ナルト
「ナルト」
彼女にその名で呼ばれるのはどれくらいぶりだろうか……
今でも覚えている。
病で痩せこけ、ベッドに力なく沈む彼女。
その病気は魔法でも直せず、死に至る不治の病だった。
最早幾ばくも無い彼女は無理やりベッドから体を起こし、彼女は僕にこう言った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「私はもう長くはない……だから、転生しようと思う」
「……転生?」
彼女は今の人生に唯一足りなかったものを、来世で手に入れたいと言う。
それは誰かと恋をし、結ばれて幸せな家庭築くというものだ。
大賢者として富と名声を恣にしてきた彼女が願うには、それは余りにも些細な願いだった。
だけど彼女がそれを望むと言うなら。
僕はその手伝いをしようと心に決める。
「僕も!僕も一緒にお供します!だから連れて行って下さい!」
「駄目よ。貴方はまだ若いんだから。自分の今を生きなさい」
「そんなのどうでもいいんだ!僕は貴方の傍に――」
「ナルト。これは主としての命令よ。貴方は自分の命を大事にしなさい」
「嫌だ!いやだいやだいやだいやだ!」
「お願い。私を困らせないで……」
従魔である僕は、当時彼女の命令に背くことは決してできなかった。
だから頼んだ。
泣いて必死に。
彼女に置いて行かれたくなくて死に物狂いで。
でも駄目だった。
彼女は決して 転生を許してはくれなかったのだ。
どんな時でも、頑張って頼めばいつも最後は笑顔で許してくれた彼女だったが。
転生だけは決して受け入れてくれなかった。
結果僕は彼女に置いて行かれ。
そして彼女を――憎んだ。
それから20年。
10年かけて従魔としての主の命を解除し。
そこから更に10年かけて……僕は自力で転生魔法を完成させる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕を置いて行った彼女への復讐。
それは彼女のちっぽけな願いを邪魔する事だった。
その為転生先に先回りし。
彼女が生まれてすぐに、自我が形成される前に呪いをかけた――
彼女の瞳に。
顔が醜ければ恋愛をしようなんて馬鹿な気は起こさない。
後は彼女の傍で近づく男に片っ端から同じ様な呪いをかけ続ければ、復讐は完成するはずだった。
なのにあの男だ。
あのバカ王子が何をとち狂ったのか、醜く映っていたはずの彼女に本気で惚れてしまった。
あいつさえ。
あいつさえいなければ上手く行っていたのに……
だが、もうそんな事はどうでもいい。
どうでもよくなってしまった。
だって――
「どうして……分かったんですか?」
「理由は色々とあるけど、確信したのは今の貴方の目を見たからよ。私が転生する時も、そんな目をしてたでしょ」
彼女は気づいてくれた。
だからもういいや。
そもそも、本当に復讐がしたかった訳じゃなかったんだ。
彼女が僕の名を呼んでくれた時に、それに気づいてしまった。
僕は只、彼女の傍に居たかっただけなんだと。
でも彼女は僕の事を拒んで転生してしまったから。
だから只、自分を納得させる理由が欲しかった。
彼女の傍に居る理由が……
それに他の奴に……彼女を取られたくなかったんだ。
「泣かないで」
彼女の指が僕の頬にそっと触れる。
自分でも気づかないうちに涙を流してしまっていた様だ。
「僕は……ずっと……貴方に……」
話したい事。
伝えたいことはいっぱいあるのに、言葉が詰まって上手く話せない。
彼女は僕の頭を抱え、優しく抱きしめてくれる。
いつ以来だろう。
こうやって抱きしめられるのは。
僕は彼女にしがみ付き、声を上げて泣いた。
嬉しくて、そして悲しくて。
これが最後だから――
だから今は――
今だけは彼女に甘えよう。




