(Part64)ゲームへ変わる、64から変える。
-開幕からこんなことを言うのもどうかと思うが、[彼]はそんなやつだった。
「この世界が小説なら、そろそろ64話くらいだな」
メタ・ステイトだ。この、どんな大げさな四字熟語を引用しても霞むような変人は、この世界を物語…フィクションだと信じている。
「「…」」
そんなことを急にいうものだから、口をあんぐりと開けて閉じれなくなってしまう者も出るわけで、具体例を挙げると秋野と金田だ。
そもそもここは直利病院へ続く道の上だ。
「あかん、ステイトの変人ッぷりは、俺らじゃ許容しきられへん。はよアークさん迎えに行くぞ…!」
機堂が唸った通り、今日はヴン・アークを迎えにいくために病院を目指すのだ。
そうだ…。この前の戦いで、アークは翼をやられた。まったく俺の不甲斐なさを痛感させられたことだよ…。『円卓の大団』は、この物語をハッピーエンドにするために結成した組織なのに、仲間を不幸にしていい道理はないんだ。
ステイトは心の中で思った。
「でも…君たちが全員揃っている上に、アークが伴っていたにも関わらず…あんな戦いになるとは、まだ信じられないな」
ステイトは、秋野たちが土の魔法使い・孔土文と戦った話を聞かされていた。あの後全員が病院送りになっていたので、ステイト自らが病院に出向いたのだ。
「そんなことなら、俺も戦いに参加するべきだった」
「…何言ッとんねん。アークさんから話聞いとるから、ここにおる全員分かっとるわ…お前がおったら、病院送りになる人数がプラス1されるだけやッたやろ」
膨大な魔力と強力な魔法を持つにもかかわらず、あまりにも魔力燃費の悪い魔法を使う彼は、いつ魔力切れを起こすか分かったものではなかった。そのため、戦いに参加することを仲間から強く止められていたのだ。他でもない、アークは特にそれをさせたくなかった。
「…」
静寂は訪れてから、二十数秒程度で去ってゆく。秋野は、もはや見慣れた建物を目にして、声を出した。
「あっ、そろそろだな…直利病院」
この信号を渡った先…。
「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
「翼はもう大丈夫なんですか…?」
「秋野さん…ありがとうございます。もう、全然大丈夫ですよ。現在の医療は来るところまで来たって感じでしたよ〜」
アークは、あの日、土の斧槍を前に実質的に敗北させられた4人の中で、最も退院が遅れた。
現在の医療技術はすごい。金田のどてっ腹に貫き通された痛々しい穴すらも、あの短期間で治せてしまったのだから。
しかし、規律使いとなると話は全く別だったのだ。厳密に言うと規律使いの、規律使い的な部分となると、だ。人類のほとんどは、翼がなければ角が生えているなんてこともないし体がダイヤモンドのように硬かったり腕が4本あるといった…規律使い的な体の特徴はない。なにせ、人類のほとんどは規律使いでないのだから。
その上、規律使いと一括りにしても、規律使い個人によって体の特徴は全く別物だった。
「そう考えると、翼をあんな期間で治せたのは本当にすごいことだよな」
「その通りですよね。ボス…毎日お見舞いしていただき、ありがとうございました」
「…さ、帰ろう。今日は『円卓の大団』全員が集まってるぞ」
「ああ…!嬉しいですね…!そこまで大ごとに捉えられるのも恥ずかしいですが」
館に着いて、まず声をかけたのは間医キリクだった。『円卓の大団』に所属する変人の一人…名医だ。
「アーク、ようやく退院したか。おめでとう」
「あ…キリクさん。ありがとうございます」
アークとの会話を次で早々に切り上げ、今度は発言の範疇に秋野たちも収める。
「うん。お前含めて、お前ら、あんまり無茶したら駄目だぞ、自分のためにも家族のためにも…あと医療関係者のためにもな!」
こう言うと、クルリと振り返って歩き出す。
床スレスレまでたなびく白衣を揺らしながら、彼は去っていった。
「キリクさんて、一体何者なんだ…?」
秋野の疑問も当然だ。
「いやァ、というか、ここにおるやつらは全員 何者やねん…ッて感じの変人しかおらんわ」
