86話
「へー…どこで試合すんのか聞いてないんだ…」
カレンは、少し呆れ気味な様子だった。
集合時間こそ問題なかったが、シンがそれ以外の情報を一切知らなかったからだ。
「そうなんだよ。困ったもんだぜ」
まるで自分は悪くないかのように、やれやれと首を横に振る。
そんなシンの態度に愛那は肩をがっくしと落とした。
「コーチがちゃんと確認取っておけば良かったのでは…」
「そこっ!正論は禁止だ」
シンはビシッと愛那を指差すと、なんと胸倉に掴みかかってきた。
「コーチがちゃんとしてないせいであたしが割を食ってるんですからねッ! 県代表戦の時だって、コーチが杜撰なせいでバスに間に合わなくて、会場まで走るハメになったんですよッ!あたし根に持ってますからねッ!」
「あっはっは!そんな昔のことは忘れちまったぜー!」
シンは身体をグラグラ揺らされながら、頭に手を当て惚ける。
そんな2人の会話を見て、カレンは少し羨ましそうにしていた。
「…ふーん…仲良いじゃん…」
「そ、そんなことないわよ!」
愛那は頬を赤くすると、ぷいっとそっぽを向く。
「それより早く案内してよ!」
「…ん。そうだね」
カレンは気だるそうに答えると、視線を左から右へと動かした。
「…人数足んなくない? 今日、タッグバトルだけど」
「そろそろ来るはずなんだけどな」
そう言うとシンは頭を掻いた。
実は明丘学院に来る前から、祐乃にLINEでメッセージを送っているが、一向に返信がないのである。
シンと愛那は『祐乃は来るのか?』という不安に駆られながら、明丘学院へ来たのだ。
「…なにそれ?今日、試合できないかもしんないってこと? 超ダルいんだけど?」
カレンは少しピリついた顔をする。
気だるく面倒事が嫌いだが、マジッカ―が好きな気持ちは本物な人物である。
今日のために色々準備をしているはずだ。
それがすべてパーにされかけているのだ。
ピリつくのは当然であった。
「すまねえな。頼りない大人で」
「…別にあんたが悪いわけじゃないんだろーけどさ」
年下だろうと関係なく、シンは頭を抑えて謝罪する。
カレンは「はあ…」とため息を吐くと気だるそうに身体を斜めにして、壁にくっつけた――時だった。
校門の前に車が停止した。
4人乗り用の一般的な白の軽自動車である。
運転席と助手席に見覚えのある顔が並んでいた。
それと後部座席のチャイルドシートにも誰か乗っているようだ。
祐乃とその母親である。
シン達に気付いた祐乃は、そそくさと車から降りると
「ごめんね、みんな。待たせちゃって」
「やっと来たか。待ちまくったぜ~。お詫びに頬っぺたをむにむにさせろ」
「うに~コーチやめて~」
祐乃の顔を見てシンは安心したのか、頬っぺたを伸ばして遊ぶ。
微笑ましい光景ではあるが、愛那はそんな2人のやり取りに割って入った。
「心配したんだからね。LINEの返信はちゃんとしなさいよね」
愛那は両手を腰に当て、祐乃に視線を合わせる。
もっともな指摘をされ、祐乃はしょんぼりと肩を落とした。
「ご、ごめんなさい。今、お母さんにスマホ取られてて…」
「…は? それマジ?」
祐乃の言葉にいち早く反応したのは、まさかのカレンであった。
気だるそうな態度から打って変わり、ピシッと姿勢を正し腕を組んでいた。
「スマホ没収とか普通じゃないじゃん。何あったの?」
「三者面談でボクの成績がわるいこと知られちゃって…お母さんに『スマホは禁止。勉強しろ』って…」
祐乃の言い分を聞きながら、カレンは腕を組みながら、校内の駐車スペースに移動している軽自動車をじっと見つめていた。
「なるほどね…あんた、ずいぶんとダルい事情抱えてんだ…同情するよ」




