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第23話「残念ね。瞳の色が違うのと、性格が捻じ曲がっているのは生まれつきよ。と彼女は意地悪そうに笑った」


――◇――◇――◇――◇――◇――◇―― 


「それで? 君のロッカーに、鶏の死骸を吊るした犯人に心当たりは?」


「そんなの、ありすぎてわからないわよ。私を目の敵にしている人間が、この学園にどれだけいると思っているの?」


 あんた、自分がどれくらいモテているか気づいていないの? そう言ってやろうかと思ったけど、なんか腹立たしかったのでやめた。


「てか、クリス。あんた授業は?」


「サボったよ。先生には連絡してある」


 何てことないような涼しい顔だ。おいおい、優等生。それでいいのか?


「それよりも、君のことだ。また悪質な嫌がらせに巻き込まれないために、どうすればいいのか。犯行は今回だけで終わると思うかい?」


「絶対に無いわね。放っておけば、絶対に二度目、三度目がある」


 ロッカーを燃やされた時だって、それまでの嫌がらせを、ずっと無視したからだったし。


「となると、まずはミーシャを身の安全を確保しないとね」


「もしくは、犯人を捕まえるか」


「警察に突き出すつもりかい?」


「まさか。ちょっと痛い思いをしてもらって、二度と手を出さないと誓わせるだけよ」


 地面と熱いキスをさせながらね、と私は意地悪く笑う。


 ロッカーを燃やした女は、どうしたんだっけ?

 あー、そうだ。校舎裏に呼び出して、私の『魔法』でぶっ飛ばしたんだっけ。あれは実に爽快だった。おかげで、魔女の呪いだ、とか噂されたけど。 


 あの時のことを思い出していると、クリスが顎に手を当てたまま黙っていた。


「どうしたの。考え事?」


「うん、聞いていいものなのか。ちょっと考えていた」


 クリスは顎に手を当てたまま、私のことをじっと見ている。


「……ミーシャ。僕は君の味方だ。何があっても裏切ることはない。だから、君の過去に踏み込むことを許してほしい」


「もったいぶってないで早く言いなさいよ。何を聞きたいの?」


「君の瞳、……左右が違う色なんだね」


 びくっ、と私の肩が震えた。


「右眼は髪と同じ黒色なのに、左眼は銀色だ。こうして見ても、ほとんどわからないくらいだけど。うん、確かに違う色だ」


「……ッ」


 やばい。上手く言葉が出ない。


「ミーシャ?」


「……そ、そうね。生まれつきなの。でも、あまり目立たないから、ほとんどの人が気づいていないと思う」


 わかりやすく動揺している自分がいる。

 そうか。よりにもよって、こいつに気づかれてしまったか。


 この瞳の色は、私にとって時限爆弾みたいなものだ。どうしても、あの家系と結びつけてしまう。平和で平穏な生活を送るためには、誰にも知られたくない。


 クリスは知らないみたいだけど、この国で瞳の色が違うことは。とても大きな意味を持っているのだから。


「あまり好きじゃないのよ、虹彩異色症オッドアイなんて。医療用の眼帯とかも考えたけど、逆に目立っちゃうしね」


 はぁ、と思わずため息をついてしまう。


「だから、わざわざ髪の色を染めて隠しているのよ。黒髪はあんまり好かれないしね」


「え? その黒髪は地毛じゃないのかい?」


「あー、そっちは気づいていなかったのか。まぁ、ママが黒髪だから、それに合わせる意味もあってね。定期的に首都に帰っては、黒色に染め直しているの。私の本当の髪は、もっと別の色よ」


「そうなのか。綺麗な黒髪だと思っていたけど」


「そう? ありがとね」


 この国で黒髪は珍しい。

 街中を歩いていても、黒髪の親子としか認識されないので、その娘の瞳の色までは気づかない。人の視線を誘導させるための、ちょっとした詐欺師の手口。なんてことを、ママは得意げに言っていた。


「それで? 話したいことは、そんなことじゃないでしょ?」


「あ、あぁ。実はミーシャの過去を、園芸部のドーナ先輩から聞いてね」


「あの先輩、余計なことを」


 ちっ、と行儀悪く舌打ちをする。


「君は子供のころに、実の両親の手から離れて、今の親元で育ったと聞いたけど」


「捨てられた。ドーナ先輩には、そう話したわ」


「……そうだね。それで他人を信じられなくなって、人から距離を取るようになったと」


「それは、生まれつきの性格だけど思うけどね。クリスが思っている以上に、私の性格は捻じ曲がっているから」


 でも、間違いじゃないかも。と、私は続ける。


 頬杖をついて、外を見る。

 昔を思い出すように目を細めながら。


「あの頃は、この世の全てを恨んだわ。見えるものが全部、憎たらしく思えて。幸せそうな人を見る邪魔をしたくなって。本当に最低な人間よね。……ママとパパがいなかったら、今頃はどうなっていたか」


「……そうか」


 それっきり、クリスは黙ってしまう。

 私も同じように黙っていると、彼が思い出したように言った。


「やっぱり、あの喫茶店のコーヒーのほうが美味しいね」


「同感。今度、また飲みに行きましょう」


 私がさり気なく誘うと、彼は嬉しそうに頷く。

 やめてよね、そうやって無邪気に笑うのは。なんか、期待しちゃうじゃない。


「てか、私のことばっかりにズルくない? あんたの話もしなさいよね」


 人の詮索ばかりしておいて、自分の話をしないなんて。不公平にもほどがあることを、今更ながら気がつく。


「そうだね。じゃあ、僕の本当の名前についての話を―」


「あっ、その話はいいです。マジで」


「えっ!?」


 愕然、とクリスがあんぐりと口を開く。


「……僕は、話したいのだけど。自分の正体とか、本当の名前についてを」


「だーから、それはいいって。別の話にしなさい」


 ふん、と鼻をならして顎を立てる。

 クリスの本当の名前とか、正体とか。そんなの話、絶対に聞きたくないね!


「じゃ、じゃあ、僕も母親の話をしようかな」


「お、いいねー。子供時代の失敗した話とか。私、大好きなんだけど」


「えぇ~。そんな話題ないよ」


「いいから、いいから、白状しちゃいなさいよ」


 話すのを渋るクリスを、私はテーブルの下から足で突いて急かす。そんな仲の良い二人の姿を、学食のおばちゃんたちが微笑ましそうに見ていた。



次話更新は、10/6(水)の20時です。

よかったら見てやってください! やっぱり感想、お待ちしています!

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― 新着の感想 ―
[一言] 鶏いりロッカーはなかなかハードですね。 そしてミーシャのオッドアイが関係する家系はいったい?
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