【第三章 - 20】そんなに、彼女を殺したいのならーー
そして、外に出た甘猫と対峙することとなった竜。
とはいえ、まぁ、今の甘猫の実力では倒せないのもまた事実。ただの時間稼ぎなので、とてつもなく暇なのである。
それというのも、正直、この竜を倒せないのは重力操作とかいう厄介なギミックの問題。
そこまで、本気をだそうとも、ただ体力を消耗するだけなので、必要最低限の攻撃を考えつつ、甘猫は重力魔法について深く考えていた。
それは、側から見ればただ竜に指差しをして、ただ一点を見つめているだけのようなもの。こんな、弱そうな侵入者を排除したくて仕方ないやつだって一人くらいは居る。
不運なことに、その人は実在していてーー建物の壁から甘猫を覗いて、黙って様子を伺っていた。
そんな彼女に、彼女の手下のように伺える存在は尋ねた。
「今、攻撃すればすぐに仕留められるのでは?」
「帰れ」彼女は単刀直入に言った。
でも、指示したのにも関わらず。彼女は一向に立ち去る様子を見せなかった。ただ、不思議そうに彼女を見つめているだけ……。
面倒くさく感じ、彼女は一瞬の隙を見て背後に周り込む。そして、彼女の首にナイフを当てて、少しだけ切ってみせた。
彼女は目を瞑った。そして、重心の低い声で、耳元で囁いた。
「そんなに、彼女を殺したいのなら……あなたが囮になり、貴方が死ねば良い」
最後に少し微笑んで、彼女は消えた。
今すぐにでも逃げ出したかった。でも、相手にする人を間違えた。
もう、気がついた時には遅かった。彼女もまた、あの人の犠牲の一人となったのだ。私が近づくと、その黒猫はこちらを凝視して、威嚇してきやがった。
涙を堪えている私を見たのに、彼女は一瞬の躊躇いも無かった。ただ、私の首を切り裂く。
ーー「へぇ……面白い子ね」
孤児院の屋根の上。濃い紫色の髪をした謎めいた女性。ただ、彼女が死ぬ姿を見ていたその人は、笑って言った。
* * *
「それで、こうして、こう!?」
エリーナから星属性の魔法を習っていたれいり。でも、その魔法はあまりにもひどいものだった。
れいりが生み出した星は結合することなく砂となり、そのまま地面へと落下する。まるで山盛りの潮みたいになったその砂が降り注ぐ。
その先はよりにもよって、毎回。何故かエリーナの頭上なのだ。
「全然違う。貴様、普段一体どうやって魔法を習得している」
呆れたエリーナは怒り気味に尋ねた。
「うーん、そうだね。魔法の感覚を掴んだり計算能力も高い、はずなのに。運動神経が悪い彼女は慣れるまで魔法の発動に沢山の時間を要する……ってことは?」
何故か、問いかけてくるれいり。答えは、一つに決まっている。
「魔法陣ーーだろ?」
その答えに、れいりは指パッチンをして「御明答」のウィンクを送る。
でも、エリーナはそれを横目に受け流した。
「じゃあ、魔法陣にするか……。ーー魔法陣か、星属性って魔法陣でも出来るのか?」
「知らない」
この分野は未知数ではあるものの、属性が変わるくらいでそう、魔法陣が使えなくなることなど、そうそう無い……はずなのに……。
それは、まさにフラグであった。
先ほどから幾度なく製図をしているのにも関わらず、全然収まり切らない。
魔法陣の製図の法則を簡潔にすると……直径3cmの物から直径50mの物までが基本。この中に魔術式を書き詰める。
つまり、魔法や術式の内容が難しければ難しいほど魔法陣に書き留める量も多くなるので、大きくなるということ。
ここで一つ問題なのが、星属性の魔法があまりにも難しすぎるあまり、何度製図しても収まり切らないのだ。
頭を悩ませ過ぎた挙句、髪をかき回しているれいりに、エリーナはアドバイスをしてみせた。
「童、魔法陣というのは直径50cm以上のものは発動が出来ないのか?」
「うぅ……分からない。前代未聞すぎるよ、そんな大規模な魔法陣が出来るほどの魔法を歴史上誰も使ったことが無いんだから」
「それなら、対して問題はないだろう。ただ、作ったことが無いだけなのだろう?」
「ただ、計算が難しくなるだけ……」
いつもより少し低い声で、れいりは控えめに言う。
結局れいりは観念し、床に大量の計算式を書き始める。この計算量は普通に終わらせようとしたら約3時間はかかる。でも、今ーー一刻を争う状況にそのような時間など存在していない。
れいりは、とてつもないスピードで式を省略し続け、たったの10分でその式を完成させたのだ。
その光景にはもちろん、エリーナも目を疑う。
その式から連想させたイメージをれいりは頭の上に空想し、その空想は竜の真上に構築された。
前に出した手をれいりが握り締めた時、その魔法は発動するーー。




