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第11話 「動き出した運命」

「それで? 何か進捗はあったのか?」


「ハッ、陛下。逃亡した例の者たちでありますが、あの奇妙な乗り物の痕跡がコモロック森林の街道で発見されたようです」


宰相の言葉に王は一度作業の手を止め、持っていた鷹の羽ペンをインク壺に収めた。

やっとか、と王は思う。奴らは王家の紋章を何ともメチャクチャな乗り物に利用し、その品格を貶めた。その上、南東のカラブッカからわざわざ取り寄せたお気に入りの紅の絨毯が黒く汚され、ガラス職人に特注で造らせた美しい大窓も破壊された。そして奴らは転移魔法が使えるという魔族である。


そんな者達をおいそれと逃がせるわけがない。もしも逃してしまえば自分の気が済まないばかりか、王家に対する世間からの信頼が下がるのだ。求心力の低下とは即ち支配者としての死。そんなことは絶対に阻止しなければならない。


王は静かに席を立ち、執務室の大窓を通して南門の方角を眺める。ここからはちょうど宰相が話にあげていたコモロック森林が見えるのだ。王はその深緑に支配された森を目を細めて眺めつつ、不機嫌そうに髭を撫でた。


「コモロック森林の街道とな。となると奴らが向かった先は勇者が生まれた街、エルソルシアである可能性が高いか」


「おっしゃる通りかと」


「面倒だな。あの街道は『夢幻の七色鹿』の縄張りになってから幾つもの商隊が行方不明になっている。奴らがあやつの魔の手にかかっていれば話は早いが、そう上手く事が進むとは思えぬ」


『夢幻の七色鹿』

それは数ある魔物の中でも指で数えられるほどしかいないネームドの強力な個体であり、幻術と生命を操る技を駆使して縄張り内に侵入した敵を木々に串刺しにして殺すという凶悪な魔物として知られる。しかしながら相手が転移魔法を使えるほどの高位の魔族であるならば夢幻の七色鹿から逃げ切ることは容易いだろうし、もしかすると倒している可能性もある。希望的観測をして何も行動しないのは得策ではない。


「そうしてもう一つお耳に入れたいことが」


「なんだ、申してみよ」


「勇者一行が魔族四大公爵家が内の魔族領南部を支配するファストニア家当主、ファストニア=ウェルヘンを打ち破りました。近いうちに故郷であるエルソルシアに戻り、一度体勢を立て直すつもりのようです」


その言葉に王は口角を上げ、宰相の方を振り返る。ファストニア公爵家の領土はウェンディルヘン王国の北方に隣接しており、公爵が所有している水魔法に優れた魔術師軍団は戦線維持能力が非常に高いことで有名だ。そして勇者がその頭を潰したとなれば、これからの魔族領侵攻が優位に進められることが予想される。


「いい知らせだ。これからはあの忌々しい矢を弾く水の防御魔法に頭を悩ませされることは減るだろう。しかし……」


「問題は勇者の帰省を狙った魔族側の襲撃でしょうな」


「その通りだ」


魔族の用いる転移魔法にはマーカーと呼ばれる強い魔力を帯びた道具が必要とされる。その道具がない限り魔族は特定の場所に転移することができない。しかしながらマーカーは基本的に強い魔力さえ帯びていればいいため、例の魔族たちはきっと宝物庫にある上位の魔道具をマーカーとして飛んできたと考えられる。なんとも手荒い手段ではあるが、相手側も四大公爵家の一つを潰され慌てているのだろう。


「ふむ。兎も角伝令を勇者に送るぞ。現在使われているエルソルシアまでのルートとコモロック森林を通る最短ルートの二つで出す。また、あの刺客を倒すための討伐軍を編成してエルソルシアに行軍させろ。勇者は我々の主戦力だ。なんとしてでも守らなければ」






△▼△▼△






「ウェルヘンがやられたか」


「困ったのぉ、困ったのじゃ」


「ふふふ、しかし奴は四天王の中でも最弱……。まだまだ焦る時ではない」


「ひ、ひどいですよ魔王様っ!! 本人の前でそんなこと言わないでくださいよぉ! 私泣いちゃいますよぉ? うえーん!」


「あ、ちょ、泣かないで、泣かないでってば!」


「大丈夫なの、ウェルちゃん。そんなに悲観しなくてもいいなの」


一方魔王城では魔王とそれに仕える四大公爵家当主、またの名を四天王たちが集結していた。


「というかみんなしてなんなんですか!? こんな真っ暗い中でたくさんの蝋燭だけつけて会議なんて! まだ今お昼なんですよ? 蝋燭勿体無いじゃないですか、カーテンを開ければお日様の光が入ってきますよ? 魔王様は厨二病なんですか? お気を病んでるんですか!? それともいつの間にか吸血鬼になっちゃったんですか? 私心配です!」


