17~首輪
本日更新分です。
遠い目をして、頭の中で死神と対面していたのだが扉が閉まる音で意識を戻された。
部屋に入ってきた盗賊二人に改めて視線を向けると、扉を閉め、床にランタンを置き、こちら(主に自分)をじっくりと上から下へと無遠慮に見てくる。
またこの展開か…。
リンちゃんの話では奴隷商人に売られるらしいのだが…、移動させられるということか?
それにしては何というか…、装備がおかしい。
盗賊の一人が注射器みたいなものをポケットから出し、もう一人が短い布らしきものを取り出している。
ちなみに注射器の中身の色は、明らかに人体に影響が出そうな紫色である。
………。
……んー
またもや詰んだかな。
いやいや、まだ諦めるな。
すでに膝がガクブル、心臓はドクドクしているが、リンちゃんを庇うように前に立ち、盗賊たちを睨んでおく。
気持ちだけでも前向きにだ。諦めるんじゃない。とりあえず何か策を考えろ…。
盗賊たちはお互いの持ち物を確認して、何かしら会話した後、こちらに下卑た視線を改めて向けて異文化語で話し出した。
「klkl…、jyytjlghyydnhlkll…」
「sjmwydhhpfvzzswrr…」
「m、k、l、sqvrttlyhgmtyrl…」
「jj、jgfllkpp。vbyttsdwwlppl…」
ここで注射器をこちらに見せるように少し掲げた。
話してる内容はさっぱりだが、語尾が全体的に間延びし、こちらを馬鹿にした印象を強く受ける。
「kshjsjjaosffksu…、ghsjhksajicosaswz…」
「ghspa?ssjjofsjcmsaspw?gahsjosjziwsf…」
ここで会話を止めて、注射器をプラプラと振り、こちらの様子を窺う感じでニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら見てくる。
…うん。
なんとなく会話の流れは分かるが一応リンちゃんに確認しておこう。
少しだけ首を動かして、後方にいるであろうリンちゃんに話しかける。
「リンちゃん、今の会話だけど…、移動の話?、それとも別のイベント?」
そう聞いてみると、少しの間の後、震えた声でリンちゃんが答えてくれた。
「……移動の話ではないです。その…、これから薬を使って…、その…」
「うん、わかった。ありがとう。」
そこまで確認できた時点で被せ気味に返事を返す。
つまり いい事 に使う薬な訳だ。
こちらの会話が終わるのを待っていたようで、会話が終わるとこちらに布をもった方の男が近づいてくる。
距離は3mほど、一歩一歩焦らす様に歩幅を少なくして近づいてくる。
距離を詰められる前にまずは首輪がどのように働くか…、実験してみるか。
リンちゃんは攻撃的行動ができなくなるといっていたけど…。さてさて…。
とりあえず、攻撃パターンや攻撃するぞ、という意思は思っても大丈夫らしい。
そして今自分の右手には、効果不明の魔道具(ペットボトル500ml)がある。
説明を受けていたときから持っていた物だ。
それを投げつけようと思っているのだが、とりあえずリンちゃんを離れたところに移動さしておこう。
「リンちゃん、手短に話すけど今から行動を起こすから端っこまで逃げて距離をとっていてほしい。」
と、早口で声をかけている間にも男は距離を詰めてきているので、もう一言声を掛けながら行動を起こす!
「じゃあリンちゃん!すぐ離れてっ!!」
声と共に思いっ切り振りかぶって魔道具を投げつける!!
…という行動は、結果的にいうとできなかった。
右手から魔道具が離れなくて、手を振りかぶった体勢の時に力が強制的に掛かり、腕を上に上げている体勢で止まった。
相手の男はこちらの行動に一瞬体を固めて動きが止まった。コンマ数秒の間だがそれだけでも止まってくれたのは嬉しい。
自分も体は止まっているのだが、自分の考えていた中ではまだマシな部類だった。痛みが走るわけでもなく、意識が途切れる訳でもない。
そのおかげもありすぐ行動を移すことができる。
右手から魔道具を落とし後ろに一度飛び下がる。森で一度は戦ってるんだ。動き出せば体は自然に動く。
飛び下がりながら相手の様子を確認する。
まだ硬直から抜け出せていないのか、顔は驚愕の表情のまま固まっていた。
よし、今度もいけるだろう。
次に考えている行動は、周りを攻撃することによる間接的ダメージ。
足が地面に付いたら、すぐに前に走り出し、足を振りかぶって地面に落とした魔道具を蹴るっ!!
