【第三章 - 21】あの子猫ちゃんが……。
ーー数日後。
昨夜、れいりの放った魔法は無事竜を打ち落とし、孤児院も無事。
エリーナが孤児院修復工事のため、という肩書きで収容されている子は帝国の方で保護されるとのことだ。
「お姉ちゃーん」
ナディアは大きな声でそう叫びながら、アステールの胸元へとダイブする。その勢いが強過ぎたのか、力が無さすぎるだけなのかーーアステールは少し背後にふらつくも、なんとか体制を立て直す。
「お久しぶり」
少し威勢は感じられなかったけれど、アステールは微笑んで落ち着いた表情で言った。
そうして、この双子の姉妹は久しぶりの再会を果たしたのであった。
「それで、貴方は一体ーー」
甘猫が尋ねたのは、アステールを引き取ってくれていたおばあさん。落ち着いた雰囲気の彼女は、どうやらアステールと昔からの顔見知りだったようで。
「私はね、アステールがまだ小さかった頃、あのこの面倒を見ていたの。あの子の親は多忙だったからね」
懐かしむようにおばあさんは言った。
「貴方達が呼んでいるアステールという少女の本名は涙。ナディアと呼んでいる子の本名はみどりというの……」
外の人、れいりを含めその名前のネーミングセンスはどうかと思うが、由来は多分ーーデゼルダの女神が流した涙。それが雨となり、緑となる。そんな神話が由来なのではなかろうか。
すると、甘猫が突然、れいりの耳元で言った。
「あの子達、迎え入れませんか?」
れいりは困惑した。別に、あの子を迎え入れることに困惑した訳ではない。甘猫がそう言ったことに困惑したのだ。
この、自分のメイドであり、この控えめな愛おしい子猫ちゃんが?この、人を喜ばせられれば何でも良い、ちょっとはずれた猫ちゃんが?そう言ったのだ。
れいりは、よく娯楽小説に出てくる自分の子供が初めて立った時のあの喜びの意味を理解したような気分になった。
「何考えているんです?私はかなり自主的な方だと思いますよーーただ、いつも都合が良い風に受け取られるだけです」
「え?」
何故、見透かされているのだろうか。
「れいり様をもうかれこれ365日くらいずーっと見てて、毎朝3時間くらい起こしているのに、まだ見透せないと思っているなんて……れいり様もまだまだですね。それで、どうなんです?提案してもいいですか?」
その件に間しては全くもって問題なかった。もうそろそろ、れいりも一人暮らし?いや、年齢的に家を出ようかと思っていたのだ。
「何々?」
そう言って、食いついてきたのはナディアことみどりだった。
「あの……もし良かったら一緒に住みませんか?」
「ねぇ、お姉ちゃん。それ本当?」
目を輝かせてナディアは尋ねた。
すると、背後から落ち着いてとも言いたげに、アステールこと涙が近づいてきて……。
「そういうのは社会で言うお世辞なの。そういうのはあまり信じない方が良いと思う」
こっちはこっちで、正直すぎるような……。
「お世辞なんかじゃ無いですよ?」
「え?」
それから、まもなく心虹家が二人を迎え入れたのは約一ヶ月後くらいの話だったーー。