「え、えぇ。ま、まあ雰囲気出るかなぁって」


「魔王様、、、」


「な、何よ、ウェル」


「魔王様は一本の蝋燭を買うのにどれだけのお金が必要なのか知っているのですか!?」


「え、えぇ? し、知らないわよ」


「いいですか魔王様っ! 一本の蝋燭を買う金額は貧しい農民の子供達を何日か養えるくらいのお金に相当するんですっ! こんなことに使うお金があるなら孤児院に寄付してくださいッ!」


「えぇ、、、な、なんかごめんなさい。セバスチャン、蝋燭の火全部切ってカーテンを開けてもらえるかしら」


「わかりましたお嬢様」


魔王のそばに立っていた男が一度指を鳴らすとあたりの蝋燭の火がいっぺんに消え、二度指を鳴らすと大窓からの光を遮っていた真紅のカーテンが開かれた。


「ええと、これでいいかしら?」


「もちろんです!」


ウェルヘンがにこやかに微笑んだのを確認した魔王は一度下を向いてため息をつく。


「ま、まあ。とりあえず会議を始めましょうか」


「魔王様。一度その前に私からウェルヘンに質問をしてもいいだろうか?」


「あら、アントーン。あなたから質問なんて珍しいじゃない」


「敵を倒す上で相手の情報は欠かせない。勇者と実際に対峙したウェルヘンに勇者の特徴や戦い方を聞きたいのだ」


その言葉を聞いた瞬間、ウェルヘンが興奮した様子で席を立ち、前のめりになってテーブルに手をついた。


「はっ! そうですよ、そうですよ! 聞いてくださいみなさん! 勇者は酷い人なんですよ!」


「一体どういうふうに酷いのじゃ?」


「これはですね、小鳥さんたちが楽しそうに囀っていた気持ちのいいある朝の出来事です! せっかくのいい天気だったので私はいろんなお花たちが咲き乱れるお庭を散歩していたんですよ。そしたらある時向かい側から楽しそうに談話する声が聞こえたんです。楽しそうだなぁ、と思って様子を伺ってみたらなんとびっくり勇者一行がそこにいたんです」


「それはびっくりなの」


「なんと不運な出来事なのじゃ」


「それでですね、それでですね、よく見てみたら勇者の周りにたくさんの女の子たちがいたんです! みんな楽しそうに勇者と話していました。これってとてもふしだらですよね! アルター教では一人の男の人に一人の奥さんしかダメだって決められてるじゃないですか。なのに勇者はたくさんの奥さんを持っていたんですッ!」


「え、えぇ。楽しそうに喋ったらそれで奥さんに、ねえ、、、」


「そ、それはなんかちょっと違うと思うの」


「でもこれだけじゃないんです! 私その様子を見てたらなんだか楽しそうだな、良いなぁ、羨ましいなぁってなって、茂みを飛び出して勇者に仲間に入れてくれって頼んだんです!」


「おいちょっと待てここに裏切り者がいるぞ」


「え、えぇ、、、」


「そしたら勇者はよく知らない女の子を仲間にできるわけないでしょって! だから私、自分はファストニア公爵家の当主、ファストニア=ウェルヘンだから身元はしっかりしてるでしょって言ったんです。そしたら勇者が何をしたと思います? いきなり切り掛かってきたんですよッ!!! まさに悪魔です、殺人鬼です、狂人です! だから勇者は酷い人なんです!! 私怖くてそのままお家に帰ったくらいですもん!」


「確かに勇者はクズじゃな。ワシが会った時にはブチブチにしてすり潰してやろう」


「つまり、戦ってない、だと、、、」


「え、えぇ、、、誰だよこの子を四天王に選んだの、、、いや、私か」


「ウェルちゃん可哀想なの」


「……うむ。次はワシが勇者を倒しに行くかの。異論はなかろう?」


「え、ええ。ライトスなら信用できるわ。なんとか勇者を討ち取ってきてちょうだい」





こうして、運命の歯車は回り出す。

それぞれの陣営が、それぞれの思惑を持って本格的に動き出したのだ。


しかし彼らはまだ知らない。

人を最も殺したとされる悪魔の兵器、自動車。そのおぞましき兵器を素体とした痛車がどれほどのものであるかということを。そしてその持ち主たる佐武郎たちがどれほどゲスであるかといいうことを、、、


運命は、既に狂い始めている。


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