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決勝トーナメント第1回戦(ルシフェル)

 気を失った後は姿を魔術で隠してついてきていたイリスに俺、ルシフェル双方を回復してもらい天獄會を後にした。


 話によれば天獄會は貧民街を統一しハイロイドで一大勢力となった。その長となったルシフェルだが裏のルールを厳格に規定。違反したものには徹底した弾圧と従順なものには庇護を与えることで武力での統一後の統制を確かなものに作り替えた。


 ルシフェルのおかげで表と裏の明確な線引きが出来、花街の治安も格段に向上したようだ。


 幸か不幸か俺とルシフェルの対戦はあの一度きりではあったが、常日頃刺客や新参者、荒くれの冒険者どもを相手にした武勇伝が耳に入ってくる。


 俺と直接関わることは無くなったが、イリスは天獄會を通じた正式な依頼として魔術の手解きを定期的に行っているようだ。結構な額をもらっているそうなので今後とも良い付き合いをしたいところだ。


 さて、回想はこれぐらいにして試合に集中するとしよう。


 試合開始と同時に動き出したのはクアッド。さすがは宮廷魔術師最強という称号を得るだけあって戦い方がアレイなんかよりも数段上だ。アレイは最初は距離を取るためにそのまま走って後退したがクアッドは牽制のために即座に発動できる魔術をいくつかばら撒きつつ距離を取った。


 クアッドはルシフェルの体格を見て直撃させては耐えられる可能性があると思ったのか直接ではなく地面を狙って魔術を放っている。しかも四属性全てでだ。なかなか戦い慣れている印象だ。


 「流石は宮廷魔術師長。アレイよりも数段戦い方が上だ」


 「まぁ、あれぐらいはしてもらいませんと」


 距離を取ったクアッドは引き続き牽制の魔術を放ちながらそれとは別にアレイが行ったように様々な魔術を高速で展開し上空へ待機させた。その規模・数・種類・威力とどれをとってもアレイを遥かに上回っている。


 一方のルシフェルは最初の牽制の魔術の時から我関せずで呑気にキセルを蒸している。あの様子では自分に当てる気はないと最初から読んでいた上で当たっても影響ないと確信してるようだ。


 クアッドの準備が完全に終了したのを見てルシフェルがキセルの火を落とした。そして展開された無数の魔術を見上げた。顔色ひとつ変えないがわずかに眉を動かした。


 「は!随分と舐めた態度取ってくれたじゃねぇか。だがその余裕が貴様の命取りだなぁ!この俺がこの数の魔術を丁寧に練り上げたんだ!全部くらえば塵1つ残らねぇぜ!」


 天覧席まで聞こえてくるボリュームでクアッドが叫ぶ。ルシフェルの態度が気に入らないようだ。まぁ、ルシフェルの力を知らない人間が見れば完全にクアッドを舐めているようにしか見えないので仕方がないことではある。


 ルシフェルはクアッドの叫びも意に返さずしばし魔術を眺めていたが徐に両手を上にあげた。外側に向けられた手のひらがグッと力強く握り締められ腕の筋肉が破裂するかのように盛り上がりジャケットの腕が弾けた。


 「出るぞ・・・ルシフェルの最筋肉量姿勢モストマスキュラーポーズが!」


 ルシフェルが全身の力を込めながら両腕を強く振り下ろした。その瞬間、爆発的に膨れ上がる筋肉にジャケットとシャツが耐えきれず爆発四散した。


 露わになる傷跡と背中の大きな純白の翼。これぞルシフェルが最も輝く瞬間だ・・・と思っている。


 「見せ場はそれで終わりかぁ?ならとっととくたばれ!」


 痺れを切らしたクアッドが用意した魔術を一斉掃射した。無防備なルシフェル目掛けて1つ1つが小さな村程度なら壊滅に追い込めるだけの威力を持った魔術が放たれる。そしてクアッドは用心深く魔術を放った後も油断せず再び魔術を展開しては待機させている。


