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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第五部

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第三百六十三話 ありふれた日常ラブコメのような その9


【中山幸太郎視点】


(ちょっと、早すぎたかな)


 しほの申し訳なさそうな顔を見て、告白したことを少し反省した。

 焦っているわけじゃない。だけど、梓に焚きつけられたことを理由に告白するのは、少し卑怯だったかもしれない……と、我に返った


(しほを困らせたいわけじゃないのに)


 ――付き合いたい。

 衝動的にそう思って、相手のことを考えずに思いが先走ってしまった。


 こんなことはもう二度とないようにしたいものだ。


(中山幸太郎の『良さ』は、相手のことをちゃんと考えられることなんだから)


 相手のことを思いやれること。

 それが俺のいいところだと、しほに教えてもらった。


 それなのに、自分の欲望を優先するなんて……『中山幸太郎』らしくなかった。

 ちゃんと『好き』という気持ちを伝えられたのは良かったけど、もっと他にやりようがあったかもしれない……そう考えると、こちらの方がしほに大して申し訳なくなってきた。


「ごめんな、急に告白なんかして」


 謝ると、逆にしほの方が焦ったように首を横に振った。


「いいえ、謝らないで? 私の方が悪いもの」


「いやいや、俺の方が……」


「違う、私がへたれだからっ」


 そうやって『ごめんなさい』の応酬が交わされた時だった。


「――なんでそうなるの!?」


 いきなり、梓の大声が響いた。

 振り返ると、そこには何も持っていない梓がいて……なぜか彼女は、怒ったようにほっぺたを膨らませていたのである。


「結局付き合わないって……なにそれ? 好きすぎて付き合えないとか、今時小学生でも言わないよ!?」


 梓にしては珍しく、手厳しい言葉がかけられる。

 ふむ……もしかして。


「梓、盗み聞きしてたのか?」


 登場のタイミングといい、怒っている内容といい、なんとなく話を聞かれていたような気がしたのである。


「そ、そういうわけじゃないけどっ。ちゃんと二人きりにしてあげるために、遠めのスーパーで買い物してたもん」


「……じゃあ、買い物した荷物はどこにあるんだ?」


 今、梓は手ぶらである。

 買い物に出かけていたのだとしたら、それはおかしいと思う。


「…………」


 俺の指摘に、梓は挙動不審になっていた。

 視線がキョロキョロと動いていて、体も忙しなく揺れている……しほもそうなんだけど、どうしてこんなにウソが下手なのだろう?


 根がいい子すぎるのか、素直すぎて逆に心配になるくらいだった。


「……あずにゃんったら、おませさんね」


「っ!?!?!?!?」


 しほは盗み聞きされたことに対して、やれやれと肩をすくめていた。

 まるで『仕方ないなぁ』と言わんばかりの態度である。


 相変わらず、梓には強気だ。


「大人の恋愛に口を挟むのはダメよ? あずにゃんの知らない世界があるんだから」


「お、大人? あれが、大人の恋愛!?」


「ええ。あずにゃんにはちょっと過激だったかしら」


「手を繋いでただけなのに!? それ以上のことなんて何もしてなかったよ!」


 まぁ、これを大人の恋愛と呼ぶには、ちょっと微笑ましすぎるかな。

 俺も、しほも、普通の高校生らしい恋愛をしているとは思えないけど……どちらかと言うと、これは大人っぽいというよりは、梓の指摘通り子供っぽいかもしれない。


 しかし、しほはそう思っていないようで。


「か、過激でしょう!? ほら、手を繋いだだけでこんなにニヤニヤしちゃうんだから、過激に決まってるじゃない!」


 ゆるみきったほっぺたを見せ付けるように、梓に顔を近づけていた。

 そんなしほに、梓はどうしていいか分からないと言わんばかりに、戸惑っていた。


「……確かに、こんな変な顔になるくらいだったら、過激なのかなぁ? いや、でも――そうだ! 梓、誰かと付き合ったことなんてないから、よくよく考えると恋愛なんて分かんないや!?」


 ……まぁ、そうだよな。

 俺も、恋愛に関してはよく分かんない。


 何が正解で、何が普通で、何が理想なのか。

 その答えは、もしかしたら一人一人、違うのかもしれない――

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