第三百六十三話 ありふれた日常ラブコメのような その9
【中山幸太郎視点】
(ちょっと、早すぎたかな)
しほの申し訳なさそうな顔を見て、告白したことを少し反省した。
焦っているわけじゃない。だけど、梓に焚きつけられたことを理由に告白するのは、少し卑怯だったかもしれない……と、我に返った
(しほを困らせたいわけじゃないのに)
――付き合いたい。
衝動的にそう思って、相手のことを考えずに思いが先走ってしまった。
こんなことはもう二度とないようにしたいものだ。
(中山幸太郎の『良さ』は、相手のことをちゃんと考えられることなんだから)
相手のことを思いやれること。
それが俺のいいところだと、しほに教えてもらった。
それなのに、自分の欲望を優先するなんて……『中山幸太郎』らしくなかった。
ちゃんと『好き』という気持ちを伝えられたのは良かったけど、もっと他にやりようがあったかもしれない……そう考えると、こちらの方がしほに大して申し訳なくなってきた。
「ごめんな、急に告白なんかして」
謝ると、逆にしほの方が焦ったように首を横に振った。
「いいえ、謝らないで? 私の方が悪いもの」
「いやいや、俺の方が……」
「違う、私がへたれだからっ」
そうやって『ごめんなさい』の応酬が交わされた時だった。
「――なんでそうなるの!?」
いきなり、梓の大声が響いた。
振り返ると、そこには何も持っていない梓がいて……なぜか彼女は、怒ったようにほっぺたを膨らませていたのである。
「結局付き合わないって……なにそれ? 好きすぎて付き合えないとか、今時小学生でも言わないよ!?」
梓にしては珍しく、手厳しい言葉がかけられる。
ふむ……もしかして。
「梓、盗み聞きしてたのか?」
登場のタイミングといい、怒っている内容といい、なんとなく話を聞かれていたような気がしたのである。
「そ、そういうわけじゃないけどっ。ちゃんと二人きりにしてあげるために、遠めのスーパーで買い物してたもん」
「……じゃあ、買い物した荷物はどこにあるんだ?」
今、梓は手ぶらである。
買い物に出かけていたのだとしたら、それはおかしいと思う。
「…………」
俺の指摘に、梓は挙動不審になっていた。
視線がキョロキョロと動いていて、体も忙しなく揺れている……しほもそうなんだけど、どうしてこんなにウソが下手なのだろう?
根がいい子すぎるのか、素直すぎて逆に心配になるくらいだった。
「……あずにゃんったら、おませさんね」
「っ!?!?!?!?」
しほは盗み聞きされたことに対して、やれやれと肩をすくめていた。
まるで『仕方ないなぁ』と言わんばかりの態度である。
相変わらず、梓には強気だ。
「大人の恋愛に口を挟むのはダメよ? あずにゃんの知らない世界があるんだから」
「お、大人? あれが、大人の恋愛!?」
「ええ。あずにゃんにはちょっと過激だったかしら」
「手を繋いでただけなのに!? それ以上のことなんて何もしてなかったよ!」
まぁ、これを大人の恋愛と呼ぶには、ちょっと微笑ましすぎるかな。
俺も、しほも、普通の高校生らしい恋愛をしているとは思えないけど……どちらかと言うと、これは大人っぽいというよりは、梓の指摘通り子供っぽいかもしれない。
しかし、しほはそう思っていないようで。
「か、過激でしょう!? ほら、手を繋いだだけでこんなにニヤニヤしちゃうんだから、過激に決まってるじゃない!」
ゆるみきったほっぺたを見せ付けるように、梓に顔を近づけていた。
そんなしほに、梓はどうしていいか分からないと言わんばかりに、戸惑っていた。
「……確かに、こんな変な顔になるくらいだったら、過激なのかなぁ? いや、でも――そうだ! 梓、誰かと付き合ったことなんてないから、よくよく考えると恋愛なんて分かんないや!?」
……まぁ、そうだよな。
俺も、恋愛に関してはよく分かんない。
何が正解で、何が普通で、何が理想なのか。
その答えは、もしかしたら一人一人、違うのかもしれない――




