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落第生部活指導員と現代魔法スポーツ  作者: たなお
2章 タッグバトル編
88/92

88話

 祐乃の母親は祐樹を連れ、グラウンドの端へ移動する。

 用意されたブルーシートやパイプ椅子に座るつもりはないらしく、立って観戦するようだ。


 シンは数分、腕を組んで待っていると愛那達が右腕にマジックギアを装着し、セパレートユニフォームに着替えて戻ってきた。


「…お待たせ」


 灰色のセパレートユニフォームを着たカレンは、腰に手を当てる。

 シンは「全然待ってねーよ」と返事をしようとした時だった―――


 ドドドドドドッ!!!!!

 

 激しい足音がこちらへ向かってきていた。


「カレン―――――――ッ!」


 大声の主『ハヤト』は両腕を広げながら、カレン目掛けてダイブする。

 抱き着くつもりらしいが―――

 

「鬱陶しいッ!」

「ほぶっ!」

 

 どーん


 カレンのパンチが頭部に炸裂する。

 どすんと鈍い音が広がり、幼馴染のハヤトは地面にめり込んだ。


 相変わらずのやりとりに、シンは呆れるしかなかった。


「お前…試合始める前に怪我するぞ」

「何言ってんすか、アニキ。むしろカレンに愛のパンチをもらえてオレ元気100倍っすよッ!」


「…はあ…バカの相手…疲れるんだけど…」


 カレンは頭を抑え、ため息を吐く。

 こんな性格ではあるがタッグバトルの重要なパートナーなので扱いに困っているようだ。 


「ホントはオレじゃなくて、副部長が出るはずったんすけどね」

「そういや、そんなこと言ってたな」


「けど、副部長が何故か辞退したんで、オレが出ることになったんす!愛するカレンとタッグバトルができる!もうこれは運命っす!オレ、この戦いに勝ったらカレンと結婚します!」


「なんで死亡フラグ立ててんだよ、お前」


 わーわー騒ぐハヤトを他所に、祐乃の顔は酷く沈んでいた。

 視線は観客の中――母親の方に向いていた。


「…お母さん」


 身体はブルブルと小さく震えている。

 苦手な人物が試合を見ていくのだ。


 当然の反応だった。


「祐乃!そんな震えんなよ、何か怖いことでもあんのか?」

「…ごめんなさい。なんでもない」


 嘘だった。


 祐乃は自分の心情を話すことを避ける傾向にある。

 優しいのだろう。


 心配をかけたくないのだ。

 だからシンは、自分から話題を切り出すことにした。

 

「母親が怖いのか? 今まで色々酷いこと言われたらしいな」

「…知ってるんだ…そっか…瑠偉(るい)先生がお姉ちゃんだもんね…」


――事情を知られている。

 その事実に祐乃は、少し安心したような顔をするとシンの胸元にしがみついた。

 

 悩みを知られているから、もう隠すつもりはないらしい。

 祐乃は小声で話し始めた。


「お母さんに怒られるのが怖い…」


 シンは胸元で震える祐乃の首後ろに手を回し、ぽんぽんと優しく叩く。


 大人に怒鳴られる体験は、子どもには大きな恐怖となる。

 それこそ、将来に影響が出るほど、心に傷跡を残すこともある。


 祐乃の母親が、なぜ娘を毎日のように怒鳴り、意思の尊重をせず自由を縛るのか…

――その理由は、シンにはわからない。


(俺、親じゃねーから正しい教育はわからなけどよ、ガキの心を痛めつける教育は間違ってると思うよ)


 不安定な状態だ。

 また何かのキッカケで涙を零すかもしれない。


(そういや…最近、祐乃が泣くところしか見てないな…)


 笑ったり、元気に振舞う姿が魅力的な子だ。

 なのに最近は落ち込み、泣いてばかり…


「この試合の結果でコーチ…部活指導員を辞めされらるかも…しれないんだよね…ボク、怖いよ…」


 また何かを追い詰めている。

 責任感が強い子なのだ。


 不幸な未来を想像し、心を壊している。

 笑って欲しい。


 だから俺は大きく笑い―――


「――思いっきり楽しんで来い」

「え…」


「大丈夫だ! どんな結果になってもお前を恨んだりしないって!だから楽しんでくれ!」

「でもボク…弱いし…きっと…」


「負けても大丈夫だ。マジッカ―は勝つことが絶対じゃない」

「で、でも…」


「魔法ってのは『楽しい』もんだ。それはお前達が思い出させてくれたんだぜ」


 祐乃の肩をぽんぽんと叩き、後ろを振り返る。

 突然じっと顔を見られた愛那は、不思議そうな顔をして首を傾げた。


「だから楽しんでこいよ。ドカーンとな!」


 シンは片目を瞑り、笑顔でピンと親指を立てる。


「もし――そうだな。お前の『楽しい』を邪魔してくるヤツがいたら――ブチれてやれ。人の娯楽を邪魔するってのは、大罪なんだぜ!」

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