 対するルシフェルは飛来する魔術を一瞥した後、その魔術に背を向けるかのように大きく振りかぶり、あの俺をも吹き飛ばした時以上の破壊力を持った拳を全力で放った。


 その一撃はクアッドの魔術を全てかき消し、なおその威力は衰えず天覧席の窓ガラスにヒビを入れ、観客を守る結界を大きく揺らした。


 「・・・こんなものかい?」


 そのあまりの威力に呆気に取られ、闘技場の全てが静まり返った。そのためにルシフェルの呟きは思いのほか大きく響き渡った。


 「こんなもの、だと?たかが初撃を防いだ程度でいい気になるな!」


 クアッドが叫ぶ


 「いや、いい気も何もあれだけ丁寧に準備した魔術を一撃で掻き消された事実に目を向けるべきであろう。」


 「人間、想定外のことが起こると理解するのを脳が拒みますからね。仕方ないでしょう」


 イリスと話している間にクアッドが第2波を放った。こちらも恐るべき数ではあるがその質は1撃目よりも遥かに劣る。1撃目と同じ質で放つには時間が足りなかったようだ。


 「その攻撃はルシフェルの餌食になりますよ。」


 小さな声でイリスが呟いた。


 魔術を見たルシフェルは今度は構えることなく魔術に身を晒した。先ほどより一発一発の威力は弱いとはいえそれでも岩ぐらいは軽く貫通するほどの威力がある。それが無数にたった1人の人間に降り注ぐ。


 観客はあの魔術を打ち消した一撃は唯一のものだったと、そう簡単に連発できるものではないと思い込み、1人の男の無惨な死を直接見ないように目を背けた。


 しかし観客の思いは現実にはならなかった。


 凄まじい魔術をその身に受けながらもルシフェルは1歩、また1歩とクアッドに近づいている。当然無事で済むわけもなく全身を血だらけにしながらもその歩みは1歩、また1歩と強く確かなものへと変わっていっている。

 

 「本当に恐ろしい力です。まさに対魔術師のための力といっても過言ではありません。」


 イリスがつぶやく。そう、その力こそルシフェルを短期間で裏社会のボスへと成り上がらせた根源。並より強い魔術師崩れが多くいる裏社会でトップに君臨させる力。それが今クアッドに襲いかかっている。


 「【天使ノ金星(ルシフェル)】だったか?自身の名を冠した秘魔術。直撃を受けた魔術を自身の魔力へと変換する奇跡の力。並の者が持っても魔術の直撃に耐えられるわけもなく無意味。生まれついての肉体があってこその秘魔術。ゆえに対策など立てられず相手は一方的に狩られるだけどなる、か。」


 「ついでにルシフェルは理魔術の【身体強化】も覚えてますからね。ただでさえ頑丈な肉体が魔術を受けるたびに強化されていく。魔術師からしてみれば悪夢ですよ」


 試合に目を戻すとついに拳の届く距離にルシフェルがいた。クアッドは必死の形相でルシフェルに魔術を打ち込むがこの距離に至るまでに大量の魔術を吸収し魔力へ変換し身体強化で肉体強度を上げに上げているルシフェルに今更ノータイムで放てる魔術が通用するわけがない。


 魔術を打ち込まれていたルシフェルがついに拳を握った。そのまま魔術など意に返すこともなくクアッドの顔面に強烈な一撃が叩き込まれた。


 俺ですらきちんと受けねば大ダメージは避けられないほど強力な一撃だ。たかが魔術師風情が耐えられるわけがない。顔面の型を大きく変え、血塗れのクアッドの襟首をつかみ持ち上げたルシフェル。


 「続けるか?」


 「も・もちろ」


 クアッドも馬鹿なやつだ。せっかくルシフェルが慈悲をかけて軽症で済ませてやっているにも関わらず、魔術なんて使うからだ。


 二発目はアッパーカット。1撃目と同等の威力を持った2撃目がクアッドの顎を下からアチ上げた。当然顎の骨は砕け歯も全て使い物にならなくなっただろう。顔面はボロボロで脳も確実に揺れている。詠唱は不可能だ。かといって仮にクアッドが身につけていたとしても物魔術ではルシフェルを倒すことなど不可能。


 強力な2撃目を受け大きく吹き飛ばされたクアッド。べちゃりと闘技場の端の方にかろうじて引っかかった。


 それを見たルシフェルは止めを刺すべく歩き始めたところで慌てて審判が静止した。どうやらクアッドは完全に意識を失っているようで、少ししてルシフェルの勝利が宣言された。


 ふむ、この試合はルシフェルの強さを見せつけて終わっただけになったか。宮廷魔術師最強というぐらいだからそれなりに期待していたのだが、相手が悪かったか。


 勝利宣言されたルシフェルは上半身裸のままキセルを蒸しながら戻っていた。その背に彫られている天使の翼はどちらのものかはわからないが真っ赤な血で染まっていた。



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