間話27 クリスマス その2
霜月しほ、18歳。
信じられないことに、彼女はまだサンタさんがいると信じている。
『毎年、パパとママにお願いしてサンタさんにお手紙を届けてもらうの。そうしたら、クリスマスの朝には枕元にプレゼントが置かれているわっ。すごいでしょう?』
この前、流石に高校三年生だし、そろそろサンタさんの存在にも気付いているのかなぁ――と。
そう思ってさりげなく聞いてみたら、彼女は目をキラキラと輝かせていた。
しほのご両親は、相変わらず彼女を溺愛しているのだろう。
まだサンタさんのふりをして、しほを喜ばせているようだ。
「うふふっ♪ 何がいいかなぁ……最近、ゲーミングパソコンがほしいと思っているの。30万円くらいするやつ」
勉強はもう終わりなのだろう。
すっかりリラックスモードになったしほが、俺の膝を枕にしながらそんなことを言っていた。
「30万円って……高すぎない?」
「ええ、そうね……でも、パパとママにはなかなか値段が高くておねだりできなかったけれど、サンタさんはお金持ちだから大丈夫よっ」
「い、今ゲーミングパソコンなんて買ったら、受験勉強できなくなるよ? ほら、今年は我慢して、違うものにした方がいいんじゃないかな」
「むむっ。それもそうね」
少し名残惜しそうだけど、しほも今ゲームに熱中したらまずいと理解しているようだ。
良かった……さすがに30万円のクリスマスプレゼントは、しほのご両親も困るだろう。
「じゃあ、えっと――」
と、しほが再び考え込んだ頃。
「ふわぁ……おにーちゃん、ごはんなにー?」
お昼寝から目覚めた梓がリビングにやってきた。
受験に備えて自由登校になっているせいか、最近の梓は昼夜逆転している。今はもう夕方なのだが、彼女にとっては今が寝起きだった。
「こらっ。あずにゃん、夜更かしなんてしたらダメよ?」
「……なんで霜月さんもいるの?」
「ここが私のお家だからよ」
「違うよ!? ここは梓のお家だもん」
俺の家でもあるんだけどなぁ……いつの間にか中山家が梓の所有物になっていた。
梓はいつものようにしほの来訪に顔をしかめながら、冷蔵庫の中をごそごそと漁っていた。
「材料なさそうだし、今日はお寿司でも出前しようよ」
「……ちゃんと肉じゃがの材料買って来てるぞ?」
「見えないもーん。梓、肉じゃがよりお寿司がいいから……あ、もしもし。お寿司の注文をお願いしたいんですけれども――」
そう言って、彼女は本当に出前を取った。
さすが、我が家のお姫様である。相変わらず自由気ままだ……母も梓にはなぜか甘いし、きっとこの出費も目をつぶるんだろうなぁ。
「おにーちゃん、一時間くらいでくるってー」
「……はいはい、受け取っておくよ」
まぁいいや。
肉じゃがは明日のお昼にでも――と考えていると、しほが体を起こして今度は俺の膝の上に座ってきた。
「むぅ」
体育座りで、あぐらをかく俺に体を預けるようにもたれかかってくる。
まるで『あずにゃんだけじゃなくて私にも構って!』と、言わんばかりに存在を主張してきた。
「幸太郎くん?」
「ごめんごめん」
笑いながら謝って、あやすように後ろから抱きしめてあげる。
そうしてようやく、しほは満足そうに息を漏らした。
「ええ、それでいいわ……えへへ~」
小さな体が、すっぽりと腕の中に収まっている。
こうやって密着するのはまだ恥ずかしいけど、少しずつ慣れてきてもいた。
「よく妹の前でそんなことできるね。恥ずかしくないの?」
そして、梓も俺たちのイチャイチャを見慣れつつあるのだろう。
前まではこういう光景を見るたびにイヤそうな顔をしていたけど、今はもう普通だった。
呆れてはいるけど、それだけである。肩をすくめながら彼女もこたつにやってきて、俺としほの向かい側に座った。
「あ! そういえばあずにゃんは、サンタさんに何をお願いするの?」
そして、話題が再び元に戻る。
サンタさんの話を耳にして、梓は目を丸くした。
「え? サンタさんなんていないよ?」
……あーあ。言っちゃったかぁ。
我が家ではもう、サンタさんはいないことになっている。
梓も中学生までは信じていたけれど、高校生になってからは流石に察していた。
だからこそ、しほの言葉が信じられなかったようで。
「た、たしかに梓は子供っぽいかもしれないけど、さすがにそれくらい分かるもん! サンタさんは、お父さんとお母さんだよ」
ハッキリと、真実を告げていた。
「え…………?」
さて、どうしよう?
梓も悪意はなかっただろうけど、結果的にしほの夢を壊すような発言をしてしまっていた。
しほも、梓と同じように目を丸くしている。
お互いに、お互いの言葉が信じられないようだ。
……さて、俺はどうすればいいんだろう?
しほの夢を壊さないようにフォローするべきか。
あるいは、優しく現実を教えるべきか。
しほのご両親の思いもくみ取ってあげないといけないし……穏便に済ますには、何をすればいいのかな――と、考えていたけれど。
「可哀想に……あずにゃん、夜更かしとかわがままばかり言ってるから、サンタさんが来なくなっちゃったのね?」
しほのご両親は、しっかりとサンタさんの存在を理論で武装していたようだ。
「私のところにはまだサンタさんが来るわよ? だって、私ってとてもいい子だもの!」
あと、しほが自信過剰なので、自分は『サンタさんが来て当然のいい子』だと認識しているからこそ、その論理は筋が通ってしまっていた。
なるほど。霜月家では、いい子の家にサンタが来ると言われているようで……悪い子になった家にはサンタ来なくなる、ということになっている。
だからしほは、この年齢になってもまだサンタさんの存在を信じているみたいだ――




