第23話「残念ね。瞳の色が違うのと、性格が捻じ曲がっているのは生まれつきよ。と彼女は意地悪そうに笑った」
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「それで? 君のロッカーに、鶏の死骸を吊るした犯人に心当たりは?」
「そんなの、ありすぎてわからないわよ。私を目の敵にしている人間が、この学園にどれだけいると思っているの?」
あんた、自分がどれくらいモテているか気づいていないの? そう言ってやろうかと思ったけど、なんか腹立たしかったのでやめた。
「てか、クリス。あんた授業は?」
「サボったよ。先生には連絡してある」
何てことないような涼しい顔だ。おいおい、優等生。それでいいのか?
「それよりも、君のことだ。また悪質な嫌がらせに巻き込まれないために、どうすればいいのか。犯行は今回だけで終わると思うかい?」
「絶対に無いわね。放っておけば、絶対に二度目、三度目がある」
ロッカーを燃やされた時だって、それまでの嫌がらせを、ずっと無視したからだったし。
「となると、まずはミーシャを身の安全を確保しないとね」
「もしくは、犯人を捕まえるか」
「警察に突き出すつもりかい?」
「まさか。ちょっと痛い思いをしてもらって、二度と手を出さないと誓わせるだけよ」
地面と熱いキスをさせながらね、と私は意地悪く笑う。
ロッカーを燃やした女は、どうしたんだっけ?
あー、そうだ。校舎裏に呼び出して、私の『魔法』でぶっ飛ばしたんだっけ。あれは実に爽快だった。おかげで、魔女の呪いだ、とか噂されたけど。
あの時のことを思い出していると、クリスが顎に手を当てたまま黙っていた。
「どうしたの。考え事?」
「うん、聞いていいものなのか。ちょっと考えていた」
クリスは顎に手を当てたまま、私のことをじっと見ている。
「……ミーシャ。僕は君の味方だ。何があっても裏切ることはない。だから、君の過去に踏み込むことを許してほしい」
「もったいぶってないで早く言いなさいよ。何を聞きたいの?」
「君の瞳、……左右が違う色なんだね」
びくっ、と私の肩が震えた。
「右眼は髪と同じ黒色なのに、左眼は銀色だ。こうして見ても、ほとんどわからないくらいだけど。うん、確かに違う色だ」
「……ッ」
やばい。上手く言葉が出ない。
「ミーシャ?」
「……そ、そうね。生まれつきなの。でも、あまり目立たないから、ほとんどの人が気づいていないと思う」
わかりやすく動揺している自分がいる。
そうか。よりにもよって、こいつに気づかれてしまったか。
この瞳の色は、私にとって時限爆弾みたいなものだ。どうしても、あの家系と結びつけてしまう。平和で平穏な生活を送るためには、誰にも知られたくない。
クリスは知らないみたいだけど、この国で瞳の色が違うことは。とても大きな意味を持っているのだから。
「あまり好きじゃないのよ、虹彩異色症なんて。医療用の眼帯とかも考えたけど、逆に目立っちゃうしね」
はぁ、と思わずため息をついてしまう。
「だから、わざわざ髪の色を染めて隠しているのよ。黒髪はあんまり好かれないしね」
「え? その黒髪は地毛じゃないのかい?」
「あー、そっちは気づいていなかったのか。まぁ、ママが黒髪だから、それに合わせる意味もあってね。定期的に首都に帰っては、黒色に染め直しているの。私の本当の髪は、もっと別の色よ」
「そうなのか。綺麗な黒髪だと思っていたけど」
「そう? ありがとね」
この国で黒髪は珍しい。
街中を歩いていても、黒髪の親子としか認識されないので、その娘の瞳の色までは気づかない。人の視線を誘導させるための、ちょっとした詐欺師の手口。なんてことを、ママは得意げに言っていた。
「それで? 話したいことは、そんなことじゃないでしょ?」
「あ、あぁ。実はミーシャの過去を、園芸部のドーナ先輩から聞いてね」
「あの先輩、余計なことを」
ちっ、と行儀悪く舌打ちをする。
「君は子供のころに、実の両親の手から離れて、今の親元で育ったと聞いたけど」
「捨てられた。ドーナ先輩には、そう話したわ」
「……そうだね。それで他人を信じられなくなって、人から距離を取るようになったと」
「それは、生まれつきの性格だけど思うけどね。クリスが思っている以上に、私の性格は捻じ曲がっているから」
でも、間違いじゃないかも。と、私は続ける。
頬杖をついて、外を見る。
昔を思い出すように目を細めながら。
「あの頃は、この世の全てを恨んだわ。見えるものが全部、憎たらしく思えて。幸せそうな人を見る邪魔をしたくなって。本当に最低な人間よね。……ママとパパがいなかったら、今頃はどうなっていたか」
「……そうか」
それっきり、クリスは黙ってしまう。
私も同じように黙っていると、彼が思い出したように言った。
「やっぱり、あの喫茶店のコーヒーのほうが美味しいね」
「同感。今度、また飲みに行きましょう」
私がさり気なく誘うと、彼は嬉しそうに頷く。
やめてよね、そうやって無邪気に笑うのは。なんか、期待しちゃうじゃない。
「てか、私のことばっかりにズルくない? あんたの話もしなさいよね」
人の詮索ばかりしておいて、自分の話をしないなんて。不公平にもほどがあることを、今更ながら気がつく。
「そうだね。じゃあ、僕の本当の名前についての話を―」
「あっ、その話はいいです。マジで」
「えっ!?」
愕然、とクリスがあんぐりと口を開く。
「……僕は、話したいのだけど。自分の正体とか、本当の名前についてを」
「だーから、それはいいって。別の話にしなさい」
ふん、と鼻をならして顎を立てる。
クリスの本当の名前とか、正体とか。そんなの話、絶対に聞きたくないね!
「じゃ、じゃあ、僕も母親の話をしようかな」
「お、いいねー。子供時代の失敗した話とか。私、大好きなんだけど」
「えぇ~。そんな話題ないよ」
「いいから、いいから、白状しちゃいなさいよ」
話すのを渋るクリスを、私はテーブルの下から足で突いて急かす。そんな仲の良い二人の姿を、学食のおばちゃんたちが微笑ましそうに見ていた。
次話更新は、10/6(水)の20時です。
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