瀕死
本部に届いた情報を元に、私とサクちゃんは第七地区に向かった。辺りはもう暗くなってしまったが、まだ人通りもある。以前の大量殺人の時より今日の方が出現した時間はずっと早い。
「どこにいるか分かるの?」
まだ寝起きのキユウさんを引っ張りながらサクちゃんの後を追いかける。
「多分…。近くにいる魔族の気配なら大体は分かる。」
裏路地に入ってすぐ、倒れている人影を見つけた。まだ息はあるが、首から血を流している女の人だった。
「…まだ近くいるな。」
走り出すサクちゃんを再び追いかけ、路地の奥へ奥へと入っていく。
行き止まりに近づいた時、サクちゃんの片目が黄緑色に変わった。
「…いる」
「えっ」
サクちゃんが呟いた次の瞬間、電磁波のような光が私達のすぐ横の壁を掠めていった。
前を見ると、暗がりの中に人影が見えた。
「…ハイリ…」
ハイリの瞳の深い青色が見える。意識の宿っていないその目にぞっとする。
サクちゃんが銃を構えると同時に、ハイリが一気に距離を詰めた。反射的に撃つも軽く避けられ、銃を弾き飛ばされる。
「サクマっ」
キユウさんがハイリの背後から撃つ。銃弾はハイリの肩のあたりを掠めた。
「つ…」
「ハイリ!」
一瞬苦し気に顔を歪めたハイリについ呼びかけてしまうと、ハイリと目が合った。あ、と思った時にはハイリが目の前にいた。
「リカコっ」
サクちゃんの声がしたかと思うと、ハイリの体が力なく倒れた。焦ってその体を支えると、血が地面に垂れた。
おそるおそる見ると、ハイリの腹部を黒い槍が貫通していた。槍は溶けるように消えたが、流血は勢いを増すばかりで止まらない。
「ハイリ!」
ハイリの体を抱きしめたままその場に座りこむ。駆け寄ってきたサクちゃんが急いでハイリの傷口を押さえた。
「勢いで打ちすぎた…」
「今の、サクちゃんが?」
私が聞くと、サクちゃんは気まずそうに頷いた。私を守るためとはいえ、この感じだと致命傷になっていてもおかしくない。
僅かに呼吸しているハイリの傷口が少しでも塞がり始めるのを待つが、一向に治らない。
「リ、カコ…」
小さな声がして、ハイリの顔を覗き込む。僅かに目が開いている。
「ハイリ、大丈夫…」
声をかけて、ハッとした。目の色が、青くない。普通の人間の色だ。
ハイリが私の顔を見て、ぼんやりと呟く。
「…………髪伸びた…?」
その言葉に、私も、サクちゃんもキユウさんも息を飲んだ。
言葉が出なかった。確かに、三年前に比べれば私の髪は随分伸びている。
「…………………イオン…?」
震える声で呼ぶと、ほとんど力の入っていない手で私の腕に触れた。
「リカコの匂い…安心する……」
私に寄り添って呟くその声音がイオンで、泣き出しそうになる。だが、次の瞬間には目を閉じてしまった。
「だ…だめイオン!起きて!」
必死に呼びかけるが、段々息が薄くなってくる。サクちゃんは更に強く指先をめりこませるようにして傷口を押さえると、黄緑色の目を光らせた。
「サクちゃんっ…」
「泣くな。どうにかする。」
サクちゃんは唇を噛み、力をこめた。
「どうするんだよ。」
「治す。無理やり治癒能力分ける。」
「そんなことできるの?」
「分からん。でも…一応あの女の血継いでるんだ、そのくらい出来るかもしれん。」
サクちゃんが深く息を吸い込み、目を閉じる。傷口から、小さな光が出始めた。じりじりと、ゆっくりとだが傷口が埋まり始めた。
「すごい…」
半分ほどの大きさまで傷が小さくなったところで、サクちゃんは手を離した。全てを治すのは無理があるのか、サクちゃん自身もかなり辛そうに顔をしかめた。
「全部治すのは…キツいな…」
息を切らすサクちゃんの背中をキユウさんが撫でる。イオンの呼吸は、さっきよりはいくらか安定していた。
「ありがとう、サクちゃん…」
「…俺のせいだしな…。どうする?このままここに置いていけないだろ。」
私達は顔を見合わせた。血まみれのイオンをここに置いていくわけにもいかない。
イオンの体をサクちゃんに預け、私はのろのろと立ち上がった。
「…お父さんに何て言う?」
「…ちゃんと話すしかないだろ。」
最近あった一連のレオナに関することを、お父さんには詳しく報告できないでいた。この間の私が誘拐された事件だって、私が無事に帰ってきた、ということで終わっていた。
イオンがハイリとして生きている、ということは一言も伝えていない。
「…怒るかな。」
「怒りはしないだろうけど…どうだろうな。」
サクちゃんは苦笑いでイオンを背負った。本部からの車を待ちながら、私達はほとんど何も話せずにいた。