「機堂…失礼だぞ」
「でも柚も正直そう思ッとるやろ」
「う、う〜ん…」
揃いも揃って失礼な奴らである。
変人代表、ステイトが笑う。
「フ…。この大団の共通理念『物語はハッピーエンドであるべきだと思う。そして、この世界は物語かも知れない。』という狂言を信じている奴らだ…まともな奴なんていないさ」
この世界は物語であるということを大前提とし、物語ならハッピーエンドでなければいけないと強く願う、それが『円卓の大団』という集団だった。
「変人でなければ務まらないだろうよ、予言書に記された運命を捻じ曲げて無理矢理ハッピーエンドを作るなんてことは」
ここで、少し気になることができる。
「そういえば私らは、『円卓の大団』のメンバー扱いなんですか?既に」
「ん〜…。入団する?」
「遠慮しときます」
もう既に勝手に入団させられているということはないようで、少し安心した。…本当は、別に入団しても構わないと思っていたのだが。
「そうか。残念。…世界を救うまでの、短い付き合いってことだ」
その後、どこから湧いてきたのかぞろぞろと大団の団員らしい者たちが出てきて、皆が皆、アークの退院を祝っていった。
「慕われてんなー、アークさん」
中心から少し離れた場所で中学生共は話をする。
「そういえば、大団の人で、俺たちに話しかけてくる方って少ないな?」
柚の、ふと思ったことだ。
「いわれてみれば、せやな。いつもは世界各地に散らばってるらしいし、あんまり会う機会自体ないしな」
「大団ってどんな活動してるんだろうな、具体的には」
「あれ、秋野聞いたとこなかったんか?」
「んー聞かないな」
「この前は、キリクさんが、南の方で流行ってる病のワクチンを開発してたよ。特許をとらずに、無償で全世界で使えるようにしたらしい。前にワクチンの実物を見せてもらったよ」
柚とキリクは気が合うようで、たまに話すらしい。
「…それ初耳やわ。今、南で流行ッてる病いうたら、蚊を媒介にしたあのクソヤバいやつやんけ…!」
「私が思ってるよりも、ここってすごいんだなー」
ちなみに、今彼女たちの話に出たワクチンは、7日後に一番大きく報道されるニュースにあるものと同じ名前であった。
「うわっ、あのワクチン…本当の話じゃねーか。なんなんだ…あの集団」
あの集団がなになのかというと、本気で世界を救おうとしている集団である。
ピ。
-気になる内容を見終えると、[彼女]はテレビを消してソファから腰を上げる。
「…」
いい天気であることと因果関係はないが、彼女はこれから外出だ。潔癖症の母は、やはり気に留めることがなかった。
たとえ、魔力切れ、という本来ただの日常を送る分でまずありえない症状に侵されたとしても、秋野の母は心配しなかった。やあ、病院から帰ってきた秋野の体の汚れを心配したくらいだ。
つまり、母さんにとっては、家が清潔な状態である…ということが全てで、それ以外のことはどうでもいいんだよな。まあ、むしろそのおかげで私は、外で好き勝手やらせてもらってるけど。
こんなことを急に考えたのは、かの者たちのせいだ。魔力切れで病院送りになったことを親があまりに心配するものだから、金田と機堂は大変だったらしい。特に、金田は腹に大きな傷を負っていた。
ガチャ。これは、家を出る音だ。家を出たら、小さなテラスに置いてあるギターケースを手に取る。
ガチャ。これは、館の扉に手をかける音だ。『円卓の大団』の館。
く、と取手を引っ張ろうとしたその時、
「あ、」「おッ」「ん?」
こういう偶然はよくあるものだった。
「おお、柚に機堂。お前らも、今から館に入るとこだったのか」
「まァ、土曜は暇やしな。早めに来たわ」
2001年第四土曜日。南あたりのイダ州で蔓延る感染病のワクチンのニュースから始まった今日は、ヴン・アークが直利病院から退院してから丁度一週間経ったことになる。
「秋野、なんか疲れてる?」
金田 柚、彼は鋭い。自身の使う氷魔法のように鋭い台詞に、秋野は白状するしかない。といっても大したことでもないが。
「実はここに来る途中、神候補に会ってさー、戦ってきた」
──!!