…うん、またもや止まった。
蹴り始めようとした瞬間に強制的に力が掛かり、蹴りきる前に止まってしまう。
無理やりに止まらされた関係でこけそうになるが、何とかそれは耐える。
……んー。
あと今考えているのは、相手の攻撃を利用した受け流しなんだが…。
これは相手の行動によってこちらも合わせなくちゃいけないんだけど、今までの強制具合から思うに、掴む、引っ掛けるとか、ここらへんの行動はできなさそうである。
相手の様子を見ながら、もうぶっつけ本番でいいやと思っていると、相手の男は硬直から解けたのか、驚愕から嗜虐的な笑みに変わり何か言葉を話だした。
「sadj、kkis。dasjjskdsaocs。shigsal…。vjsw、fhjka。」
「…っうっ!?」
相手の動きを待っていると、男が話終えた瞬間、体が固まった。
今度はこちらが驚愕する番だった。
両腕からは力が抜け、足は石になったように固まり、体も動かせない。
首は動いたので視線を下げて体を確認してみるが、森で戦ったときのように蔓が伸びているわけでなく特に異常は見えない。
しかし依然として、首輪の効力の強制的に止まってる感じがし、色々と考えをめぐらした時にリンちゃんの言葉を思い出す。
命令に強制的に従わされる呪いも掛けられている、と。
そこで理解した。
会話の後に動けなくなったということは、何かしら命令されたのだろう…。
こちらが理解しなくても発動するみたいだ。
体を動かそうと必死に力を籠めるが一向に動く気配はない。
力を籠めるのと相反するように力が抜けていく。
「お姉ちゃん!!」
リンちゃんがこちらに向かって叫んでいるが、それに返事をする余裕はない。
そうこうしているうちに相手が目の前までこちらにやってくる。
顔が引きつるのが分かる。体から冷や汗が出てくる。膝が笑い出す。心臓が早鐘を打ち出す。目に涙がたまっていく。
それでも相手を睨みつけてやる。
くっそくっそ!他に手はないのか!
必死に考えをめぐらせるがいい案は何も思いつかない。
こちらの必死な様子に満足したのか、改めて嫌らしい笑みを目の前で浮かべた後、体に手を伸ばしてくる。
必死に動こうとはするが努力むなしく全く動かない。
「…っう…うぐっ…くぬぅ…」
襤褸切れをマントのように着ているだけなので、その下はもちろん裸である。
その中に手を入れられ、胸を掴まれたり先端を摘まれたり、蛇が這うように指を動かしたりと、色々趣向を凝らしてこちらの体を弄ってくる。
それらから逃れようとしても体は動かないのに、刺激による体の反射は動くようで、小刻みに震えると相手はさらに嫌らしい笑みを深めた。
目から涙が溢れだしてくる。口から血を流すほどに歯を食いしばり、血の味が口に広がる。
それらの行為に必死に耐えていると、いきなり体を押され地面に倒れてしまう。
「…っあぐっ!?」
受身を取ろうにも体が動かず、背中から重力に従って倒れ、痛みで息を吐いてしまう。
倒れた自分の上に覆いかぶさるように男も倒れてくる。
汗臭い男の臭いが鼻に付くき、臭いで軽くえづいてしまう。
手で鼻を覆いたいのに体が動かない…。
その間にも男は体のあちこちを弄ってくる…。
リンちゃんもこちらに声を掛けてくれているようだが、何と声を掛けてくれてるのか聞き取れない。
そろそろ心が折れそうになっていると、もう一人の男がいつの間にか自分の近くにいて、注射器を目の前にチラつかせてきた。
その注射器の意味に息を呑む。その後、首筋に注射器を打とうとして来る。
それは や ば い!
渾身の力をこめ、必死に頭を振り注射器を打てないように首を動かす。
しかし顔を押さえつけられ、無理やり動きを封じられた後
ちくっとした痛みが一瞬走り、首筋に注射器を打たれた。
何かが首に流れ込んでくるのが分かる…。
ああ…、これはもう…、だめだ…。
何の薬か分からないがろくなものではないだろう…。
そう思い、意識がブラックアウトしようとした瞬間
注射器を打ってきた男の頭が爆ぜた。




