怪我の功名
「ふむ、完璧だな」
姿見の前で自らの身だしなみをチェックする。
これから合う相手は大事な相手だ。
万全でなければならない
一部の隙も無い完璧な装いに、我ながら惚れ惚れしてしまう。
「入れ」
扉をノックする音が響き、俺は許可を与える。
ゆっくりと扉が開き、執事姿の初老の老人が姿を現す。
王宮で雇い入れている俺付きの執事だ。
彼は「失礼します」と一言断り、俺の傍までやって来る。
その所作は洗礼されており、文句の付けようがない程完璧だ。
「ペペロン王子。カルボ・ナーラ侯爵令嬢様がお見えになられました」
「わかった。直ぐ向かう」
先日王宮に賊が侵入した。
彼女はその事を心配して俺の様子を見に来てくれたのだ。
こんな嬉しい事はない。
今まで彼女は少し俺によそよそしい部分があったが、どうやら過去の事は許してくれた様だ。
王宮の離れにある応接室へと急ぐ。
そこへ向かう途中、彼女との事を思い出す。
最初のあれは本当に大失態だった。
絶世の美女と聞き及んでいたにもかかわらず、出てきたのがブサ……あ、いや。
それ程でもなかったため、つい頭に血が上ってしまったのだ。
だとしてもあれはやり過ぎだった。
あの時は頭がどうかしていたとしか思えない。
いくらブサ……いまいち好みでなかったとはいえ、女性に対してあの態度。
普段の俺からでは考えられない事だ
まあ結果的にあの時の衝突――グーパン――があったからこそ、俺は彼女に本気で惚れこむ事になったのだ。正に怪我の功名と言っていいだろう。
あの時。
彼女に殴られた瞬間、俺の体に激しい電撃が流れ。
俺は真実の愛を知る。
それ以来俺は彼女の虜だ。
「しかし恋とは不思議な物だ……」
「は?」
俺の呟きに、背後から執事の不思議そうな声が返って来る。
「独り言だ。気にしなくていい」
「は」
痘痕もえくぼと言うが、今や彼女が俺には絶世の美女にしか見えない。
初めて会った時はブ……いまいちに感じたのに、これが恋のマジックという奴のだろうか。
何方かと言うと狐につままれた様な感じの気もしなくはないが、まあ些細な事だ。
重要なのは、俺が彼女を求めてるという事なのだから。
早歩きで進んだため、あっという間に彼女の待つ応接室の前へと辿り着く。
彼女に会えるのが嬉しくて、少々急ぎ過ぎた気がするので背後へと視線を投げる。
執事と目が合うと、彼は疲れ一つ見せずにっこりと微笑み、前に出て応接室の扉をノックした。
高齢の彼を疲れさせてしまったかと心配したが、どうやら余計な気回しだった様だ。
「どうぞ」
「失礼します」
静かに扉らが開く。
俺は愛する女性を今すぐ抱きしめたい気持ちを押さえ。
ゆっくりと彼女へと近づき、跪いて彼女の手の甲へとキスを落とす。




