時間以内であればどこで何をしているかがわかると言うもの。
娘にはアリバイがあった。その日は店長の奥さんと共に料理をしていたというアリバイ。奥さんもそう言っているが、口裏を合わせたとしたならば話は別である。
しかし、奥さんは店長が殺された時大きくショックを受け、士郎が捕まった際はまず初めに死刑にしろというほどだった。釈放後も顔を合わせたことがないのは旦那を殺した犯人として史郎の名前を広めた張本人のためである。
それほどの人間が口裏を合わせて店長を殺すことはあり得ないということ。であれば、娘の魔法が虚偽であると言うことを仮定し進めることにした。
娘は魔法を使うことがないと言うようにほとんど霊覚を出すことはなかった。自分と同じように霊覚がないと言うことではなく比較的薄い。使用しようとするときに濃く出るが、壁面に残った魔力と同じ魔力かを認識できるレベルにない。ならば魔力を使用して霊覚をはっきり出してもらう必要があると考えた。
士郎は娘との接触を試みた。が答えはすぐわかった。尾行を開始し、一歩踏み出そうとした時、士郎の背後から壁面についていたものと同じ魔力から話しかけられたのだ。
「なんで私に着いてくるの?」
士郎は振り向けなかった。本人の後ろ姿は見えているのに背後から本人の声が聞こえているのである。足音は近くなってくる。恐怖はあったが士郎は喋り始めた。
「店長を殺した犯人がわかった。そして犯人がどのようにして俺の靴の跡をつけ首を絞め殺したのかのトリックもわかった。」
目の前の後ろ姿の娘が止まると同時に背後の足音も止まった。
「君が店長を殺したのは間違いないと僕は今判断した。そして今まで虚偽の魔法を伝えていたこともわかった。」
士郎は続けた。
「店長を殺したのは君のそのドッペルゲンガーを生み出す魔法で絞め殺した。俺の靴を履いて君は店長を殺したんだ。それなら店長を人気の少ない小道に呼び出し殺すことも簡単。実の娘なのだから。」




