第14話 『悪いドラゴンとお姫様』
これは、悪いドラゴンに立ち向かったお姫様の話。
あるとき、人々を困らせる悪いドラゴンがいました。
はじめ、被害は巣の周辺だけでしたが、だんだんと範囲は広がり、国中で悪いドラゴンの吐く火や踏み潰して荒らされた畑がそこかしこに見られるようになってしまったのです。
こうなっては、人々は安心して暮らしていくことができません。
そこで、一人のお姫様が手を挙げ、こう言いました。
「わたしなら、悪いドラゴンを改心させられるかもしれません」
お姫様は巣へ向かい、悪いドラゴンと対峙しました。誠心誠意、言葉を尽くします。
「どうかお願いですから、人々を困らせないでください」
何度も何度も、お姫様は悪いドラゴンへ語りかけます。
しかし、悪いドラゴンはお姫様に見向きもしません。それどころか、巣を長く空けては遠くの土地にたくさんの被害を出すようになってしまいました。
お姫様はやむなく、悪いドラゴンを退治しなくてはならない、と考えます。
「これ以上、人々が被害を受けるくらいなら、わたしが命を賭してでも止めなくては」
そうして、巣に帰ってきた悪いドラゴンの前に飛び出したお姫様は、宝物の短剣を手に戦いを挑みます。
さしもの悪いドラゴンも、不意を突かれて喉元を刺されては致命傷です。あっという間に、悪いドラゴンはどうと地に伏しました。
お姫様は、気付いてしまいました。
「長く人々をこんなにも困らせた悪いドラゴンが、こんなにも簡単に死んでしまうものなの?」
そうではないのです。
悪いドラゴンは、誰も怯えて退治しなかっただけで、強くも何ともありません。
大きな体で畑を潰し、森の木々を粉々にしていたけれど、そもそも人々は誰一人として悪いドラゴンと戦っていなかったのです。
悪いドラゴンとの戦いを恐れ、大きな体に怯え、武器を持つことすらためらった。その結果、悪いドラゴンはお姫様でも倒せる程度だった、と知られなかっただけなのです。
あっけなく死んでしまった悪いドラゴンを、お姫様は誰かに知られる前にすべて切り刻み、巣の中に隠しました。さらに、たくさんの油を撒いて燃やします。
「悪いドラゴンは勇者に倒されるもの、と物語では定まっています。わたしは勇者ではありません。勇者はここに来ていませんし、わたしが倒したことにしてはいけない」
悪いドラゴンの死体は一週間も燃えつづけ、巣は真っ黒になり、誰も立ち入ることができないほどになりました。
お姫様は、人々のもとへ戻ってこう言いました。
「悪いドラゴンは、自らの行いを悔いて死を選びました。ただ、わたしは話しかけつづけましたが、わたしの言葉はきっと心に響かなかったのでしょう」
こうして、お姫様は自分のなしたことではない、と念押しして、悪いドラゴン退治は幕を閉じました。
悪いドラゴンの巣は今も煤だらけの真っ黒で、とても人の立ち入るはできないままです。
その後、お姫様はどこかへ人知れず消えてしまい、人々は探しましたがついにその姿を見つけることはできませんでした。
ですが、もしまた悪いドラゴンが現れたとき、きっとお姫様は戻ってくることでしょう。
人々はそう信じて、今もお姫様のことを語りつづけます。




