75話 ※祐乃視点
イオンを出るとボク達は空き地へ移動した。
「ハヤト。俺の指導を受けたいなら、まずは実力を見せろ。それから考えてやる」
「了解っす」
ハヤトくんは元気良く返事をすると、右腕にマジックギアを装着する。
ボクから10mほど離れ対峙すると、人差し指を突きつける。
「女だろうと容赦しないっすよ!」
「う、うん。よろしくね」
もうすぐ魔法を使った練習試合が始まる。
けど、不思議と緊張していなかった。
今まで、誰かの前で恥を搔くことを酷く恐れていた。
だから今までマジッカ―をするのを避けていたのに――
『大丈夫だ。負けてもいいぜ』
コーチに言われた言葉が脳内によぎる。
すごく嬉しい言葉だった。
負けても怒ったりしない。
コーチはそう言ってくれていた。
「あれ?」
――突然、ぽろっと小さな涙が零れた。
どうして…?
『大丈夫だ。負けてもいいぜ』
またあの言葉が頭をよぎる。
どうして…あの言葉がこんなにも嬉しいのだろうか…
涙が止まらなくなってきた…
どうやらボクの心の中にあるトリガーを引いてしまったらしい。
過去の出来事がフラッシュバックを始めた。
――
――――
――――――
ボクは父親の顔を知らない。
物心がつく前に離婚してしまったからだ。
けど年の離れた4歳の妹がいる。
どこかで出会った男と子どもを作ったらしい。
ボクは妹の父親をは知らない。
再婚はしなかったらしい。
世間から見たら破天荒な母親だ。
しかし、ボクは嫌いではなかった。
ボク達のために夜遅くまで会社で働いているし、まだ手がかかる4歳の妹の世話もしている。
感謝はしていた。
けれど―――
「なんでできないのッ!?」
「…ごめんなさい」
ボクは勉強ができなかった。テストはいつも点数が低い。
通知表の数字は2と3ばかり。
テストがあるたびにボクはお母さんに怒られていた。
「ちゃんとできるようになりなさいッ!」
「…うん」
説教のたびに、ボクはお母さんに謝っていた。
勉強がわからない。つらい。
楽しくない。逃げ出したい。
「なんで家事してないの!洗濯機を回しておいてと言ったでしょ!掃除しときなさいって言ったでしょ!ご飯作っておきなさいって言ったでしょ!なんで何もできてないのッ!? 私、祐樹の世話があるから時間ないのッ!」
「ごめんなさい…」
お母さんに怒られたくない。
だからちゃんとやりたいのに…何もできない。
だって昨日、洗濯機回したら「今は回さなくていい」って言ったじゃん…
だって昨日、掃除したら「うるさい」って怒ったじゃん…
だって一昨日、ご飯作ったら「栄養が偏ってる」って否定したじゃん…
何をしても怒られる。
だから何をするのも怖くなって…結果、何もできずに毎日怒られていた。
「ごめんなさい…」
何度この言葉を言っただろうか。
ボクは自信を無くしていた。
だからボクは結果を見せるようになるのを避けた。
テストの点数は隠すし通知表も隠す。
ああ、そっか。
だからボク、マジッカ―避けてたんだ。
負けて、怒られるのが嫌だったんだ。
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