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愛情の記憶  作者: ぐれこ
ハイリとイオンの真実
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夜が来る

車に乗ると、本当に運転席にカナトがいた。「おかえり」と和やかに微笑んで、バッグから何かを取り出す。


「サクマさん、いりますか?」

「いる。ありがとうございます。」


サクちゃんがカナトから受け取ったのは血液パックだった。車の窓から外に見えないように少し隠れながら飲む。


「魔族の能力使ったんですか?」

「使うわけないでしょう、あんな人多い所で…。でもリカコが危なっかしくて疲れました。」


呆れた顔で言うサクちゃんを見てカナトは声を上げて笑った。


「世話の焼けるお嬢様だね。」


茶化すように言って車を発車させる。

私も笑いながらも、明日学校の友達にどんな顔で会えばいいのか迷っていた。




その頃エミカは第八地区の中学校で自分の担当する授業を終えて職員室に戻った。

昨日も今日もダイゴの事が心配でほとんど仕事に集中できていない。どうにかしてレオナから解放する方法がないのか調べたものの、ネット情報では限界があり、やはり対策チームの方が情報量には長けていた。

今日は対策チームの本部に寄って行こうか、と考えて携帯を取り出した。

カナトが対策チームで少し働いている、という話を昨日本人からメールで聞いた。正直羨ましかった。自分だって出来ることなら一日中本部にいて情報を集めたい。だが、教師の仕事があってそんなことは出来ないのが現状だった。

この後本部に寄る連絡をサクマ宛にメールで送り、さっさと荷物をまとめた。残りの仕事は夜に家でやればいい。


「お先に失礼します。」


学校を出て、本部に向かって歩き出す。携帯を見ながら歩いていたからか、目の前に現れた人物にすぐには気付けなかった。


「こんにちは」


ぞっとするような声にすぐには顔を上げられなかった。深呼吸してから、思い切って顔を上げる。

周りは閑静な住宅街だが、人通りもまだある。そんな中でこの黒いドレスは目立ちすぎるんじゃないか、と思いながら目の前の相手を見つめる。


「やだ、そんな睨まないでよ。エミカ。」

「ダイゴは、どうしてるんですか?」


怯えた態度を見せないように、はきはきとした声で聞く。


「知りたい?」


レオナはエミカに顔を近づけ、楽しそうに聞いた。くっつきそうな近さにエミカは一歩後ずさる。

横目で周りを見て、通りすがる人がこちらを全く気にしていないのが分かった。

今のこの人は、私にしか見えていない。


「…知りたいです。」


レオナの白い手がエミカの頬に触れる。冷たい感触に、背筋が凍った。





カナトがホストの仕事に出かけたのを見送ってから、サクちゃんは自分の腕時計をしきりに気にしていた。


「どうしたの?」


私が聞くと、サクちゃんは「いや…」と口ごもりながら眉をひそめた。


「…今日エミカさん来るって言ってたのに、遅いなと思って…。」

「…残業、とか?」


私が首を傾げて言うがサクちゃんは納得しないようで腕を組んで俯いた。


「なんだか、嫌な予感するな…。」


独り言のようにサクちゃんが呟く。サクちゃんにそう言われると、不安になってしまう。


「サクちゃん、勘に頼ったりしなさそうなのに。」

「頭は堅いが勘は使うぞ。リカコがホストクラブでミズキに襲われた時に駆けつけたのも勘だったしな。」


自分で頭が堅い、と言うサクちゃんに少し笑ってしまう。

先に夕飯にするか、と話し始めた時、突然リビングのドアが開いてお父さんが顔を出した。


「ここにいたのか、サクマ。」

「…何かありました?」


急いでいる様子のお父さんを見てサクちゃんが聞く。


「例の大量殺人がまた出た。今動ける職員呼び出して探しに行かせてる。とりあえず、キユウ起こしてきてくれるか?」


大量殺人と聞いて、私はハッとした。ハイリだ。


「…分かりました。」


サクちゃんが頷くと、お父さんはリビングのドアを閉めて別の職員のところに行ってしまった。

私は出かける準備をするサクちゃんの手を掴んだ。


「私も連れてって!」

「でもリカコあんまり巻きこんだら…」

「ハイリ助けに行きたいの!」


私が必死に頼みこむと、サクちゃんは迷いながら私を見下ろした。


「…やっぱりハイリだと思うか。」

「自分で言ってたの…レオナのこととか、記憶のこととかのストレスで知らないうちに10人も20人も殺しちゃうって…。」


話しながら声が震える。

サクちゃんは「そうか」と頷いて唇を噛んだ。


「…無理するなよ。」


少し間を置いてから言ってサクちゃんがリビングを出る。ついて来てもいい、ということだろう。

私は急いで部屋に上着を取りに行き、サクちゃんの後を追いかけた。



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