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楽園の祈り  作者: 大拓 陽
第四章 アドゥリン孤児院編

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【第四章 - 番外編】七夕の願い事

 それは、れいりに出会う前のこと。涙がまだ両親と幸せに暮らしている時の話。

 暑輝の星十九日。それは、涙にとって特別な日だった。それは二日前にあった誕生日とは無関係のもの。


 七夕ーー 年に一度訪れる伝統行事。とはいえ、涙の住むマジカルタウンにそんな行事などなく、ただ商人に東国でそういう行事があるということを聞いただけ。

 でも、星に関する行事があるとは、涙にとってはとても興味深いことだった。


 そして、そんな涙のためにお母さんが毎日作ってくれたのは七夕スイーツ。

 星型のゼリーに、砂糖水に入った甘い星型の人参、後は、ヨーグルトなんかも。そして、紙にお願い事を書く。


 それを、庭に生えている木に結びつけるのだ。

「おねえちゃーん」

 夕食を食べた後、庭で、願い事を書いた紙を木に結びつけている最中、みどりが大きな声で叫びながらこちらへ走ってきた。


 面倒臭いと思い無視した途端、急に抱きつかれて、涙は一瞬体勢を崩す。でも、なんとか立て直してみどりの方を見た。

「どうかした?」


「お姉ちゃん。何、願い事したの?」

 可愛い目でこちらを見つめてくるみどりに涙は答えた。

「え……、星の終焉の計算式」


 それを聞いて、みどりは意味が全く理解できていない様子で、なんなら困惑していた。この、お姉ちゃんは一体何を書いたのだろうと。

「星の終焉っていうのは、この世界が滅びること。私が書いたのは、星の終焉を意図的に遅くする計算式」


 それを聞いても、どうやらみどりは理解できなかったようだ。だから、涙は簡潔に教えた。

「つまり、地球の寿命を伸ばして欲しいっていうお願い。だから、神様にこういう式に書き換えて欲しいってお願いしたの」

「なるほど」


 みどりは、半分分かって半分分かっていなさそうな表情を浮かべた。

「みどりもお願い事書く?」

 そう聞くと、みどりは頷いた。


 そして、手にペンを握ったみどりは、少々下手な字でこう書いた。

『みんなが幸せになれますように」と。

 なんて、優しい子なのだろうか。涙は、みどりが自分の妹であることに誇らしさを覚える。そして、感銘を受けた涙は言う。


「屋台でも行く?今日は、お姉ちゃんがお金出してあげる」

「え、本当に!?」


 ーーそして、屋台にやってきた涙とみどり。

 この辺りの街では考えられないが、マジカルタウンは屋台の文化が根強く、行事が無い日でも常に屋台が開いていた。


「ねぇねぇ!お姉ちゃん。あれ、食べたい!」

 みどりは、屋台を指して言う。

 その屋台の看板にはこう書かれていた『美味しい!是非一度、食べてみませんか?ローカスト』


「きもっ!うっ……」

 吐き気をもよおす見た目。それは、虫だった。

 まるで、バッタのような……いや、バッタよりも気持ち悪い。


 涙がギリ許している虫はてんとう虫くらいだというのに。

「ねぇ、お姉ちゃん」

 そう言うみどりに、涙は中身が寂しいお財布から硬貨を取り出して「自分で買ってきて」と伝えた。


 一体、どんな食の好みをしているのかーー。

 そして、気を紛らわすように、涙は自分のお財布の中身を見た。ほとんど空っぽだった。

 専門書の出版で稼いでいるとはいえ、自分の研究費に使いすぎてしまったのだ。


 と、そんなことを思ったところで、片手に虫を持ったみどりが戻ってくる。

「お姉ちゃん。これ、美味しいよ?」

 と、こちらに、その虫を差し出してくるので、涙は一歩下がった。


「本当に信じられない。生理的に受け付けない」

「え?」

「数字でも証明しきれないくらいキモい。どこの形が人間に気持ち悪さを感じさせているのか分からない。本当に、無理」


 ーーそして、虫を食べ終わったみどりが次に食べたいと言ったのは真っ当な食べ物。肉の串焼きだった。

 そして、今回は涙も食べることに。複雑な味はあまり好きでは無いが、誰かと一緒に食べると言う行為事態はすきだった。


 そして、予想通り財布の中身は空になったので、それを涙に伝え、何故かおごってくれたことに感謝された。そして、そのまま近くの公園で串焼きを食べることになったのだ。


 ベンチに腰掛けた涙は空を見上げる。

 そこには、この季節に見える天の川が空一面に広がっていて、それは誰の心も一瞬で奪い去ってしまうようなものだった。


 横を見ると、みどりが空を見て、口をぽかんと開けていた。そして、感動のあまり危うく落としそうになっていた串焼きを、涙は素早くきゃっちする。

「あ、ありがとうお姉ちゃん!」

 ハッとして、串をもう一度手にとった緑は言う。


「綺麗だよね、本当に。ところで、七夕って何か知ってる?」

「うん。みんなの願いを叶える日でしょ?」

 自信満々にみどりは言った。


「まぁ、それもそうかもね。でも、それ以外。お話もあるんだよ?」

「なになに?教えて!」

「それはね、恋愛のお話」

 涙がそういうと、みどりはちゃんと「教えて」と食いついてきた。それを見て、涙はクスッと笑う。


 そして、思ったのだ。『こんな日がずっと続いてくれるものなら』そんな願いは一番叶えるのが難しい願いなのだと。


今日は七夕だったのでどうしても描きたかった番外編を。

暑輝の星十九日というのは8月19日のことで、旧暦の七夕(今年)になっています。

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