と、別に驚くこともない。こういったことは、既に何度かあった。完全にフリー、一人のときにバッタリ敵 神候補に会ってしまうなんてことは。
金田も経験がある。2人とも、結構強くなっているものである。
「でー、どうだったの?負けたか…」
「結論が早すぎんだろ!勝ったわ!楽勝だったわ!相手はどうやら、権利の数が2らしかったわ!」
「おお…!」
ちなみに今回秋野が戦ったのは、奇数なことに、またしても土の魔法使いだった。土の魔法使い自体ありふれた存在だったし孔土文とは別人だったが…その一つ前に戦ったのが孔ということもあり、比較するのが悲しくなるほど秋野にとって楽な戦いだった。
「でも、お前ら今までずッと運 よかッたからええけど、勝てん相手やと理解したらすぐ逃げろよ!それが定石や」
「わーかってるよ、機堂」
そういえば、扉の取手…もといドアノブは握ったままだった。ついこんなところで立ち話をしてしまった。
「入るか──」
ゆっくりと、重量を感じる扉を開こうとしたその瞬間──
ドサリ…!
「「「!!」」」
「聞こえたか、今の音…!?」「ああ、行こう!」と、確認し合う暇もない!
乱暴に扉を開け、3人はすぐ音の聞こえた方へ駆けつけた!すると、そこには…
「す…」
メタ・ステイトが、倒れていた。
「キリクさんを呼んでくる!」
この館にいる医師・キリクを呼びに金田はサッと行ってしまった。
「よし、その間にステイトを運ぶぞ。安静にできる場所に」
「うん。…よい、しょ」
荷物を床に置いてから、2人がかりで優しくステイトの体を抱き運ぶ。
「反応があるんかないんか分からんけど、喋んのも難しそうやな…。回復体位にしとくか」
落ち着けそうな場所に運び終えたら、機堂がステイトの姿勢を回復体位に整えた。これで、様態が多少悪化してもフォローがきく。
「でも、どうして急に…。これは、何の症状や…?」
後は、金田とキリクの到着を待つだけのこの時間。機堂は、ステイトのこの謎の症状について考えていた。どこかで見たことのある調子だったが、それが思い出せない。
「あ…っ!分かった…」
「秋野?」
「魔力切れだ…!」
「…!そッ、そうか…!確かに、魔力切れの状態にピッタシ当てはまる」
しかし、こうなると別の疑問が浮かぶ。
「でも、何で急に?魔法を使っていた様子はなかったけど…」
ここで、今度は機堂の発見だ。
「おい、あれ見ろ秋野」
「あれは…予言書?」
そう、予言書だ。そして、それは、よく見ずともすぐに変化に気づけるほどに変わり果てていた。
「開いてるページ…きッと、ステイトが倒れる直前に読んどッたとこや。そんで、そのページ前後やけど…」
「ああ…すぐ分かった。前まで、そんなに黒いページはなかった…。今じゃ、予言書全体の四分の一が、蝕まれているように黒いじゃないか」
予言書に何が起きているのか、想像もつかなかった…とも言えないのが、賢いことの悲しいところだった。賢い機堂は、ぼんやりとした絶望を想像できていた。
世界の動きを予言している予言書が ああもどす黒くなることが、世界がどうも嫌な変化をしていっていることを示していることであると、ただ感じてしまった。
世界が変わる…




